207 / 269
第6章 雷鳴轟く瘴気の大地にて
Episode 4
しおりを挟む「すいません、お待たせしました」
『いえ、退屈はしてないので大丈夫ですよ。今も貴女の友人と戦っている最中なので』
「あー……フィッシュさんかな?」
朽ちた神社の境内。その中心で目を瞑りながら、何故かシャドウボクシングをしていた巫女さんに声を掛ける。
どうやら動きを分体と連動させて、私の知り合いの誰かと戦っていたようだが……突然動きが変わったら近接系の人ら以外は対応が難しいのではないだろうか。
「まぁ後で多分こっちに連絡が来るでしょう……さてと」
『早速やりますか?』
「やりましょっか」
狐面から濃い霧を引き出し、そしてそれを更に広く、濃く、境内の全体へと広がっていくように操作する。
普通の魔力も何も関係ないただの自然現象の霧だが、それでも舞台装置くらいにはなってくれるだろう。
霧に関係している神へと願うのだ。出来る限りそれらしい要素を集められるなら集めておいた方が何かあった時が楽だ。
……えぇっと、詠唱自体は適当で良いって話……あとメウラが詠唱してたのを思い出すと……。
「んんっ……『場に満ちるは白く境界を分ける世界』。『扱うは一介の魔導を学ぶ獣人也』」
思い出し、そして歌うように言葉を口から出す。
一応言霊と同じように喉に魔力を込め、そして周囲へと響くように言葉を紡ぐ。
【コンテンツ『奏上』の使用を確認しました】
【契約神:天之狭霧神……確認。力の一部が一時的にその身に宿ります】
ログにそれが映ると同時、私の身体に変化が起きる。
といっても、外的な変化ではない。
突然、身体の内側へと熱のある何かが入ってきたのが分かる。
これが神の力という奴なのだろうか。
「『信仰する彼の神に我は乞う』。『魔の力の源を』」
言葉を発すると共にキィンという音が周囲に響き渡る。
ちらと視線を巫女さんへ向けると何もやっていないと首を横に振られた。
『奏上』を使うのは初めてだが、それでもこんな音が周囲に響くといった現象は聞いたことがない。
メウラが使った時も特にこんな現象は起きていなかった……ように思える。
私はあの時戦闘中だったため、確実に起きていなかったとは言えないのだが。
「『我は借り受けた力を新たな力を象るのに用いる』。『魔霧を発する煙管を象るために』」
用途を明確に、受け取る力の方向性を確定させる。
普段扱わないような強い力は、方向性を決めておかないと周囲へと悪影響を及ぼす可能性が存在する。
特に魔術が主な手段として扱われているこの世界では、そういった可能性も考えた上で行動した方が安全だろう。
といっても、魔力などが暴走し悪影響が発生した事件などはゲーム内の掲示板を見る限りは未だ発生していないようだが。
言い終わった瞬間。
周囲の霧が1つの拳大程度の球体へと変化し、私の目の前までふよふよと浮いてやってくる。
それを手に取れば、
【『魔力球:【神】』を入手しました】
【『奏上』により、一定時間プレイヤー:アリアドネのステータスに制限が掛かります】
というログが流れた。
どうやら『奏上』は上手くいったようだ。しかしながら、同時に私の身体に黒い鎖のようなものが巻き付き始めた。
どうやらこの鎖がステータス制限が掛かった時のエフェクトの様だ。
『出来たようですね?』
「そうですね、何かしらのデメリットあるとは思ってましたけどステータス制限かぁ……」
『……上まで戻れますか?私は流石に手伝えないので……』
「んー……いやまぁ、何とか出来るとは思います」
私はウィンドウを開き、フレンドの状態を確認してから通話をかける。
どうせ『惑い霧の森』に居るだろうし、丁度いい。
『――あぁ、お疲れ。どうしたんだい、アリアドネちゃん』
「フィッシュさんどうもです。今うちの深層に居たりします?ちょっと面倒な状況なんで。あ、もしアレだったらバトルールさんだけでも良いんですけど」
『成程ね、神社の方に行けばいい?救援とかそういう話だろう?バトくんは今死に戻り中だから難しいだろうねぇ』
「あー……成程。じゃあよろしくお願いします。侵入許可出しておくんで」
『はーい了解ー』
これで少しすればフィッシュがここへと来てくれることだろう。
通話を切り、巫女さんへと向き直る。
親指を立て笑顔を向けると、少し困ったような笑顔を向けられた。
……あー、巫女さんと戦ってたんだろうなぁ。
「あ、巫女さんは気にしなくていいですよ?」
『えぇ、まぁ……というかあの女性がここへ?』
「そうですね。……あ、隠れておきます?一応非戦闘エリアには設定してますけど、魔術は使えるんで」
『そうしておきましょう……あの人、私の事を食べてこようとするんですよ……』
何処か遠くを見つめている巫女さんの肩に手をそっと置く。
人に食べられる辛さは私も分かる。というか、分かってしまっている。
……あの人、踊り食いっていうか、相手が生きてる状態で食べるからなぁ……。
まぁ彼女のプレイスタイルを否定するつもりはないのだが、アレだけはもう体験したいとは思えない。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ゾンビのプロ セイヴィングロード
石井アドリー
SF
東京で営業職に三年勤め、youtuberとしても活動していた『丘口知夏』は地獄の三日間を独りで逃げ延びていた。
その道中で百貨店の屋上に住む集団に救われたものの、安息の日々は長く続かなかった。
梯子を昇れる個体が現れたことで、ついに屋上の中へ地獄が流れ込んでいく。
信頼していた人までもがゾンビとなった。大切な屋上が崩壊していく。彼女は何もかも諦めかけていた。
「俺はゾンビのプロだ」
自らをそう名乗った謎の筋肉男『谷口貴樹』はロックミュージックを流し、アクション映画の如く盛大にゾンビを殲滅した。
知夏はその姿に惹かれ奮い立った。この手で人を救うたいという願いを胸に、百貨店の屋上から小さな一歩を踏み出す。
その一歩が百貨店を盛大に救い出すことになるとは、彼女はまだ考えてもいなかった。
数を増やし成長までするゾンビの群れに挑み、大都会に取り残された人々を救っていく。
ゾンビのプロとその見習いの二人を軸にしたゾンビパンデミック長編。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる