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第2章 精鋭達の夢の跡にて

Episode 14

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最初の部屋の扉を開き、通路を確認する。
特に何かがあるようではなく、木製の箱も置かれていない。
歩いていこうとするフィッシュを抑えながら、【血狐】に先行させ罠が設置されていないかを確かめてから、私達は通路に出た。

ダンジョン内の雰囲気は変わらない。
薄暗く、そして罠があるという緊張感から変な汗が出てくる所まで全て変わらないのだが……今の『蝕み罠の遺跡』は何処かから誰かに見られているような、そんな感覚を感じることが出来た。
居心地が悪い、といえばそうだろう。

「……まずは探さないと」

あまり声を出したくはない、のだが。
思わず独り言のように呟いてしまった言葉に、先を歩くフィッシュが苦笑しながらこちらを見てきた。
申し訳ない、と思いつつ彼女のへと視線を向けると。
そこには紅い2つの光が、こちらを照らすように迫ってきていた。

「後ろッ!」
「ッ!?」

警告をするために出した声に反応し、私の周囲から設置型のクロスボウが出現し、私に向かって矢を放つ。
だが、それくらいならば対策はしている。
近くにいた【血狐】の形状を変化させ、液体の羽衣のように身に纏って矢の勢いを殺し。
そのまま地面へと落としつつ、私は紅い2つの光……『万蝕の遺人形』に接近するべく足に力を入れた。

目の前ではフィッシュが自らの指を噛み、赤いオーラを発生させながら。
更に持っているナイフで自らの腕を斬りつけることで、彼女自身の身体を変化させていた。
人の割合が多かったその身体は徐々に狼の割合が増えていく。
だがしかし、完全に狼のそれになることはなく。所謂人狼……人型の狼へと変化した。
そうして向上した身体能力を活かし、こちらの方へと跳び退きながらも手に持ったナイフをボスに向かって投げつけた。

『キヒィ♪』

しかしながら、ガキンという金属音が通路に響き防がれたことが分かった。
今だ薄暗く、目以外が見えてない相手に近づき、その頭があるであろう部分に『熊手』を振り下ろす。
【魔力付与】をハエ叩きのような形状にして確実に攻撃が当てられるよう意識したのだが……それすらも途中で何かに防がれてしまった。

目が暗闇に慣れてきて。
私の目に、『万蝕の遺人形』の姿が徐々に見えるようになってきた。
その姿はデスペナルティになる前とほぼ同じ。
しかしながらその小さな人形の両手には先ほどは持っていなかったものが握られていた。

錆びついた肉切り包丁。
それを両の手に1本ずつ持ち、その内の1本……左手に持った方で私の『熊手』を防いでいる。
もう1本の方はと言えば、今まさに私へ向かって投げようと振りかぶっていた。
……近接戦闘も出来るの?!
私はすぐに後ろへと跳び退いたのと同時、肉切り包丁が投げられ……私と『万蝕の遺人形』の間に入ったフィッシュによって包丁が弾かれる。

こちらを確認するように視線を投げてくるフィッシュに1つ頷くと、彼女は軽く息を吐いた。
目の前のアレがボスだと認識したのだろう。

『ランッランララランランラン♪』

楽しそうに何かを歌う人形の声は、先程戦った時よりもノイズが酷く。
不協和音というべき音色を周囲に発していた。

罠を設置する能力を持った人形が、近接戦闘能力まで持ち合わせた。
これだけ聞けばかなり面倒な相手になったと思うだろう。
しかしながら、この状況で私とフィッシュは少しばかり笑っていた。

当然だろう。
この場に居るプレイヤーはどちらも近接戦闘特化のプレイヤー。
しかも直前まで、相手の遠距離攻撃……矢を発射する罠なんかをどう対応して近づくかをお互い考えていたのだ。
それが、この状況はどうだ?

罠は設置されるかもしれないが……待っていれば相手が近づいてきてくれる。
勿論、相手の大きさは精々膝よりもした程度までしかなく、攻撃しようと思ったら普通の相手よりも命中させるのは難しいだろう。だがそれは些細な問題でしかない。

「任せます」
「任された」

声を出すことを躊躇わず、フィッシュと言葉を交わし距離を詰める。
瞬間、私の足裏からカチッという軽い音と共にルインズパペットが3体出現し、フィッシュの周囲の地面から彼女を狙うように木製の槍が生えてきたものの……問題はない。
私の近くに出現したルインズパペットに、羽衣状で纏っていた【血狐】をぶつけその頭部を水圧で圧壊させる。
そしてそのまま他の2体を【血狐】と、どうやったのか木製の槍を破壊しこちらへと近づいてきていたフィッシュに任せて私は前へと進む。

「【衝撃伝達】、【血液強化】」
『キャッハッ!』

先程と同じように近づいて、私は魔術の宣言を行った。
次に設置された罠は、前回私の死ぬ原因となった糸で絡めとる拘束系の罠だった。
右足を中心に設置されたその罠を避けずにそのまま受け、足がその場に固定される。
それと共に、私の周囲の床から心臓を狙うように木製の矢が突き出てくるが……関係ない。

その場でしゃがみ込み、『万蝕の遺人形』と視線が合うように高さを合わせてにっこりと笑って、私の手を見せてやる。
その行動に一瞬笑うのを止め、きょとんと呆けたように動きを止めた『万蝕の遺人形』はいつの間にか新しく手にしていた肉切り包丁で私を斬りつけようとしてきたが……パチン、と指を鳴らしてやった。

瞬間、発動するは視覚妨害に特化した私の補助魔術【霧の羽を】。
声によって識別している相手に対して、そこまで効果がないかもしれない……なんてことはなく。
キチンと私の見せつけた手に反応したこのフランス人形は視覚という概念自体は持っているらしく。
非実体の羽がその小さな頭に纏わりつくように出現した。
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