上 下
209 / 269
第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて

Episode 6

しおりを挟む

上層の境内に辿り着いたと共に元の姿へと戻ったフィッシュに対し、お礼と称して適当な深層の敵性モブの素材、私が集めた中で確実に余りそうな『白霧の狐憑巫女』の素材をいくつか渡しておいた。
正直やろうと思えばいつでもソロで攻略可能な巫女さんの素材は、現状では良い交換用の通貨としても利用できるのが有難い所だ。
そのままリスポーンしたバトルールを迎えに行くというフィッシュに別れを告げ、私は作業途中で放って置いてきてしまった煙管の方へと移動して、

「……何やってんの?」
『いや、何でもないぞ。何もやっていない』
「へぇ……?まぁいいや。とりあえずそこどいてくれる?多分アンタがそうやって寝っ転がってる中心辺りに煙管があると思うんだけど」

何故か、私が用意した儀式魔術の中心……煙管を隠すように『白霧の森狐』が丸まって寝ているのを発見した。
……こいつ、なんかやったな?
何か悪い事をした時の犬と似たような行動をしているのが面白い。
そして本人はちゃんと何とか隠し通せると思っているのも良い度胸だ。

「……今何をやったか言えば、許す。言わない場合は」
『……』
「話を今も聴いてると思う巫女さんと一緒に言うまで延々問い詰める」
『……すまん』

流石に2人に詰められるのは嫌だったのか、素直に身体を上げその場から移動する。

「馬鹿狐」
『な、なんだ』
「何した?」
『……我は、足りていないであろう魔力を融通しただけだ』

何故かドライアイスのように、白い霧が全体から染み出している木製の煙管がそこにはあった。
一応考えていた通りではある。あるのだが……『白霧の森狐』が魔力を融通したからなのか私の意図していない部分まで生じている。
……霧が操作してないのに狐の形に……いや、これ普通の狐じゃないな。
細長く、そして小型の霧の狐。
霧が染み出すと同時にそれに変化し、そしてすぐに消えていく。

「……管狐くだきつねって奴かな。成程ねぇ……」

管狐。
様々な伝承があるが、有名なものとしては憑いた、もしくは飼っている主人の意思に応じて品物を回収。
次第に主人は裕福になるが、最終的に75匹ほどにも増えるために維持費を賄えずに結局貧しくなっていく……というものがある。
だが、目の前に存在している煙管から出現している管狐達は身体の維持が出来ておらず、そもそもが魔導生成物として破綻してしまっている。

恐る恐る煙管に手を伸ばしてみれば、染み出してきている管狐がこちらへと威嚇してきたが、身体が霧であるために私の手に触れる前に退ける事が出来ている。
掴んでみると一応は装備アイテムとしてはきちんと出来ているようで、そのまま使えはするだろう。

――――――――――
『煙管:【狐霧】』
種別:補助
等級:中級
効果:!ERROR!【存在が不確定の為、効果が正常に機能していません】!ERROR!
説明:狐憑きは、富と不幸をその所有者にもたらす
   しかしながらこの煙管に宿る狐は、その存在自体が不安定となっている
――――――――――

だが、それだけだ。
効果を見てみると正常に機能していないためか、エラーを吐いている。
言うなれば、素材以上装備アイテム以下という形だろうか。
流石にこれをこのまま使おうとは思えない。
だが、私はこの状態のアイテムを正常なモノとして安定させる方法を知らないのが問題だろう。
……まぁ餅は餅屋って感じかな。

手元に掲示板を開き、似た状況に陥っているプレイヤーが他に居ないかだけを確認する。
すると何個かのスレッドが立てられているのを発見することが出来たため、それらを適当に複数開いておく。
それと共に、メウラのイン状況を確認してメッセージを送っておく。
問題ないようならば通話、もしくはこちらまで来てもらうようにもお願いしておいた。

「……はぁ。まぁ良いわ。とりあえずアンタも悪気があってやったわけじゃないのは分かってるし、今回は確実に事故みたいなものだろうだから」
『すまない、迷惑をかける』
「そう思うなら、今度スパーリングに手伝ってもらうから」
『あぁ、その時はまた本気を出そう』

そう言いながら私はスレッドを流し読みつつ、それに載っている対処法を試していく。
一応、これをやれば何とかなるのだろうなという方法は1つ思い付いているものの、それはそれで最終手段としてとっておきたいのだ。
だからこそそれ以外でどうにかなるのならば良いな、という希望的観測だ。

「さぁて、イベントまでに色々どうにかなるかな……忙しくなるぞぉ……」

魔術の更新に、装備の更新。
それらによる戦闘スタイルの調整など、色々とやる事は多くあるのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...