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第3章 砂と土の狭霧にて
Episode 16
しおりを挟む血反吐吐き、HPがそれに合わせて減っていくのを確認しながら。
私は手に持った辻神らしきものの名称を改めて確認する。
『辻神』……捻りのない、そのままな名前。
しかしながらここでコレを倒せば、今起こっているイベントなどは全て解決する事だろう。
抜けかけていた手の力が再度入り、手に持つ布を逃がさないようにぎゅっと握る。
辻神の方も、顔のような模様から色々と垂れ流している。
私達人間範疇生物のように鮮血、というべき色の血ではなく。
どちらかと言えばペンのインクのような真っ黒の液体が出てきていた。
……暴れるなぁ。やっぱり。
手でどこにも行かないように引っ張っているからか。
それとも【感染症】の効果が切れる度に魔術を発動する私の近くに居たくないのか。
どちらにしても向こうからしたら、この場から逃げ出したくなる理由にはなるだろう。
だが私はそれを許さない。
布の一部の形状を刃物のように変え、それを辻神を握る手や腕に叩きつけられても決して離さず笑ってやる。
血反吐を吐きながら、たまに回復薬を飲みほして回復しながら。
絶対に逃がさないと、いつも辻神がやっているように私も疫病を振りまいてやろうと笑ってやる。
「……あ、そういえばあったよねぇ」
先程、インベントリから物を取り出せるかどうかを確認した時に取り出したもの。
その中にこの状況にピッタリな物があったではないかと思い出す。
効果時間が切れかけた【血液感染】を再度発動させ辻神にぶつけながら、私はそのアイテムを取り出した。
特別なものではない。このアイテムをくれた本人もただの店売りのアイテムだと言っていた、ただの風邪薬。
しかしながら、両者が【感染症:血液】に罹っている状態ならばこの店売りの風邪薬はそこらの宝よりも価値が跳ね上がる。
私はそれをこれ見よがしに辻神に見せつけながら飲み干した。
【風邪薬を服用したため、【感染症:血液】が治りました】
【一時的に抗体を得たため、一定時間の間【感染症:血液】に罹ることはありません】
通知が流れ、私は笑う。
元より私に罹っていた【感染症】は、辻神から移った劣化版。
辻神よりも受けているダメージ量は少なかったのだが……ここにきて、抗体の存在。そして一定時間の間ならば何をやっても【感染症】に罹らない。
つまりは、だ。
「これで終わりだねぇ?」
嫌味ったらしく、先程まで口から垂れ流していた血を拭うことなく。
私は絶望した顔の模様を浮かべる辻神にそう語り掛けてやった。
辻神からの攻撃は元を持っているからか何処にくるのか予想しやすい。
私の腕を破壊しようと攻撃してきても、途中で地面に叩きつける事で中断させることが出来るし、それ以外の急所を狙おうとしてきた場合も同じだ。
そんな事を合間合間に【血液感染】を発動させながら繰り返していると、辻神のHPがついに底を尽きかけていた。
「ふぅ……しぶとかったなぁ」
仮にも名前に神と付くからか、それとも単純にこの個体がしぶとかったのか。
私が使えた魔術が【血液感染】だけだった事もあるだろう。
予想以上に時間が掛かったなと思いつつ、辻神のHPが無くなるのを見守ってやった。
その布のような身体が光となって消えていく。
それと共に、周囲から何かが抜けていくような……まるで風船から空気が抜けていくような、そんな感覚を覚えた。
【『辻神の布』×3を入手しました】
【レベルが上がりました】
【ダンジョンクエスト『ダンジョン内に出現した辻神を討伐せよ』をクリアしました】
【参加人数集計……23人】
【報酬ランクを決定します。行動評価集計……完了】
【クエストクリア報酬をそれぞれのインベントリへと送信しました】
そうして、私と辻神との戦いは終わった。
終わったのだが……私はこの真っ白い空間から転移させられなかった。
「……あー、やっぱりそういう感じ?」
『そういう感じ?ではございませんよアリアドネ様』
「うぉうっ?!……ってあぁ、アルファ……って事は流石に運営が出しゃばらないといけない感じの奴なのこれ?」
『クエスト自体は問題なかったんですよ。ですがアリアドネ様の行動が問題ですね。どうされます?』
「なーるほど……私が辻神掴んだから……ふぅん、ちょっと考えさせてください」
恐らくは運営による救済措置のようなものだろう。
普通の手段ではいけない場所へと行ってしまい、戻れなくなった場合のみアルファ達AIが遣わされ、転移してくれる……そういう設定なのだと思う。
少し怒ったようなアルファを前にしながら私は少しだけ考え……ふと、私にもそういう事が出来るのではないか?と、あることに思い至った。
丁度、それをするための素材は手に入ったのだから後は私の運がどれほど良いか、天に祈るだけだ。
ダメだった時には、まぁ目の前のアルファに頼って転移させてもらえばいいだろう。
失敗しても問題ない、というのは中々に気分が楽になるのでありがたい。
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