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第4章 言の葉は蜃気楼を穿つのか

Episode 30

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人型と戦うこと自体に忌避感はない。
そもそもとして、ゲームの敵仮想の存在であることが分かっているからだ。
相手は現実に生きているわけではないし、私達のような感情も持っていない。
ボスはAIによって思考能力をある程度は持っているだろうが、それも結局は仮初のモノだ。
だからこそ、躊躇はしない。
しない……のだが。

「これは卑怯じゃあないかな!?」

私の目の前には人狼ではない・・・・・・幼い子供達が出刃包丁などの物騒な得物をこちらへと向けている光景が広がっていた。
否、これは本物の子供達ではないのだろう。
今私達3人が攻略しようとしているのは、『誘い惑わす村』という【魅了】や【幻覚・・】などの精神に関係する状態異常を付与することに特化している特性を持ったダンジョンだ。

よくよく目を凝らしてみれば、自分のステータス上に【幻覚】というデバフがつけられているのが分かるものの。
それでも流石にこちらへと襲い掛かってくる子供達に刃を向けるのは現実でないにしても気分が少しだけ悪い。
ちらとメウラの方を見てみると、そちらもそちらで苦戦……というよりはどう攻撃したものかを悩んでいるように見えた。

「ちょっと!アリアドネ!なんで手止めてるわけ!?」
「いや!こっち突然人狼が子供達に見え始めたんですもん!流石にこれダガーで倒すの目覚め悪いですって!」
「はぁ?私もそう見えてるけど?」
「えっ」

そんな私達2人を尻目に、グリムはいつも通りに戦闘を行っていた。
といっても、彼女の戦い方は彼女の持つ魔術を使った後手必殺の戦法だ。
相手が何も考えずに突っ込んでくればそのまま【黒死斑の靄】によって吸収され、そしてさらに靄の範囲が広がり彼女が自由に移動できる範囲が増えていく。
私にはない、純粋な魔術だけを使った範囲殲滅型の戦い方。

「うわ……本当だ。靄に突っ込んでは消えてってる……子供達……」
「【幻覚】だってわかってるんだから躊躇する必要ないでしょうに。というか、多分このゲーム扱ってる題材的にこういうの増えるわよ?慣れなさい?」

そう言われてしまうと何も言えなくなってしまう。
確かに、魔術というものを題材にしている都合上……少しは規制されるだろうが、かなりショッキングな絵面も増えることだろう。
設定から外見の変更なども行えるだろうが、今までやってきた設定を変えてすぐに慣れることができるか?と言われると……難しいだろう。
だからこそ、慣れるしかない。

こちらへと襲い掛かってくる幼子……に見える人狼の攻撃を紙一重で避ける。
元々人狼達は出刃訪朝なんてものは持っていなかった。
つまり、そう見えているだけで素手や何かによって攻撃しているに過ぎないのだろう。
攻撃を避けること自体は問題ない。そこまで激しいわけでも、密度が高いわけでもない。
精々が3体同時に襲い掛かってくる程度。少し前にゴブリン達から集団リンチを喰らいかけた私にとっては楽な方だ。

そして攻撃を少ない動きで避けていれば……当然攻撃のチャンスはやってくる。

「……あぁもうッ!」

グリムの言っている事はわかる。
分かってしまうために、理性が止めてしまう身体の動きを無理やりに動かし、ダガーを近くの幼子へと突き立てた。
下手に苦しませないようにと【魔力付与】も発動させ、そのまま相手の身体の中へと突き入ったダガーから脳天へと届くよう魔力の膜を伸ばし、徹底的に相手の身体の中を破壊する。
身体の中を破壊しきると同時光の粒子がその身体から立ち昇り始めたため、私はダガーを引き抜き近くまで迫ってきている他の幼子達の対応へと回った。

ちらと光の粒子の方を見てみれば、いつの間にか幼子の姿はなくなっており。
そこには血を流している人狼の姿が存在した。
……うん、まぁそうだよねぇ。
私は近づいてくる幼子……人狼に視線を戻しつつ、自分の頬を張った。

バチン、という音が周囲に響くものの、それに反応する者は少ない。
こちらを観察するように見ているグリムは少しばかりの笑みを浮かべているし、メウラはメウラで何事だと困惑した顔でこちらを見ている。
しかしながらこれでいい。
現実とゲームは違うし、もしもここが現実だったとしても命を狙われているのに何を甘ったれたことを今まで言っていたのか。

目の前の、こちらへと鍬を振り下ろしてきている幼子は結局の所、こちらの命を狙う敵。
どんな姿をしていようがそれは変わらない。

狐面に触れ、グリムの魔術に干渉しないよう操作しながら一気に霧を出現させる。
グリムには申し訳ないが、一気に人狼達を倒すならばこれは必要な下準備だ。
そしてそのまま霧を操作し魔術言語を構築していきながら、こちらを見失っている幼子に視線を向け、一言。

「【ラクエウス】」

魔術の行使を宣言した。
血と悲鳴が霧の中に木霊し、そして私は笑う。
ここからが本番だ。
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