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第3章 砂と土の狭霧にて
Episode 13
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Ars ep⑬
しかし振り下ろした『熊手』はその汚くなった身体に届く前に、黒い何かによって止められる。
ギギギ……という音と共に、完全に勢いを失った『熊手』を手から離し、私は【血狐】に攻撃させた。
カラン、と『熊手』が地面に落ちていくがそれを拾いにはいかない。
何処かタイミングを見計らって拾えればいいだろう。
……物理的な干渉を防ぐ、って所かな。なら他で攻撃するだけだ。
元より、私は『白霧の森狐』に対して真っ向から勝負を仕掛けた事など只の1度として無いと断言できる。
最初の1回目も最終的に身体の中で大暴れしてやったのでノーカンだ。
物理的に攻撃が防がれるのならば、それ以外で。
【血狐】が執拗に『祟霧の遺狐』の口を狙うのをその場から離れながら見つつ、私は次の攻撃の準備を始めようとした所で肩を掴まれた。
顔を掴まれた方へと向けてみると、フィッシュが少し困惑したかのような顔をしながらこちらを見ていた。
「ちょっと、アリアドネちゃん」
「なんです?」
「流石に突出しすぎ。私達は兎も角としても灰被りさんとか状況分からずに困ってるじゃんね。少し落ち着いて」
「落ち着いてます……とは言えないですね。すいません。でも流石にアレは赦せないかなって」
「その気持ちは少しは分かるけどね。ほら、バトくんの止めろって視線がこっちに突き刺さってるんだよ、私の為に落ち着いてくれ」
【血狐】にヘイトをとるように指示しながら、私はそのままフィッシュの背後へと視線を向ける。
そこには……私の様子に笑いを堪えつつゴーレムを量産するメウラ、少し嘆息しながらも補助系の魔術か何かを多く展開し私のサポートにすぐさま入れるようにしてくれているバトルール、そして状況に着いていけず、尚且つ攻撃していいのか分からずに困惑している灰被りの姿があった。
私の怒りはここのボスや設定をある程度知っているからこその感情だ。
ゲームに感情移入しすぎ、とはよく言われるものの……これくらい感情移入出来た方が絶対に面白いと思っているため、自分自身でそれを戒めたりはしない。
しかしながら、今は私1人でここに訪れたわけではないのを少しだけ忘れていた。
……怒りで周りが見えなくなるとか、流石に小学生じゃあないんだから……馬鹿か私。
嘆息し、しっかりと現状を考え直す。
確かに『祟霧の遺狐』、そして姿の見えない辻神は絶対に倒すべき相手だ。
だがそれを幾ら先行しているからといって、私1人の戦力で成そうとするべきではない。
私よりも実力が上のプレイヤーが居て、私よりも他の攻撃方法に長けたプレイヤーが居て。
私よりも戦闘経験が豊富なプレイヤーが居るのだから、彼らに任せられる所は任せるべきだろう。
「……すいません。頭に血が昇りすぎてたみたいです。いやぁ、申し訳ない」
「私は大丈夫大丈夫。とりあえず全体的な指揮とか任せていいかい?劣化ボスに挑んだとは言え、私達もオリジナルは初めてだからさ」
「了解です」
今もなお攻撃を続けている【血狐】に一度こちらへと戻ってくるように命令し、私も更に今の位置から後ろに下がる。
前衛をフィッシュに、中衛に私と灰被り、後衛にメウラとバトルールを置いて、戦闘を再開させるために声を張る。
「ごめんなさい、指示するんでそれ以外は各自の判断で動いてください!とりあえずフィッシュさんは適当に攻撃を!あの黒いのは物理的な攻撃は防御されるんで気を付けて!」
「了解、【アグメンテーション】、【ヘイトアクション】」
それと同時、にやにやと笑いながら返事をしたフィッシュが魔術を発動させた。
どちらも知らない魔術ではあったが、片方はいつも指を噛んで発動させていた身体強化系の魔術だったようで、彼女の身体が赤いオーラで包まれていく。
それと共に、彼女の身体を中心に赤い円が周囲に広がっていく。
私達の身体を通過した時には特に何も変化はなかったものの、『祟霧の遺狐』にそれが触れた瞬間、光は巨大な狐の身体を包むように変化した。
まるで私の持つ【挑発】のような挙動。
恐らくは似たような、というよりはほぼ同じ効果なのだろう。
今まで私の方へと向いていた『祟霧の遺狐』の見えない顔が、フィッシュの方へと強制的に向かされる。
「灰被りさんはフィッシュさんの事を気にせずに攻撃で、とりあえずアリジゴクと戦った時と似たような感じで」
「了解です」
「後ろ2人は……まぁいつも通りに!」
「おいおい雑じゃねぇか?……まぁいいけどよ」
「分かりました……【補助1番】、【補助2番】」
バトルールがいつもと同じように、味気の無い名称の魔術を発動させ私を含めた全員にバフを掛けていく。
攻撃、そして防御力が向上するバフだ。
敏捷には何も補正が入らないものの……私やフィッシュ、それに灰被りには要らないという判断だろう。
「ちなみにアリアドネさんは何をするんです?」
「あー……まぁ色々としたいことはあるんですけど」
フィッシュが意気揚々と飛び出した所で、隣にいる灰被りから聞かれる。
そう言えば、彼女は私がどうやって『白霧の森狐』を倒したか知らないのだ。
「とりあえず、食われようかなって」
「……え?」
つい最近見た、何言ってんだこいつという表情をまたされたのを見て、私は戦闘中だというのに少しだけ笑ってしまった。
気を取り直して、私達のボス奪還戦は始まった。
しかし振り下ろした『熊手』はその汚くなった身体に届く前に、黒い何かによって止められる。
ギギギ……という音と共に、完全に勢いを失った『熊手』を手から離し、私は【血狐】に攻撃させた。
カラン、と『熊手』が地面に落ちていくがそれを拾いにはいかない。
何処かタイミングを見計らって拾えればいいだろう。
……物理的な干渉を防ぐ、って所かな。なら他で攻撃するだけだ。
元より、私は『白霧の森狐』に対して真っ向から勝負を仕掛けた事など只の1度として無いと断言できる。
最初の1回目も最終的に身体の中で大暴れしてやったのでノーカンだ。
物理的に攻撃が防がれるのならば、それ以外で。
【血狐】が執拗に『祟霧の遺狐』の口を狙うのをその場から離れながら見つつ、私は次の攻撃の準備を始めようとした所で肩を掴まれた。
顔を掴まれた方へと向けてみると、フィッシュが少し困惑したかのような顔をしながらこちらを見ていた。
「ちょっと、アリアドネちゃん」
「なんです?」
「流石に突出しすぎ。私達は兎も角としても灰被りさんとか状況分からずに困ってるじゃんね。少し落ち着いて」
「落ち着いてます……とは言えないですね。すいません。でも流石にアレは赦せないかなって」
「その気持ちは少しは分かるけどね。ほら、バトくんの止めろって視線がこっちに突き刺さってるんだよ、私の為に落ち着いてくれ」
【血狐】にヘイトをとるように指示しながら、私はそのままフィッシュの背後へと視線を向ける。
そこには……私の様子に笑いを堪えつつゴーレムを量産するメウラ、少し嘆息しながらも補助系の魔術か何かを多く展開し私のサポートにすぐさま入れるようにしてくれているバトルール、そして状況に着いていけず、尚且つ攻撃していいのか分からずに困惑している灰被りの姿があった。
私の怒りはここのボスや設定をある程度知っているからこその感情だ。
ゲームに感情移入しすぎ、とはよく言われるものの……これくらい感情移入出来た方が絶対に面白いと思っているため、自分自身でそれを戒めたりはしない。
しかしながら、今は私1人でここに訪れたわけではないのを少しだけ忘れていた。
……怒りで周りが見えなくなるとか、流石に小学生じゃあないんだから……馬鹿か私。
嘆息し、しっかりと現状を考え直す。
確かに『祟霧の遺狐』、そして姿の見えない辻神は絶対に倒すべき相手だ。
だがそれを幾ら先行しているからといって、私1人の戦力で成そうとするべきではない。
私よりも実力が上のプレイヤーが居て、私よりも他の攻撃方法に長けたプレイヤーが居て。
私よりも戦闘経験が豊富なプレイヤーが居るのだから、彼らに任せられる所は任せるべきだろう。
「……すいません。頭に血が昇りすぎてたみたいです。いやぁ、申し訳ない」
「私は大丈夫大丈夫。とりあえず全体的な指揮とか任せていいかい?劣化ボスに挑んだとは言え、私達もオリジナルは初めてだからさ」
「了解です」
今もなお攻撃を続けている【血狐】に一度こちらへと戻ってくるように命令し、私も更に今の位置から後ろに下がる。
前衛をフィッシュに、中衛に私と灰被り、後衛にメウラとバトルールを置いて、戦闘を再開させるために声を張る。
「ごめんなさい、指示するんでそれ以外は各自の判断で動いてください!とりあえずフィッシュさんは適当に攻撃を!あの黒いのは物理的な攻撃は防御されるんで気を付けて!」
「了解、【アグメンテーション】、【ヘイトアクション】」
それと同時、にやにやと笑いながら返事をしたフィッシュが魔術を発動させた。
どちらも知らない魔術ではあったが、片方はいつも指を噛んで発動させていた身体強化系の魔術だったようで、彼女の身体が赤いオーラで包まれていく。
それと共に、彼女の身体を中心に赤い円が周囲に広がっていく。
私達の身体を通過した時には特に何も変化はなかったものの、『祟霧の遺狐』にそれが触れた瞬間、光は巨大な狐の身体を包むように変化した。
まるで私の持つ【挑発】のような挙動。
恐らくは似たような、というよりはほぼ同じ効果なのだろう。
今まで私の方へと向いていた『祟霧の遺狐』の見えない顔が、フィッシュの方へと強制的に向かされる。
「灰被りさんはフィッシュさんの事を気にせずに攻撃で、とりあえずアリジゴクと戦った時と似たような感じで」
「了解です」
「後ろ2人は……まぁいつも通りに!」
「おいおい雑じゃねぇか?……まぁいいけどよ」
「分かりました……【補助1番】、【補助2番】」
バトルールがいつもと同じように、味気の無い名称の魔術を発動させ私を含めた全員にバフを掛けていく。
攻撃、そして防御力が向上するバフだ。
敏捷には何も補正が入らないものの……私やフィッシュ、それに灰被りには要らないという判断だろう。
「ちなみにアリアドネさんは何をするんです?」
「あー……まぁ色々としたいことはあるんですけど」
フィッシュが意気揚々と飛び出した所で、隣にいる灰被りから聞かれる。
そう言えば、彼女は私がどうやって『白霧の森狐』を倒したか知らないのだ。
「とりあえず、食われようかなって」
「……え?」
つい最近見た、何言ってんだこいつという表情をまたされたのを見て、私は戦闘中だというのに少しだけ笑ってしまった。
気を取り直して、私達のボス奪還戦は始まった。
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