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第4章 言の葉は蜃気楼を穿つのか
Episode 38
しおりを挟む最初に私が感じたのは、衝撃波だった。
普段私が足の裏や体の各所に発生させている程度のモノではなく、身体全体を叩きつけるかのような強烈な衝撃波。一瞬身体が浮きそうになるのを『熊手』を床に突き刺すことで抑えながら、何とかして前を見る。
土の塊が落下したためか、今さっきまで周囲を覆っていた霧は吹き飛んでおり。
代わりに土煙が充満し、私の視界を覆っていた。
……メウラとのパーティでの課題はここかなぁ。
彼の攻撃魔術は時間が掛かる代わりに強力なものだ。
しかしそれ故に、パーティメンバー側も考え、そして合わせねばならない部分も存在している。
目の前の土煙なんかもこれからを考える上での課題の1つだ。
メウラ自体はかつての私対策として、霧を見通す事の出来るアイテムか何かを作成しているためいつも通りに私が戦闘を行っても問題はない。
しかしながら、私は色々と自分の都合を優先していたため土煙など、霧以外の方法で視界を塞がれてしまうと途端に索敵能力が並み以下まで下がってしまうのだ。
索敵能力が下がれば、その分敵の攻撃に反応するのが遅くなる。
いくら音などによる索敵が出来るといっても、相手の方が私より早く動いていた場合は迎撃、もしくは防御が間に合わずに死んでいく。
これもどう対応するか、という今後における課題の1つだ。
「どうなった?!」
考えとは別に、口から疑問が出る。
戦闘は終わっていない。
メタな話にはなるが、終わったのならばログが流れ報酬が貰えるはずだから。
だからこそ、私は口にする。敵はどうなったのだと疑問を挙げる。
答えはすぐに来た。
『GARAAAAAA――アァァ?!』
声が響いた。
その声はもがき苦しむようなものから、疑問を投げかけるようなものに。
獣のそれから、人のそれへと変化していた。
「土煙が邪魔でしょう。『風よ吹け、土煙を晴らせ』」
グリムが言霊を使い風を起こす。
そのおかげか、土煙の中のボスの姿が徐々にシルエットから鮮明なモノへと変化していく。
……そういうパターンか。
その姿は人狼ではなく、人へと……戦闘前にフィリップが話をしていた村長の姿へと戻ってしまっていた。
しかしながら、その頭上に浮かんでいる表示はフィリップや村長といったNPCの名前ではなく、
「『偽海市の群狼』……凍りやすかったのはそういうこと?」
蜃気楼の異名として知られている海市の名を冠しているボスの名前へと変わっている。
蜃気楼、結局は空気中の水分などが見せる幻のようなもの。
もしかすればこの遭遇戦に出現していた人狼も、そして広場にて延々と襲い掛かってきていた人狼達も全てが全てこのボスによって作られたものだったかもしれない。
そして、それを考えるのならば。
私達の味方として存在している生きた人間は一体なんなのか。
「……あぁ、そういう目を向けられるのは承知の上さ。君たちには嘘を吐いていたからね」
私が何気なく向けた視線に気が付いたのか、彼は自嘲気味に笑う。
そしてこうも言った。
「私は人間だ。この滅んでしまった村の唯一の生き残り。村長のフリをして、そして村を滅ぼしその上で蜃気楼による村を作り上げた人狼の被害者さ」
「説明、ありがとう。で、あの状態は?」
「私が見た中で一番最初……あの人狼が村にやってきた当時に近いものさ。恐らくはアレも幻覚、蜃気楼なのかもしれないがね。だが言おう。あれこそが本体だと。土の十字架によって仮初の肉体を剝がされた人狼なのだと、霊媒師がこの地に眠る仲間の魂に誓って言おう」
フィリップは大きく左右に手を広げる。
それと共に、彼の周囲には複数の青白い火の玉が出現した。しかしながらそれらは小さい。
1つ1つが蝋燭の灯ほどの大きさしかなく、それらが集まった程度では何も燃やせそうもない。
だがしかし。
普段私が魔術言語など、自身の体内外へとMPを操作する術を扱っているからだろうか。
それらは見た目の大きさに反して膨大なMPをその小さな灯の中に内包している事が分かってしまった。
「もしかしてそれ全部……」
「あぁ、そうだとも。彼らは全て私の同胞。村の仲間達だ。蜃気楼の人狼によって殺され、そして無念の果てに私に全てを託した者たちの成れの果て。今では恨み言しかこちらに話してくれないが……それでも、あの人狼を討つには力を貸してくれる」
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