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第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて
Episode 6
しおりを挟む上層の境内に辿り着いたと共に元の姿へと戻ったフィッシュに対し、お礼と称して適当な深層の敵性モブの素材、私が集めた中で確実に余りそうな『白霧の狐憑巫女』の素材をいくつか渡しておいた。
正直やろうと思えばいつでもソロで攻略可能な巫女さんの素材は、現状では良い交換用の通貨としても利用できるのが有難い所だ。
そのままリスポーンしたバトルールを迎えに行くというフィッシュに別れを告げ、私は作業途中で放って置いてきてしまった煙管の方へと移動して、
「……何やってんの?」
『いや、何でもないぞ。何もやっていない』
「へぇ……?まぁいいや。とりあえずそこどいてくれる?多分アンタがそうやって寝っ転がってる中心辺りに煙管があると思うんだけど」
何故か、私が用意した儀式魔術の中心……煙管を隠すように『白霧の森狐』が丸まって寝ているのを発見した。
……こいつ、なんかやったな?
何か悪い事をした時の犬と似たような行動をしているのが面白い。
そして本人はちゃんと何とか隠し通せると思っているのも良い度胸だ。
「……今何をやったか言えば、許す。言わない場合は」
『……』
「話を今も聴いてると思う巫女さんと一緒に言うまで延々問い詰める」
『……すまん』
流石に2人に詰められるのは嫌だったのか、素直に身体を上げその場から移動する。
「馬鹿狐」
『な、なんだ』
「何した?」
『……我は、足りていないであろう魔力を融通しただけだ』
何故かドライアイスのように、白い霧が全体から染み出している木製の煙管がそこにはあった。
一応考えていた通りではある。あるのだが……『白霧の森狐』が魔力を融通したからなのか私の意図していない部分まで生じている。
……霧が操作してないのに狐の形に……いや、これ普通の狐じゃないな。
細長く、そして小型の霧の狐。
霧が染み出すと同時にそれに変化し、そしてすぐに消えていく。
「……管狐って奴かな。成程ねぇ……」
管狐。
様々な伝承があるが、有名なものとしては憑いた、もしくは飼っている主人の意思に応じて品物を回収。
次第に主人は裕福になるが、最終的に75匹ほどにも増えるために維持費を賄えずに結局貧しくなっていく……というものがある。
だが、目の前に存在している煙管から出現している管狐達は身体の維持が出来ておらず、そもそもが魔導生成物として破綻してしまっている。
恐る恐る煙管に手を伸ばしてみれば、染み出してきている管狐がこちらへと威嚇してきたが、身体が霧であるために私の手に触れる前に退ける事が出来ている。
掴んでみると一応は装備アイテムとしてはきちんと出来ているようで、そのまま使えはするだろう。
――――――――――
『煙管:【狐霧】』
種別:補助
等級:中級
効果:!ERROR!【存在が不確定の為、効果が正常に機能していません】!ERROR!
説明:狐憑きは、富と不幸をその所有者にもたらす
しかしながらこの煙管に宿る狐は、その存在自体が不安定となっている
――――――――――
だが、それだけだ。
効果を見てみると正常に機能していないためか、エラーを吐いている。
言うなれば、素材以上装備アイテム以下という形だろうか。
流石にこれをこのまま使おうとは思えない。
だが、私はこの状態のアイテムを正常なモノとして安定させる方法を知らないのが問題だろう。
……まぁ餅は餅屋って感じかな。
手元に掲示板を開き、似た状況に陥っているプレイヤーが他に居ないかだけを確認する。
すると何個かのスレッドが立てられているのを発見することが出来たため、それらを適当に複数開いておく。
それと共に、メウラのイン状況を確認してメッセージを送っておく。
問題ないようならば通話、もしくはこちらまで来てもらうようにもお願いしておいた。
「……はぁ。まぁ良いわ。とりあえずアンタも悪気があってやったわけじゃないのは分かってるし、今回は確実に事故みたいなものだろうだから」
『すまない、迷惑をかける』
「そう思うなら、今度スパーリングに手伝ってもらうから」
『あぁ、その時はまた本気を出そう』
そう言いながら私はスレッドを流し読みつつ、それに載っている対処法を試していく。
一応、これをやれば何とかなるのだろうなという方法は1つ思い付いているものの、それはそれで最終手段としてとっておきたいのだ。
だからこそそれ以外でどうにかなるのならば良いな、という希望的観測だ。
「さぁて、イベントまでに色々どうにかなるかな……忙しくなるぞぉ……」
魔術の更新に、装備の更新。
それらによる戦闘スタイルの調整など、色々とやる事は多くあるのだから。
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