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第5章 記憶残る白霧の先にて

Episode 25

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「実際問題、どうにか出来るものなのかしら?」
「それについては僕から」

後方へと下がった私達を出迎えたグリムの声に、バトルールが答える。
訝しげなフィッシュを背後に伴って、だが。

「本当に出来るのかい?いや、出来るとは思うけどさ」
「理論上は。……皆さんに説明すると、僕は状態異常回復用の魔術を1つ習得はしています」
「習得は、ということは……何かしらの問題でも?」
「まぁ……その。まだその魔術の等級を上げてないので、対象が自分のみしか効果がないんですよ」

彼の言葉に私含めたクロエ、フィッシュ以外の3人が納得する。
つまりは、だ。

「等級強化するってことよね?素材は?」
「足りてます。というかさっきも何度かやろうとしたんですけど……」

と、ここでバトルールが何やら虚空に手を伸ばし操作を行う。
すると、その瞬間。
RTBNのホムンクルス達を襲っていた敵性モブ達が一斉にこちらへと視線を向けるのを感じた。

「あー、成程?無条件でヘイトが集中するわけですね」
「ねぇちょっと!!こっちの獲物取らないで欲しいんだけどー?!」
「ヘイト取られる方が悪いのではー?」
「クロエ!君、後でぶっ殺すからね!?」

前方からの声をクロエが茶化しつつ、こちらへと真剣な顔で振り向いた。

「対抗策はある、でも今この状況でやるのは無謀、というかリスクの方が高すぎますよね?」
「そういうことですね。……まぁ今回のウェーブは本人が言ってたようにRTBNさんに任せて、各々各自で準備、もしくは戦いたい人は前方に出る形で良いかと……RTBNさんには終わった後で素材の提供が必要だと思いますが」

バトルールの言葉を私はそのままチャットという形でRTBNへと転送する。
彼女はそれを読んだのかどうなのかは分からないが、片手をあげてひらひらと振っていたため恐らくは大丈夫なのだろう。

「よし、本人がオーバーリアクションで返してこないから多分大丈夫かな。こっちはこっちで次回以降の準備をしましょうか」
「「「了解」」」
「RTBNの扱い、結構軽くなってますねぇ……」

何やらクロエが遠い目をしているものの、私達は個人個人の作業を始める事となった。
と、言っても私が出来る事は限られている。
元々私が防衛クエスト前にやろうとしていた等級強化が現状出来ない以上、それ以外をするしかないのだが……どうしても私は魔術言語で何かをするくらいしかないのだ。
それも起動するまでは出来ず、起動一歩手前の状態で止めておかないと断続的に付与される【狂化】の効果で前方で今も戦っているRTBNをホムンクルスやモブごと巻き込んでしまう事になるのだから……まぁ、手持ち無沙汰にもなってしまう。

……あ、そういえばそろそろ仕事終わったかな。
1人、RTBNのような魔術の使い手が知り合い内に居たのだが……仕事か何かで連絡が付かなかった人へと連絡を再度送ってみる。するとだ。

『なんだ?』
「あ、今大丈夫?ちょっと来てほしいんだけど」
『大丈夫と言えば大丈夫だが……もしかして先に送って来てたメッセージの案件がまだ終わってないのか?』
「そういうこと。人手は多い方が良いし……あと、少し個人的にお願いしたい事もあるから頼める?」
『仕方ねぇ……待ってろ、少し街で物資確保してから行く』

連絡が付いたの声に、少しだけ笑いながら対応する。
その様子を見たのか、こちらへとフィッシュがニヤニヤとしながら近寄ってきた。

「おやアリアドネちゃん、なんかゴキゲンだねぇ」
「えぇ、人手が増えそうなんで。それにメイン武器がやっと使えそうなんですよ」
「メイン武器っていうと……あぁ、あの短剣。アレ、今は耐久値がやばいんだっけ?」
「下手に武器やら堅い部分で受けられたらそのままぽっきり逝く程度にはやばいですね」
「使えないじゃあないか」

だから、と私はインベントリ内から使っていた得物であるミストベアーの爪を取り出した。

「ほら、コレ。一応『熊手』の素材なんで似たような事は出来るんですよ。……メインの魔術使えないですけど」
「ダメじゃない?いやまぁ、他が使えるからまだマシか……」
「まぁ丁度いいので、『熊手』もグレードアップさせようかと思って。ほら、ミストヒューマンの剣とか素材として使えそうじゃないです?」

前方へと目を向ける。
未だ戦闘の続くそこで、指揮者のように見えないタクトを振るい続けるRTBNの姿がよく見えた。
一瞬、狙いやすそうだな……と思った瞬間、RTBNがこちらへと振り向き睨んできたため苦笑いを返しておき会話へと戻っていく。

「あの中にちょちょっと突っ込んで、ミストヒューマンの持ってる剣をかっぱらってくればいいんで、まぁ何とか行けるとは思うんですけど」
「……アリアドネちゃんって、たまーにとんでもない事言うよね?」
「そうです?フィッシュさんも出来ますよね?」
「出来るのと実行するのとじゃあ違うんだぜ?」

何故か呆れられたような顔をされたが、私としては普段から理不尽の塊のような事をしているフィッシュにだけは言われたくない。
……よし、じゃあシギルも発動させて……追加で身を守るようの魔術言語も周囲に漂わせておけばいいか。
魔術言語は接触時に発動するようにしておけば問題はないだろう。
広範囲に効果を及ぼすからダメなのだ。個人個人に、触れた相手にだけ効果を及ぼすようにすればいいのだから。

敵性モブから素材が奪えない等の心配はする必要はなかった。
寧ろ奪えないのであれば、以前私はミストシャークからその身体に流れる血を得られていない。
霧を引き出し、傍目から見たら白い霧の塊にしか見えないような濃さになった上で、私は足に力を入れた。

「じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃーい。危なそうだったら助けに入るよ」
「頼みまーす」

見送りのフィッシュに軽く返しつつ。
私は【衝撃伝達】によって一気に前方へと跳ぶように移動した。
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