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第3章 砂と土の狭霧にて

Episode 1

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燦々と照り付ける太陽。
周囲は砂しか見えず、熱によって遠くの風景が歪んでいるように見える。
そして私の目の前には、土気色をした蛇が1匹。こちらを睨んで威嚇していた。

「……あっづい……」
「これが終わったら氷系の魔術使ってあげますから!頑張ってください!」

思わず漏れた声に、近くで土気色をした狼の群れを相手にしていた灰被りが反応する。
どうして私はこんな厳しい環境で戦闘なんてものをしているのか……時は数日前に巻き戻る。


数日前。
私は灰被りとのダンジョンアタックの打ち合わせの為に、【始まりの街】のプレイヤー向けの喫茶店に足を運んでいた。
最近のVR技術は私のような一般市民では理解が出来ない程度には進歩しているようで、この喫茶店もその高い技術力を作られたコンテンツの1つらしい。
喫茶店で普通に楽しめるものをゲーム内でも楽しめるように、と考えられて作られたそれらは、何やら脳を錯覚させて云々などと、ケーキ1つとっても最新技術をこれでもかと詰め込んで作られているらしい。
そんな最新技術の結晶たるホイップクリームとスポンジの塊をフォークで崩しながら、私は灰被りの話を聞いていた。

「……ということで、どうせなら周りが挑まず、私も攻略していない【天日照らす砂漠】というダンジョンにしようかと思うんですがどうでしょう?」
「えぇっと、『天日照らす』の特性が……時間経過による【脱水】の付与、でしたっけ?」
「そうです。水分を含むアイテムを一定時間ごとに摂取しなければHPが徐々に減っていくデバフですね。ちなみに『砂漠』の特性がダンジョンの拡大、モブが潜伏するようになる……なんて感じのものですね。あぁ、サボテンなんかも生えるそうですよ?」
「ふむふむ……ちなみに難度は?」
「4ですね」
「成程……いいですね、そこにしましょう」

そのダンジョンが出現しているのは丁度私が訪れた事のある【カムプス】から更に南に移動した場所らしく。
旨味も少ないためあまり挑むプレイヤーも多くはないらしい。
それに加え、『砂漠』の特性の所為で通常マップ上に広く陣取っているこのダンジョンは流石にそろそろ活動範囲が広がってきた一部のプレイヤー達には邪魔になってきたららしく、今度有志を集めてボスを討伐する話も上がっているようだ。

だが、先に討伐してくれるのなら大歓迎という話も出ているようで。
灰被りはどうせならダンジョンアタックをするのならばここが良いだろうと提案してきたわけだった。
特に反対する理由がない私はそれにOKし、意気揚々と2人で現地へと赴いた。

ダンジョンの入り口、と言うよりは【荒野】との境界線は分かりやすく。
一歩手前までは普通の【荒野】の環境が広がっているのに対し、ダンジョンの境界らしき場所からはその全てが砂に覆われている世界へと置き換わっていた。
不思議なのは、風が吹いたとしても特にこちらへ砂が飛んでくることもなく、特性である『天日照らす』による強い陽の光も、ダンジョンに入る前には全く感じなかった。

しかしながら、一歩ダンジョンに踏み込んだ瞬間。
そこは地獄と化した。

天から降り注ぐ熱。
それに伴い付与される【脱水】のデバフに、霧を展開していても索敵出来ない敵性モブからの襲撃にガリガリと削られていく集中力。
唯一良かった点としては、灰被りと一緒に攻略しているため要所要所で氷の茨が生成されることだろうか。
すぐに溶けていってしまうものの、一時的に水分と冷気を浴びることが出来るためだ。
そこから少しずつ少しずつダンジョンの先へと進んでいくこと暫し。
現在へと時は戻る。


私の目の前にいる土気色の蛇……エリモススネークはこちらへと一気に飛びかかってきたかと思いきや、大きく私を飛び越え。
地面へ、砂の中へと潜り込んでいった。
『砂漠』の特性であるモブの潜伏行動の追加による特殊行動だ。

軽く舌打ちしながらも、私は煙管から生成させている薄い霧を自身の近くに集め、【衝撃伝達】を発動させた。
今回このダンジョンに挑むにあたり、私はいつも使っている霧を半ば制限した状態で戦闘を行っている。
自ら課した制限ではない。霧を展開している事によるメリットがほぼないからだ。

私が相手をしているエリモススネークのように、このダンジョンの敵性モブは砂の中に潜ったり、時折設置されている岩に擬態していたりと、一見しただけではそこにモブが存在するのが分からない程度にその身を隠している。
そしてそれはどうやら索敵系の魔術やアイテムの効果を掻い潜ることが出来るようで。
私が使う【霧狐】や『霧の社の手編み鈴』は勿論、灰被りの習得している索敵系の魔術でもこのダンジョンに生息しているモブの位置が掴めない程度には面倒な特性だった。

その為、基本的に戦闘は襲われてから反応するのに精いっぱい。
恐らくはメウラやイベントで見たRTBNのような使役系の魔術を使って慎重に進んでいくのが正解なのだろうが、私達2人はそんな魔術を習得していないということで……まだ始まったばかりのダンジョンアタックは苦戦を強いられていた。
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