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第3章 砂と土の狭霧にて

Episode 31

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クトゥルフ神話系統、と言われてもそれに類する知識を全く持っていなければ理解できるようなものではないし、それに加え、アイテムの性質によって創造できる魔術の方向性が決まるのがこのArseareというゲームだ。

勿論、自分の好きなように改編することもできる。
私がやったように魔術言語で直接魔術の構造自体を弄ってしまえば、それらしいものは出来るだろう。
だからこそ、自分が使いたい魔術、こういうタイミングで発動したいという設定自体はある程度知識があるプレイヤーならば難しいものの出来なくはない。

問題は私がクトゥルフ神話系の知識に乏しいために予想が出来ないという点くらいだろう。
正直でっかいタコがいるくらいの知識しか元々持ち合わせていなかった私は、人面鼠や魔女という存在もいるんだ程度の認識でしかキザイアの名前や使っている魔術の元ネタを考えていない。
だからこそ、正直近接距離での戦闘で何を使ってくるのか予想が出来ない。
だが予想出来ないことなんていつも通り。いつも通りだからこそ、手にトラバサミを持って罠にかからないように、霧から出ないようにキザイアの元へと足を進めていく。

キザイア自身は何やら私を煽るような言葉を先程から叫んでいるものの。
既に私の耳にはそれらは入ってきていない。というよりは、耳に入れるような内容でもないために無視をしている。
意味のない言葉は聞く必要がない。それこそ、魔術の発動に必要な言葉なら兎も角、相手を煽るために紡がれた言葉ならば猶更だ。

近づき、そしてそろそろ接敵するかという距離で私は足を止めた。
その地点はキザイアに【血狐】の存在が気が付かれなかった最短の位置だ。
これより先に進めばキザイアに気が付かれる可能性もあるし、気が付かれないかもしれない。
だが希望的観測というのは、勝ち目の薄い戦いの中では絶対してはいけない愚考でしかない。

私は『白霧の狐面』を使い、私とはキザイアを挟んで反対方向の霧を操り固め、1本の槍のような形状にしていく。
あまり近いところでやるようなことではないだろうが……確かめておいた方がいいだろう。
いざとなった時用に、作り出した霧の槍の内部にさらに霧で作った魔術言語を仕込んでいく。
内容は簡単に『火を熾す』だけ。
これで魔術が発動していれば、魔術言語が反応して火が熾る。
発動していないにしても、実体もダメージもないが霧の槍によって牽制、私のいない方向を警戒させることが出来るのだから、低コストで色々と出来てお得だろう。

……射出。
そうして、心の中で小さく呟いた瞬間、霧の槍をキザイアに向けて射出した。
私の方へと向かって一直線に飛んでくるそれに当たらないよう、その場にしゃがみながらどんな反応をするかを目で追う。

「ッ!火、だけ?……クソ、やられたわね」

結果、キザイアは反応し火が熾った。
どうやら魔術かどうかは関係なく、一定範囲内に入ったものを感知する魔術らしい。
そこから感知するものの条件分岐がありそうだが……まぁ無難に素早く動いているもの、と仮定して動けばいいだろう。

私は笑みを浮かべながら、【ラクエウス】を発動させた時のように、キザイアの周囲に大量の霧の槍を作り出す。
勿論純粋な霧をその形にしているだけのため、ダメージは一切ないし、それが分かっているのならば対処すらしなくていい。

だが、キザイアは一度【ラクエウス】の霧の槍を見てしまっている。
見てしまっているからこそ、対処せざるを得ない。
それが当たれば自身にダメージを与えるものだと知っているから。

それぞれの霧の槍の形状はそこまで精工なものではなく。
所々欠けていたり、そもそもただの棒のようになってしまっているものまで存在する。
しかしながら数は用意できた。
数が用意出来れば、相手のもう1つの索敵をある程度は誤魔化すことが出来るだろう。

「……射出。行こう」

地面を見ながら足を踏み鳴らし【衝撃伝達】を発動させ、霧の槍と共にキザイアへと近づくため地を蹴った。
全てがほぼほぼ同じ速度でキザイアの索敵範囲と思われる領域内に侵入し……キザイア自身はまたそれか、と言わんばかりにため息を吐きながら叫ぶ。

「はぁ……また同じ手とかよォ!芸がないのよ芸が!」
「芸なんてものはなくていいんだよ、勝てれば。【魔力付与】」
「……ッ?!」

霧の槍を散らすために発生させた突風の中を突き進む。それに応じてダメージを受け、HPが少しずつ減っていくが……そもそもいつも自分でHPを減らすような戦い方をしているため今更だ。死ななければ安い。

手に持ったトラバサミを開きながらキザイアへと一気に近づいて。
こちらを驚いたように見ているその顔を狙ってトラバサミを閉じようとした。

「あっぶないわ。【ゲート】」

ガチン!という音と共にトラバサミは閉じられる。
だがその歯に誰かしらの肉が挟まれることはなかった。

「そういえば転移する、とかいうのもあったねぇ」
「あら、知ってたのねぇ。でも残念。アンタの攻撃は当たらなかったみたいだしぃいい?!」
「草生えるわ」

そして、少し離れた位置から声が聞こえるとともに、落とし穴に落ちていく音も聞こえてきた。
用意しておいて正解だったらしい。
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