134 / 269
第4章 言の葉は蜃気楼を穿つのか
Episode 14
しおりを挟む一歩踏み出すと同時、衝撃波が発生し私の身体を前方へと運ぼうとする。
しかしながら、その速度はいつもよりも遅い。
落下速度にですら適用される速度低下が強力に付与されているためか……その速度は何も魔術を使っていない状態で走っているのと同程度しか出ていない。
……思った以上に遅い!
心の内で舌打ちしつつ、目の前の狐を睨む。
どうやら私の速度が予想以上に遅かったのに面を喰らっていたのか、目を見開いているが……すぐさま再度足に力を入れ境内の地面を蹴った。
普段劣化ボスを相手にするよりも数倍の速さを持ってこちらへと向かってくるそれを、どうしようかと思考しつつも身体が勝手に動き反応する。
「【魔力付与】ォ!」
手に持った『熊手』に魔力で出来た膜が出現し、その形をすぐさま盾のように変化させる。
そしてそれを身体の前に突き出すと同時。『白霧の森狐』の突進が盾とぶつかり、その衝撃で私の足が地面から浮き、後ろへと弾き飛ばされる……が、その速度も遅い。
狐の勢い的に、衝撃で吹き飛ばされるのならば弾丸のようなスピードでも良いくらいなのに実際の速度は普段私が【衝撃伝達】と【脱兎】を併用し高速移動している時くらいの速度しか出ていない。
……本当に移動速度だけに適用されてるっぽいなぁ!
口を動かす、腕を振るう、思考によって形状を変化させる。
これらは普段と同じ速さで身体を動かし実行することが出来た。
遅くなったのは私の身体がその場から移動する場合のみ。つまりは本当に『移動に関する速度』だけを低下させているデバフなのだろう。
それならばやりようはいくらでもある。
「ていうかさぁ……驚いてたりとか色々と言いたいんだけど。今ならあんた喋れるよなぁ?」
『……分体である以上、喋れはする。しかしここは勝負の場だ。言葉は不要かと思ったのだがな』
「煩いよ。そう言うならもっと敵としてしっかり攻撃しておいでっての。……一応聞いておきたいんだけど、この状況は大丈夫なの?その、色々とダンジョンボス的に?」
『問題があったらこの様におりじなる?の我が分体だからと言って表に出てくるわけがないだろう。そも、これは一種の試練と同義。我を一度下した狐の女子ならば、いつかは受ける必要があったものだ』
構えつつ半目で問いかけると、溜息でも吐きそうな顔をしながら『白霧の森狐』が……オリジナル、私が倒したあの狐が饒舌に喋りだした。
一応やれるかと思い、挑発しオリジナルの意識らしきものを引っ張り出してみたものの……それがゲーム上問題のない行為なのか、というのが気になってしまっていたから。
「試練、ねぇ……それに合格するとどうなるってのよ。私これ訓練だと思ってやってるんだけど?」
『試練ではあるが、試練ではない。予行練習のようなものだ。我のこの身体は結局の所、我の力を貸し与えただけの端末に過ぎない。だからこそ、実際の試練を行う場合は我本体が相手をすることになる』
「……合格に関しては特に言わないか。じゃあ訓練だと思ってもいいのね?」
『……あぁ、良いだろう』
許可は貰った。
そして私が今後受けるであろう何かがオリジナルとの戦闘であることも分かった。
それだけ分かっておけば、あとは自力を底上げしていくだけだ。
「よし、じゃあやろう」
『……我が言うのもなんだが、その状態でか?』
「訓練って言ったでしょう?これくらいやらないと普段はボッコボコにしてるんだから、いいハンデじゃない。というか、いいの?」
『……?』
「私相手に2秒以上も足を止めていいかって聞いてんだよ。【ラクエウス】」
『くッ……!!』
いいハンデ、とは言ったが。
それは移動速度が低下しているだけの事。
移動に関係しない魔術ならばいつも通りに使えるし、【血液感染】の範囲に気を付ければ【血狐】だって使える。
『白霧の森狐』は焦ったようにその場から後退しようとしたものの。
既に発動した【ラクエウス】……霧を固め作られた槍がその周囲を囲み、逃げ場はどこにも残されていなかった。
瞬間、それら全てが同時に狐の身体へと殺到する。
普通の生物ならば何本かが頭部に命中するだけで絶命させることができるそれを、不意打ちに近い状態で受けるというのは中々に難しい。
難なく受けていたキザイアなど、上位陣がおかしいだけだ。私だったらそのまま貫かれデスペナ直行だろう。
そして、オリジナルの意志が宿った劣化『白霧の森狐』は一瞬表情を歪ませたものの、再度濃い霧を身体から噴出し霧の槍を受けようとして……貫かれたように見えた。
……アレ、私でも一度も見たことない行動だなぁ。
呑気にそんな事を思っていると、私の周囲に何やら霧が集まってくるような気配を感じとる。
そして『白霧の森狐』がやろうとしていることに気が付き、私は口元を引き攣らせた。
「そんなのアリなの?!」
『――そう言えばまだ狐の女子はこれを出来なかったなぁ!』
狐の叫びと共に、私の周囲の霧から……ご丁寧に私の霧操作能力でも散らす事が出来ないほどに濃い霧から【ラクエウス】によって生成された霧の槍が射出される。
『白霧の森狐』の持つ能力の1つ。転移能力の応用だ。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
クローン兵士の日常 異世界に転生したら危険と美女がいっぱいでした
Kanaekeicyo
SF
異世界転生物語ですが、近未来的な世界が舞台です。
日々の生活に退屈していた平凡な大学生、天掛波平。ある日目が覚めたら異世界のクローン兵士になっていた。最悪の形で退屈な日常から解放された波平は近未来的な異世界の兵士として生き残る為の戦いを決意せざるを得なくなってしまう。
彼方と名を変え精鋭部隊に配属されたが………そこは天国と地獄が混在するカオスなところだった。
天国=美女がいっぱい。ただし全員に一癖アリ。怖い司令に超姉御な隊長、クールな同僚、意地悪な同僚、天才小悪魔美少女etc.さらに訳アリ美女は増えそうな予感。
地獄=危険がいっぱい。振られる任務はオール無茶振り、命を賭けた綱渡り。
平凡な学生生活から危険すぎるサバイバルライフ。一体どうなる?
「メジャー・インフラトン」序章3/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 FIRE!FIRE!FIRE!No2. )
あおっち
SF
とうとう、AXIS軍が、椎葉きよしたちの奮闘によって、対馬市へ追い詰められたのだ。
そして、戦いはクライマックスへ。
現舞台の北海道、定山渓温泉で、いよいよ始まった大宴会。昨年あった、対馬島嶼防衛戦の真実を知る人々。あっと、驚く展開。
この序章3/7は主人公の椎葉きよしと、共に闘う女子高生の物語なのです。ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。
いよいよジャンプ血清を守るシンジケート、オリジナル・ペンタゴンと、異星人の関係が少しづつ明らかになるのです。
次の第4部作へ続く大切な、ほのぼのストーリー。
疲れたあなたに贈る、SF物語です。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
警視庁生活安全部ゲーターズ安全対策課
帽子屋
SF
近未来。世界は新たな局面を迎えていた。生まれてくる子供に遺伝子操作を行うことが認められ始め、生まれながらにして親がオーダーするギフトを受け取った子供たちは、人類の新たなステージ、その扉を開くヒトとしてゲーターズ(GATERS=GiftedAndTalented-ers)と呼ばれた。ゲーターズの登場は世界を大きく変化させ、希望ある未来へ導く存在とされた。
そんなご大層なWiki的内容だったとしても、現実は甘くない。ゲーターズが一般的となった今も、その巨石を飲み込んだ世界の渦はいまだ落ち着くことはなく、警視庁生活安全部に新設されたゲーターズ安全対策課へ移動となった野生司は、組むことになった捜査員ロクに翻弄され、世の中の渦に右往左往しながら任務を遂行すべく奮闘する。
PULLUSTERRIER《プルステリア》
杏仁みかん
SF
人口爆発に大気汚染──地表に安全な場所を失いつつある現実世界に見切りをつけた人類は、争いのない仮想世界「プルステラ」へと移住する「アニマリーヴ計画」を施行するが、突如仕様外の怪物が現れ、大惨事となる。
武器が作れない仕様の中、人々はどうにか知恵を絞ってこれを対処。
現実世界へ戻れるゲートが開くのは、一年の試用期間後一度きり。本当に戻れるという保証もない。
七夕の日、見知らぬ少女ヒマリのアバターとなって転送された青年ユヅキは、アバターの不調の修正と、一緒に転送されなかった家族の行方を探すため、仲間たちと共に旅を始める。その旅の行方が、やがてアニマリーヴ計画の真相に迫ることになるとは知らずに。
※コンテスト用に修正したバージョンがあります。
アルファポリスからは「PULLUSTERRIER 《プルステリア》(なろう版)」をどうぞ。
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
キスメット
くにざゎゆぅ
SF
~ノーコン超能力者と陰陽師とジェノサイド少年でバトルやラブを!~
不思議な力を宿すロザリオの出どころを探るために、海外赴任の両親と別れて日本に残ったヒロイン。叔母の監視下とはいえ、念願の独り暮らしをすることに。
そして転入した高校で、怪しげな行動を起こす三人組に気づく。その中のひとり、男子生徒の胸もとには、自分のものとそっくりなロザリオが。これはお近づきになって探るしかないよね?!
ヒーローは拳銃所持の陰陽師!?
ヒロインはノーコン超能力者の天然女子高生!
ライバルは一撃必殺のジェノサイド少年!!
ラブありバトルあり、学校や異世界を巻きこむ異能力系SFファンタジー。
舞台は日本…なのに、途中で異世界に行っちゃいます(行き来します)
学園コメディ…と思いきや、超能力×陰陽術×エージェントまで加わってのバトルアクション!
そしてヒロインは超鈍感…でも、恋愛はできるのです!!
キスメットは、運命という意味。彼らの辿る運命を見守ってくださいませ☆
※暴力描写・恋愛描写は物語上必要な量を盛り込みです。閉鎖したブログサイトから連載作品をひっそり引っ越ししてきました。他サイトで一部連載。
※ジャンルはローファンタジーですが、個人的にはSF(スペキュレイティブ・フィクション)なのです。
arcadia
深町珠
SF
ありふれた町のアーケードのように見えて、どことなく変わっているこの町の住人たちは、不思議に仲良しである。
その一軒の娘は、ある日。不思議な事に気づきます。
なぜ、みんな家族がないのだろう?
私の家には、なぜ、お母さんもおばあちゃんも居ないのだろう?
そのうちに、彼女自身、その理由を身を持って知る事になります。
それは、800年前から続いていた。いえ、もっと前から。
この地に住む人が、そうである理由だったのです....。
シミュレーション・モデルの計算、科学的知見から得られる
modelbased history
です。
科学好きさん、見てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる