167 / 269
第5章 記憶残る白霧の先にて
Episode 7
しおりを挟む「……詳しい説明とか一切されてないんですけど?」
「アンタ説明するといつも長いって言って来ないじゃない。……あー、アリアドネ。知ってるだろうけど紹介するわ。RTBN……ホムンクルス使いよ」
「よろしくお願いしまーす」
少し待つと、顔をフード付きのローブで隠したプレイヤーが白い馬のような何かでやってきた。
近くまで来ると、その馬は地面に溶けるように消え。
それと共に降りてきたプレイヤーをキザイアが紹介した。
以前見た通り、その姿は魔術師というよりも研究者やそれに類するものに近いイメージを受ける。
イベントの時は聞こえなかったため分からなかったが……どうやら声からすると女性らしい。
「はぁ……で、私はこの人と一緒にダンジョンに行けばいいと?」
「そういうこと。丁度知り合いの中で使役系使えるのがアンタしかいなかったのよ」
「他にも絶対いるでしょう。まぁ良いか……どこに行くの?」
「あぁ、えっと『万象虐使の洞窟』ですね」
私がそう言った瞬間、すごい勢いでこちらを向いてから息を一つ吐いた。
「えっと、アリアドネさん……でしたっけ。敬語じゃなくて大丈夫です。あぁ、こっちも外した方が話しやすいですか?」
「あ、じゃあ外してもらって。初対面だから敬語の方がいいかなって思ったんだけど」
「んー……まぁこっちの理由で。出来る限り敬語で話されたくないだけだよ。嫌な知り合いの顔が思い浮かぶんだ」
そう言いながら笑い声を少しフードの奥で漏らす彼女を見ていると。
私達がそこまで心配ないと思ったのか、キザイアがRTBNへと話しかけた。
「……で、アタシはもう行くけれど大丈夫なの?RTBN」
「ん?あぁ……制限の方なら問題ない。ただ『万象虐使の洞窟』だと今手持ちのホムンクルスだけじゃ厳しいかな。アリアドネさんは使役系どんなタイプのを持ってる?言っても良い範囲で答えてくれると助かる」
「それじゃあ見せたほうが早いかな……っと」
「っ!?」
指で軽く狐面へと触れ、そして引き出すように自身の周囲に霧を展開させる。
何やら霧を展開した瞬間にRTBNが軽く身構えたように見えたものの、私は小さな声で最近呼べていなかった狐達を出現させた。
「【血狐】、【霧狐】……私が使えるのはこの2種だね。攻撃がこっちの赤い方、索敵や補助がこっちの白い方……ってどうしたの?」
「いや、うん。はぁ……キザイア?」
「言ったら来なかったろう、アンタ」
何やら2人して取っ組み合いでも始めそうな雰囲気を醸し出しているが、どういうことなのだろうか。
……なんかグリムさんも似たような反応してたよねぇ。
機会があれば聞いてみるか、と思いつつ。
「えーっと……とりあえず問題はなさそうかな?」
「そうだね、大丈夫だと思う。……ちなみにその霧だけでも索敵って出来たりするの?」
「え?いや出来ないかな。これ普通の霧を発生させてるだけなんで」
それを聞いて、何やら安心したように息を吐く彼女を疑問に思うものの。
私達はそのままキザイアと分かれ、ダンジョンへと向かう事にした。
暫く移動して、辿り着いたそこは山に面している洞窟だった。
パッと見ではダンジョンには見えないそこには立て札が建てられており、『『万象虐使の洞窟』はこちら』という丁寧な案内がついていた。
「ついたーっと」
「じゃ、パパッとボス倒して素材回収することにしますかね」
「了解」
そのまま洞窟の入り口へと足を進め中へと侵入する。
すると、だ。
【ダンジョンに侵入しました】
【『万象虐使の洞窟』 難度:4】
【ダンジョンの特性により、使役系魔術が強制起動しました】
【発動条件を満たしていないため、【霧狐】の強制起動に失敗しました】
いつもより長い侵入通知と共に、周囲の景色が変わっていく。
不思議な事に暗くはなく、しかしながらランタンのような灯りがどこかにあるようには見えない。
ダンジョンの不思議技術ということだろうか。
だが、それに関しては正直私にとってはどうでもいい。
……霧が引き出せない。いや、引き出すと同時にどこかに文字通り霧散していってる?
こちらの方が問題だった。
霧を操作して私の周囲へと留めようとしても、何かの力が働いてどこかへと消えていく。
「もしかして洞窟系ダンジョンって、霧とか気体系の魔術ダメだったりする……?」
「え?知らなかったの?可燃ガスとかそういうのを発生させる魔術でダンジョンが崩落されても困るって事で、運営が途中パッチ当ててたはずだけど」
「……Oh……」
「あー……もしかして、魔術の大半が霧に関係してる、とか?」
「いや、そんなことは……ありますけど大丈夫。大丈夫だから。メインの攻撃魔術は霧使わないし!」
【魔力付与】は問題ない。武器さえ振れるスペースがあれば十分に火力を出してくれるからだ。血術系も、そもそも【血狐】が発動している時点で問題はないだろう。
だが【衝撃伝達】に始まり、【ラクエウス】やつい最近創った【路を開く刃を】など、私の攻撃方法の多くは霧に関係している。
……これ、まずいかなぁ。
いつかの【凍原】の時のように、どうやら私自身の戦力が半減以下になってしまったようだった。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる