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第5章 記憶残る白霧の先にて

Episode 18

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「入場許可感謝~っておや?知らない顔が2つあるね?」
「どうも、アリアドネさん。先輩起こしてきました」
「2人ともお疲れ様です。助かりますよ本当……」

私が連絡の取れる数人の内、すぐに連絡がついたのはいつもの先輩後輩コンビの片割れであるバトルールだ。
以前も共闘した彼に事情を話すと、リアルの方で仮眠を取っていたらしいフィッシュを起こしてまで参戦してくれるとのことで、正直ありがたかった。
彼らの強さ自体は私が知っているし、フィッシュの戦闘能力があれば大抵の敵モブは何とかなるだろう。

「うげ、食人狼じゃん」
「そういう君は……あぁ、成程。君がRTBNちゃんか。ホムンクルス使いだったかな?よろしくねぇ」
「出来ればよろしくしたくないんだけど……まぁ、よろしく……」
「あは、よろしくよろしく。そっちは……」
「今日始めたクロエです。よろしくお願いしますね……えーっと」
「あぁ、私はフィッシュ。そっちの男の子はバトルールさ。よろしくねクロエちゃん」

それぞれが自己紹介をしながら、自身の装備を確認しているのを見つつ。
私は何が来ても良いようにと【路を開く刃を】を発動させ、境内入り口付近の石畳に細工をしていく。
所謂、罠のようなものの設置だ。
霧の刃を使い、一度に複数の位置へと魔術言語を刻んでいく。
そこまで難しい事はしない。難しい事をするよりも簡易的に、それでいて効果の高いであろう魔術言語……以前、人狼達の村で扱った、『水を生成』し『踏んだ瞬間に』『凍らせる』、3単語で済む罠だ。
相手が1体ならばそこまで機能しないものの、群れなどの数が多い相手に対しては有効となりえる罠を、今は起動しないようにわざと細工しておく。
というのも、まだ到着していない知り合いが存在しているからだ。

「ただいま戻りました……と、アリアドネさん?」
「あ、灰被りさんお帰りなさい。ちょっとした罠作ってるだけなんで気にしないで大丈夫ですよ。所で案内出来ました?」
「えぇ、そちらについては問題ないですよ」
「久しぶり、というほど時間は経ってないわね。招待ありがとうアリアドネ」
「グリムさん」

そんな事を考えていれば、丁度良く残りのメンバーが到着したようだ。
灰被りと共に境内へと現れたのは、見たことのない黒を基調としたゴシックロリィタ調の服に身を包んだグリムの姿があった。

「防衛クエストが発生するかもしれないって本当かしら」
「十中八九ですね。まぁ1体デカいのが出てくる可能性もありますけど」
「まぁ灰被りも居るんだし、それでも問題はないでしょう?」
「はは……私でも苦手な部類の相手はいるのでどうでしょうね……」

何やら灰被りは私の背後……既に集まっている面々とグリムの間に入り、誰が居るか分からないように移動している。
その顔からは、何か見つかると不味いものがあるように感じられたものの……私が見る限り、特にそのようなものがあるようには見えなかった。

「で?他にもメンバーはいるんでしょう?誰が居るの?」
「えぇっと、フィッシュさんにバトルールさん、あとはRTBNもいますよ」
「あらあの子もいるの。珍しいのね……って灰被り?どうしたの?凄い汗をかいてるように見えるけれど……」
「い、いえ。特に。問題はないです。えぇ。はい」

様子がおかしい灰被りを横目に、私は視線を石畳へと移し魔術言語を刻みつつ話を続ける。

「?……あぁ、後もう1人。今日から始めた初心者さんが居ますね」
「……大丈夫なの?それ。割と難しい可能性あるわよ?」
「一応灰被りさんが連れてきた人なんで問題ないんじゃないかと。名前は――「あ、灰被りさんお帰りなさい~」――あ、丁度良い。こちらの方です」

名前を告げようとした瞬間、後方から灰被りを見つけたらしきクロエの声が聞こえてきた。

「ん?新しい助っ人さんですか?…………うわぁ………」
「あぁ……」
「あれ?ん?知り合いです?」

何やらクロエと灰被りの反応がおかしかったために視線を上へと上げる。
するとそこには、

「……ねぇ、アリアドネ?」
「は、はい」
「私、貴女に話した事あったわよね。霧がトラウマだって」
「そ、そうですね」
「そうなった原因について、話した事はあったかしら」
「なかった、と、思いますね……」

青筋を立て、身体の節々から【黒死斑の靄モラテネラ】が漏れ出しているグリムの姿があった。
それだけで少しだけ事情を察する事が出来る。
過去、どんな因縁があったかは分からないが……クロエとグリムは何かしらのいざこざを起こし、そしてその結果として。
グリムはトラウマになるレベルで霧が苦手となったのだと。

「久しぶりねぇ、クロエェ?」
「あのー、えぇっとぉ。そのぅ、えぇっとォ……お久しぶりです、グリム」
「元気そうねぇ?」
「お、お陰様で……」
「ふふ、どうしたのかしら。そんなに畏まらなくても。私達の仲じゃない。久しぶりだから緊張してるのかしら?」
「あ、あは……」

近くに居る灰被りはと言えば、無言で天を仰ぎながらもフィッシュたちの方へとちゃっかり退避しているのが見え、退避先のフィッシュたちはといえば、何やら私の知らない結界のようなものを展開して被害が自身らに及ばないようにしてから観戦している姿が見えた。
……逃げ遅れた……!

「アリアドネ、少しだけいいかしら?」
「イエスマム!」
「……何よそのテンション。いやまぁいいわ。とりあえず、一度決闘がしたいのだけど良いかしら」
「……決闘ですか?え、初心者狩り?」
「人聞きの悪い事言わないで。この子が本当に戦えるのかどうかを確かめるだけよ。私が使うのも初級……そうね、【黒死斑の靄】を初級レベルでしか使わないわ。それでいて一撃攻撃があたったら終了、ってルールでやるだけよ」
「いやまぁ、私としてはいつクエストが開始されるか分からないので別にいいんですけど……」

ちら、とクロエの方を覗き見る。
すると、その視線に気が付いたのか、彼女は彼女で見てるこちらが怖くなるような笑顔で頷いた。

「大丈夫ですよ。グリムとは顔を合わせたら戦ってたので、これが彼女なりの私に対する挨拶のようなものです。それに、道中見せられてない戦術とか事前に見せておいた方が防衛クエストでの私の配置も考えやすくなると思うので全然大丈夫ですよ」
「クロエさんがそういうならいいですけど……じゃあ決闘システム使ってもらって。あれなら周囲の私達に影響でないんで」

私がそう言うと2人は頷いた後にウィンドウを開き始めた。
何やらクロエの開いているウィンドウの枚数がグリムよりも1枚多いのが気になったものの、程なくしてゲームシステムを使った決闘が始まることとなった。
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