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第4章 言の葉は蜃気楼を穿つのか
Episode 9
しおりを挟む言霊。
一般的に日本で広まった、言葉に宿ると信じられた力の事を指す単語だ。
良い言葉を発せば良いことが起こる。
悪い言葉を発せば悪いことが起こる。
現代では信じられていないかもしれないが、実際に過去の日本では信じられていたものである。
「昔、日本で信じられていたってくらいしか知らないです。ましてやArseareの言霊なんて……あるんです?」
「あるのよ。流石日本のゲームって感じよね」
どうやらこのArseareという世界においては、言霊は迷信ではなく実際に世界に認められているシステムらしい。
といっても、これまで言霊のようなものを使っているプレイヤーは見たことがないし、そもそも私が使っていたのならば何かしらの通知が流れてもおかしくはないだろう。
「まぁ、意識してないだけよ。基本的に言霊は既に誰もが使ってるのと同じだから」
「誰もが……あ、もしかして【発声行使】の事ですか?」
「そういうこと。あ、ここね?宿」
「えぇ、とりあえずで決めたんで図書館からは少し遠いですけど」
そうこうしている間に私が部屋を借りている宿へと辿り着いた。
そのまま部屋へと移動し、彼女の話を聞くために宿のNPCにお茶などを用意してもらいつつ。
「貴女には……そうね、魔術言語に近いものと言った方が分かりやすいかしら」
「魔術言語に?」
「えぇ、あれは文字を組み合わせて狙った現象を引き起こすものでしょう?このゲームにおける言霊も似たようなものなのよ。あ、どうせなら実演しましょうか」
そう言いながら、彼女はNPCが部屋に届けてくれた熱々のお茶を受け取り真面目な顔で口を開く。
「……『冷気よ、私の呼び声に応え彼の者の熱を奪い去れ』」
「うわぁ……」
少し黒歴史になりそうな言葉に引いたわけではない。
彼女の持っている、湯気のたっていたお茶がみるみるうちに凍り付いていくのが見えてしまったためだ。
彼女が魔術を使ったようには見えなかった。特別な【動作】も行っていないし、それらしい名前も【発声】していない。
……でも、多分今の言葉にはMPが込められてた。
「何をしたかわかった?」
「一応は。魔術言語で使うMP操作の応用ですか?」
「まぁその認識であってるわ。普通、物や文字に流すMPを喉に流して音を発する。そうすることで、この世界側が出来る限り要望に沿った形でその音や言葉を現実にしてくれる、ってわけ」
「……チートレベルでは?」
「まぁ出来ない側から見ればそうなるわよね。でもそう簡単に出来るものじゃあないのよこれ」
そう言いながら、彼女は手に持った冷凍茶を先程とは正反対の言葉を発する事で元に戻していく。
その姿はさながら物語に出てくる本物の魔術師のようだ。
「まずメリットは分かりやすいわよね?」
「えぇ、言葉に出した事が現実になる。ある程度、ってのが気になりますけど、それでも出来るようになったら便利なんてレベルじゃないですよ」
言霊、そのメリットはなんといっても言葉に出した事が事実になる。これに尽きる。
身体を温めたいのならば炎が生み出せばいい。
攻撃手段が欲しいのならば相手に合わせた攻撃を宣言すればいい。
そんなものがあるのならば、私達が【創魔】によって魔術を創る必要なんてないのだから。
そこまで考え、1つの考えに辿り着く。
「……もしかして、デメリットって」
「えぇ、まぁ。察した?」
「あくまで予測ですけど……言霊使うたびに何かしらの素材とか使ったりしてます?」
「大正解。現実にしたい内容によって、対応してる素材を消費しないと言霊が発動しないのよ。さっきの実演も熱を操るタイプの劣化ボスの素材を持ってかれてるわ」
「……うわぁ」
言霊のデメリット。
1つの事柄を実現させようとすれば、その分対応している素材を消費しなければ実現しない。
しかも先程グリムが行った、お茶を凍らせ元に戻すという行動だけで劣化ボスの素材を消費しているらしい。
「勿論、簡単な事ならそれなりに消費は少ないわよ?それでも……まぁ、ダンジョンに出てくるモブの素材が数個程度持ってかれるけど」
「それは……中々反応に困る感じのやつですね。ちなみにグリムさんが言霊で実現した事の中で一番消費が少なかったのって何ですか?」
「あー何だったかしら……確か、【土漠】の方で風が欲しいって思った時にそよ風起こした時が一番少なかったかしら……その時は大体素材2個くらいで何とかなったし」
「成程……?」
自然でも起こり得る事ならば消費が少なくなる、という事だろうか。
「ちなみに消費されるアイテムってどういう表示が出るんです?」
「通知にばぁっと。あ、消費しますか?なんてのは来ないわね。勝手に消費されるから自分のインベントリ以外に何か収納できる倉庫みたいなものがないと大事なものまで勝手に消費されるわよ」
「それもデメリットですね……いや、でもいいですね。中々に便利そうだ」
手数を増やすという目的には沿っている。
その消費が激しいだけで、要は言霊を使うときに重要なアイテムを持っていなければいいのだ。
その分、言霊で実現できる内容も減るには減るが、レアなアイテムなどを勝手に消費されるよりはマシだろう。
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