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第3章 砂と土の狭霧にて
Episode 21
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『駆除班』の面々は、元より私と同じ『惑い霧の森』を中心に活動していたからなのか、その装備は白を基調としたものが多い。
本当に魔術師か?と言いたくなる白い革の鎧や、申し訳程度に羽織られた白いローブ、そして所々についている禍々しいアクセサリーとゲームらしい現実味の無い恰好だ。
私は腰から『熊手』を抜き、構える。
「真ん中やります」
「オッケーイ、じゃあ他やろっか」
短く伝え、それにフィッシュが返事をする。
『駆除班』側のメンバーはその言葉の通りにはさせないと言わんばかりに攻撃魔術を発動してくるものの、問題はない。
こちらには2人、相手の魔術を見てから落とすのが得意なメンバーがいるのだから。
足をタタンと踏み鳴らす音と、指を鳴らす音が両脇から聞こえ。
その瞬間、氷の茨と岩で出来た蔦が飛び出しこちらへと向かってきていた多種多様な攻撃魔術を絡めとって打ち消していく。
灰被りとバトルール、彼女らに後方支援は任せておけば間違いはないだろう。
元より『駆除班』の面々も警戒はしていたのだろうが……それでも私や灰被りの情報程度しか集めてなかったのかもしれない。
その証拠に私に攻撃魔術が届かなかったのを見るやいなや、剣や槍、手斧を取り出してこちらへと襲い掛かってきたのだから。
「【血液強化】、【衝撃伝達】」
「あはッ!」
私は宣言を、フィッシュは動作によって魔術を発動させ、こちらへと迫ってきたメンバーたちに向かって逆に接近し攻撃を行う。
狙うは勿論、宣言した通り真ん中に立っていたリーダーらしきプレイヤーだ。
上から『熊手』を振り下ろし、避けられ。
それに伴って発動した【魔力付与】の形状変化を用いて、突然下から槍のように魔力の膜を突き出して再度攻撃する。
しかしながらそれも読まれていたのか、軽くバックステップすることで避けられてしまった。
ちらと周りを見てみれば、私達から見て左に居たプレイヤーをフィッシュとバトルールが、右に居たプレイヤーを灰被りが相手をするという構図になっている。
彼女らの心配はするだけ無駄だ。
基本的には私よりもプレイスキルが高く、魔術の扱いも長けているのだから、心配する要素がない。
どちらかと言えば、私が一方的に倒されないように気を付けるくらいだろう。
……最初に私を狙ってきたって事はある程度私の情報は仕入れてるってことだよねぇ。それに森を中心に活動してたなら霧を見通す系の魔術もあるとみていい、か。
一歩踏み込めば攻撃が当たる位置に居る、リーダーと思われる男を注意深く観察する。
剣の切っ先をこちらへとゆらゆらと向け、軽く口元をにやけさせていることから、もしかすればこの状況になるのは予想通りだったのかもしれない。
少しだけそれにイラッとしたため、彼に見えないよう背中越しに霧によって魔術言語を作り上げていく。
「一応聞いておきたいんだけどいいかな?」
「……なんだよ」
「どうして無許可でこんなことしてんの?話せば了承してくれる人とか絶対居たでしょ」
「……」
ゆらゆらとしていた切っ先が、真っ直ぐこちらに向く。
何やら覚悟か何かが彼の中で決まってしまったようだ。
「あくまで喋ってはくれないかぁ。まぁ何が出来るか分からないから1回デスペナ送りにはさせてもらうね……ってこれじゃあ私が悪役みたいじゃん」
「限りなくこっちにとっては悪役だよ、今は」
「ふふ、そういう言葉は利けるってわかっただけでも収穫だと思っておくよ。【ラクエウス】」
「ッ?!こういう所だよ!あんたが悪役だってのはよォ!」
話しながら見ていた彼の足元に、トラバサミを出現させる。
落とし穴ではない理由は特になく、単純にこっちの方が良いかと思っただけの事。
突然出現したそれを何とか避け、そのままの勢いでこちらへと一足飛びに迫り剣を振るう彼に対し、私はその振られた剣の1つ1つをしっかりと対処していく。
こちらが持っているのは上等な剣ではなく、元は獣の爪でしかないダガーだ。
一応手入れ自体はしっかりしているものの、剣とまともにぶつかれば折られてしまうだろう。
だからこそ、受け流し、逸らす。
上から振り下ろされた剣に添えるように『熊手』を置き、私に当たらないように逸らす。
普段の私の力では無理だろう。それを無理やり出来るようにしているのが【血液強化】による身体強化だ。
それでも腕に掛かる負担は変わらない。
ギシギシと骨が軋む音を内側から聞きながら、剣を捌く。
「女の子に剣振るうってどうなのよ」
「今更だろ」
「そりゃそうだ」
下から上へと跳ね上げるように振るわれた剣を身体を逸らすことで避け、そのまま彼が剣を持つ腕を掴んだ。
この距離ではまともな攻撃魔術を使おうとすれば自分を巻き込むことになるだろうし、身体強化を行っている私の腕を振り解くことは難しいだろう。
だが、この状態で私が出来る事も限られる。
同じように攻撃魔術を使えば自爆必至でしかない。この腕を掴んでいる手を離せば、相手に攻撃の選択肢を与えることになってしまう。
私の背中越しで作り上げている魔術言語は……一時的な目晦まし用の『雨乞い』だ。
現状使えるものではない。
「あっ」
「へっ」
ここまで考え、私は別段考える必要がない事に気が付いてしまった。
本当に魔術師か?と言いたくなる白い革の鎧や、申し訳程度に羽織られた白いローブ、そして所々についている禍々しいアクセサリーとゲームらしい現実味の無い恰好だ。
私は腰から『熊手』を抜き、構える。
「真ん中やります」
「オッケーイ、じゃあ他やろっか」
短く伝え、それにフィッシュが返事をする。
『駆除班』側のメンバーはその言葉の通りにはさせないと言わんばかりに攻撃魔術を発動してくるものの、問題はない。
こちらには2人、相手の魔術を見てから落とすのが得意なメンバーがいるのだから。
足をタタンと踏み鳴らす音と、指を鳴らす音が両脇から聞こえ。
その瞬間、氷の茨と岩で出来た蔦が飛び出しこちらへと向かってきていた多種多様な攻撃魔術を絡めとって打ち消していく。
灰被りとバトルール、彼女らに後方支援は任せておけば間違いはないだろう。
元より『駆除班』の面々も警戒はしていたのだろうが……それでも私や灰被りの情報程度しか集めてなかったのかもしれない。
その証拠に私に攻撃魔術が届かなかったのを見るやいなや、剣や槍、手斧を取り出してこちらへと襲い掛かってきたのだから。
「【血液強化】、【衝撃伝達】」
「あはッ!」
私は宣言を、フィッシュは動作によって魔術を発動させ、こちらへと迫ってきたメンバーたちに向かって逆に接近し攻撃を行う。
狙うは勿論、宣言した通り真ん中に立っていたリーダーらしきプレイヤーだ。
上から『熊手』を振り下ろし、避けられ。
それに伴って発動した【魔力付与】の形状変化を用いて、突然下から槍のように魔力の膜を突き出して再度攻撃する。
しかしながらそれも読まれていたのか、軽くバックステップすることで避けられてしまった。
ちらと周りを見てみれば、私達から見て左に居たプレイヤーをフィッシュとバトルールが、右に居たプレイヤーを灰被りが相手をするという構図になっている。
彼女らの心配はするだけ無駄だ。
基本的には私よりもプレイスキルが高く、魔術の扱いも長けているのだから、心配する要素がない。
どちらかと言えば、私が一方的に倒されないように気を付けるくらいだろう。
……最初に私を狙ってきたって事はある程度私の情報は仕入れてるってことだよねぇ。それに森を中心に活動してたなら霧を見通す系の魔術もあるとみていい、か。
一歩踏み込めば攻撃が当たる位置に居る、リーダーと思われる男を注意深く観察する。
剣の切っ先をこちらへとゆらゆらと向け、軽く口元をにやけさせていることから、もしかすればこの状況になるのは予想通りだったのかもしれない。
少しだけそれにイラッとしたため、彼に見えないよう背中越しに霧によって魔術言語を作り上げていく。
「一応聞いておきたいんだけどいいかな?」
「……なんだよ」
「どうして無許可でこんなことしてんの?話せば了承してくれる人とか絶対居たでしょ」
「……」
ゆらゆらとしていた切っ先が、真っ直ぐこちらに向く。
何やら覚悟か何かが彼の中で決まってしまったようだ。
「あくまで喋ってはくれないかぁ。まぁ何が出来るか分からないから1回デスペナ送りにはさせてもらうね……ってこれじゃあ私が悪役みたいじゃん」
「限りなくこっちにとっては悪役だよ、今は」
「ふふ、そういう言葉は利けるってわかっただけでも収穫だと思っておくよ。【ラクエウス】」
「ッ?!こういう所だよ!あんたが悪役だってのはよォ!」
話しながら見ていた彼の足元に、トラバサミを出現させる。
落とし穴ではない理由は特になく、単純にこっちの方が良いかと思っただけの事。
突然出現したそれを何とか避け、そのままの勢いでこちらへと一足飛びに迫り剣を振るう彼に対し、私はその振られた剣の1つ1つをしっかりと対処していく。
こちらが持っているのは上等な剣ではなく、元は獣の爪でしかないダガーだ。
一応手入れ自体はしっかりしているものの、剣とまともにぶつかれば折られてしまうだろう。
だからこそ、受け流し、逸らす。
上から振り下ろされた剣に添えるように『熊手』を置き、私に当たらないように逸らす。
普段の私の力では無理だろう。それを無理やり出来るようにしているのが【血液強化】による身体強化だ。
それでも腕に掛かる負担は変わらない。
ギシギシと骨が軋む音を内側から聞きながら、剣を捌く。
「女の子に剣振るうってどうなのよ」
「今更だろ」
「そりゃそうだ」
下から上へと跳ね上げるように振るわれた剣を身体を逸らすことで避け、そのまま彼が剣を持つ腕を掴んだ。
この距離ではまともな攻撃魔術を使おうとすれば自分を巻き込むことになるだろうし、身体強化を行っている私の腕を振り解くことは難しいだろう。
だが、この状態で私が出来る事も限られる。
同じように攻撃魔術を使えば自爆必至でしかない。この腕を掴んでいる手を離せば、相手に攻撃の選択肢を与えることになってしまう。
私の背中越しで作り上げている魔術言語は……一時的な目晦まし用の『雨乞い』だ。
現状使えるものではない。
「あっ」
「へっ」
ここまで考え、私は別段考える必要がない事に気が付いてしまった。
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