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第3章 砂と土の狭霧にて
Episode 26
しおりを挟む【カムプス】へ行くのにはさほど時間は掛からない。
それこそ街から街へと転移すれば一瞬で到着するのだから。
そこから南下し、広大な第3マップの中からキザイアを探しだすのが難しい、というだけで。
第3マップの名称は【駆逐された土漠】。
荒野よりも砂漠に近く、しかしながら砂ではなく土で構成されたそのエリアは『天日照らす砂漠』ほどではないが、気温が高いエリアだった。
一応高速での移動は全員出来る。
私は【衝撃伝達】と【脱兎】の組み合わせで、フィッシュ達はそれぞれの身体強化系の魔術で。
しかしながら個人を特定するような索敵魔術は誰も持っていない。
フィッシュが何故か人の居る方向が分かる鼻を使った索敵魔術を使えるらしいが、それも人が居る方向が分かるだけ。
その先に居るのが誰かまでは分からないため、辿り着いた先に全く関係のないプレイヤーが居る事も珍しくはなかった。
そして繰り返すこと数回。
高速移動する私達の前には、1人の男性プレイヤーの姿があった。
いや、女性……だろうか。
そういう人なのか、女性用と思われる服を着ているだけの筋肉隆々な男性がそこに居た。
「えぇっと……アナタ達は一体?アタシに何か用?」
「あぁ突然すいません。私はアリアドネって名前で活動してるプレイヤーです。キザイアさん……で合ってますか?」
私がそう聞いた瞬間、高い気温が少しだけ下がったような気がした。
だがそれを無視し、私はにこやかに笑いながら話を続ける。
「……合ってるけれど」
「あぁ良かった!少しだけ言いたいこと、というよりは色々とあったのでその落とし前を付けてもらおうかと思いまして――」
私の首辺りから突然金属同士がぶつかるような音がする。
ちら、と見てみれば……虚空から私の首に向かって刃先を伸ばしている何かと、灰被りの氷の茨がぶつかり合っていた。
「……どういうおつもりで?」
「こっちの台詞よ。……ハァー……アイツらまともに仕事も出来ねぇのかよ、つっかえないわねぇ。大方、アリアドネサンは『駆除班』の連中に襲わせたダンジョンの管理人って所かしら」
「そこまで分かっているなら話は早いでしょう」
「何も早くないわよ、えぇ?アタシに本当に何の用かしら?別にボス奪還戦を発生させるのは個人の自由でしょう?それが一体どうしたって話よ」
……全部分かってんじゃねぇか。
色々と歪みそうになる表情を必死に笑顔の形に抑えながら、言葉を紡ぐ
「いやまぁ、個人の自由であること自体は認めます」
「そうでしょう?ならこっちは別に悪くないでしょう!」
「えぇ、悪くはないと思いますよ。……ただですね、許可をとるって工程を飛ばしてなければの話なんですが。そこの所分かってます?」
「ハッ、気付かない方が悪いんじゃなくて?兎に角、文句を言いに来ただけなら早くどっか行って頂戴。じゃないと次は死角から狙うわよ」
「あぁ、文句を言いに来たわけじゃあないんです。……決闘しませんか?それで今回の事はこっちが気付かなかったのが悪かったって事にしますから」
そう言った瞬間、キザイアはうざったそうにしていた表情を呆然としたものに変える。
私が何を言っているのか、その言葉の意図を読み切れないのか。
恐らくはその両方だろう。
「……意味が分からないんだけど?それを受けてアタシに何のメリットがあるっていうのよ」
「あなたが勝ったらボス奪還戦に纏わる一連のイベント、私のダンジョンに限りますが、それをもう一度起こしてもいいし、私はその邪魔をしない……ってのはどうでしょう?これなら十分にメリットがあると思いますが?」
普通に顔面を殴らせろと言った所で応じないどころか、先程話始めただけで首筋に刃物を突き刺してこようとした相手だ。
だからこそ、私はダンジョンの管理権を賭ける。
私が負ければ、『惑い霧の森』というダンジョンを他の何かに作り替えることが出来る。
それこそ、もう一度辻神を出現させて乗っ取らせてもいいし、他の方法でボス奪還戦までもっていってもいいだろう。
その一連の流れを私は絶対に邪魔しない。関与もしない。
文句を言いに来たと思った相手、それも見るからに格下らしき相手からそんな提案をされているのだ。
目の前のキザイアというプレイヤーの事を私は詳しく知らないが……少し話しただけで分かる上辺の性格だけでも、この提案を蹴るような相手ではないと確信を持てる。
「嘗められたもんねぇ……いいじゃないの。アタシが負けた場合は?」
「あなたが負けた場合は……その汚ぇ面を一発殴らせろ」
「ハッ、口だけは本当に達者。ほら、早く申請しなさいよ」
ウィンドウを開き、HP全損デスペナ付与のルールを選択し、勝敗時の誓約を記述する。
その後私の承諾、そしてキザイアの承諾を経た上で、数秒の待ち時間の後……空中にカウントダウンが出現した。
私とキザイアは互いに十分に距離を取り、灰被り達も戦闘による余波が及ばない位置まで下がってくれた。
「痛い目見て泣くんじゃあないわよ」
「それはこっちの台詞かなぁ?」
カウントダウンが0になる。
瞬間、イベントの時と同じように『START!』と空中に出現し辺り一帯にブザー音が響き渡った。
自己満足の為の戦いが今始まる。
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