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第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて

Episode 8

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「メウラどう!?私、前に進めてる?!」
「おう、俺が運ばなくてもいいくらいには速いぞ」
「そっか!なら良かったッ!」

走る速度は変わらない。
しかしながら、私とメウラでは余裕のあり方が全く違う。
まぁそもそもの話、私は自身の身体で。メウラはゴーレムを使って走っているのだから、その分の差は出来てしまう。
だが、今回のコレはそういう話ではない。

私が全力で、それこそ走る事だけに集中して走っているのに対し、メウラは馬型ゴーレムの上で何やら素材アイテムを作れる程には余裕がある。
もしも私に鎖が付いていなければ、恐らく馬型ゴーレムの本気を出しても追いつけないであろう程の強化を入れてこれなのだ。
……『奏上』、ちょっと使い方考えないとかなぁ。

「聞きたいんだけど!」
「なんだー?」
「メウラって!『奏上』、使った後!こんな風なデメリットある!?」
「あー……いや、俺は一回もなったことねぇなぁ。話聞く限り、お前魔術行使以外で使ったんだろ?それもあるんじゃねぇか?俺そういう使い方した事ねぇし。ちなみに俺の方はデメリット喰らったとしても反動ダメージくらいだな」
「そっかぁ!!」

気になったので聞いてみれば。
彼が言う通り、恐らくは使い方によってデメリットも変わる可能性があるのかもしれない。
だがそう考えてみると、戦闘中に使うのも中々考え物だ。
メウラは何でもないように言っているが、それは彼が基本的に後衛……ゴーレムが前衛となって戦うスタイルをとっているためだ。
反動ダメージを喰らったとしても、後ろでゆっくり回復する時間をとる事が出来る。

それと違い、私は前衛や遊撃……敵性モブと近い位置で戦う事が多い。
他にも【血狐】のようにタンクとして働いてくれる魔術も持ってはいるものの、それもそれでメウラのゴーレムのように壁になれるわけではない。
唯一メウラと私の違いとしては、継続回復のシギルを懐に忍ばせておくことが出来る点だろうか。
最近はその起動すらもしていないのだが。

「そこ、左に曲がるぞ」
「了解!」
「そろそろ【海岸】入るから気を付けな。砂に変わるから足取られるぞ」
「オーケィ、【血狐】!」

言われてすぐに、私は【血狐】を発動させ指示を出す。
といっても簡単に、以前からやっていたように。
私の身体に羽衣のように纏わりついてもらおうと、そう思ったのだが……どうやら身体が大きくなったのも相まって、羽衣には留まらず全身鎧のように変化した。

「うわ、すげぇなソレ。尻尾もきちんと出てんぞ。2本」
「私1本しか生えてないんだけどね!」
「あー、違う違う。血の尻尾だ。二尾の狐みたいになってんぞ」
「成程ね!」

どうやら面白い事になっているようだ。
後で少しこの状態での戦闘を試してみるのもいいかもしれない。
だが今回【血狐】を纏ったのはそんな事を考えるためではないのだ。

見えてきた砂浜に対し、私は力強く踏み出した。
通常、砂浜を走る場合は土やアスファルト上を走るのと同じように走ってはいけない。
砂と普通の地面とでは、足を着けた時に返ってくる力に大きな差が出来てしまうからだ。
差があるとどうなるのか。単純な話、それは速度に関わってくる。

……だけど多分、これでいけるはずッ!
踏み込んだ足に伝わってくるのは、先ほどまでと変わらない硬い・・感触。
少なくとも砂を踏んだ時特有の柔らかい感触ではない。
それを感じた私は、自分の考えが上手くいった事に笑う。
【血狐】を砂との間に入れる事によって、足から伝わる力をそのままに走る事が出来ている。

だが、次の瞬間。
足元から風船が弾けるような音が鳴った。
それと共に、一気に私の身体の体勢は崩れ、顔からヘッドスライディングをするように砂浜へと勢いよく転がった。

『――負傷』
「……」
『――進言。無茶』
「……メウラ、乗せてもらっていい?」
「ふっ、ふふっ……あぁ、良いぞ……っ」

何が起こったか?
答えは単純で、踏み込んだ瞬間に発動した【衝撃伝達】が、他の身体強化なども相まって【血狐】の身体の一部……丁度、私の足裏に纏わりついていた部分を衝撃波によって吹き飛ばしたのだ。
風船のように弾けた【血狐】の身体は、足裏から私の身体のバランスを崩し、私自身は転倒した……というわけだ。

前へとすっ飛んでいった私の元に辿り着いたメウラの、馬型ゴーレムの後ろへと無言で乗り、進むように促す。
今度から何かを試す場合はぶっつけ本番でやるのだけはやめておこうと、顔に付いた砂を落としながら私は強く思った。
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