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第2章 精鋭達の夢の跡にて

Episode 13

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色々な通知が流れて行くのを見ながら、私は【カムプス】の宿屋へと戻ってきていた。
通知を見る限り、デスペナルティとして全ステータス低下が入っているのか【貧血】を受けた時のように身体が重い。
それに加えて、ボス撃退戦……明らかに放っておいたら不味い類のイベントまで始まってしまっている。

「……うん、とりあえずまずは知り合いに連絡してから掲示板を確認しよう」

こういう時になんだかんだ話を聞いてくれるのはメウラを含めた『惑い霧の森』で一緒に戦ったあの3人だ。
ログイン状態かどうかを確かめ、全員ゲーム内に居る事を確認してからフレンドチャットを送っておいた。そもそもとして【カムプス】の位置を知らない可能性もあったため、【始まりの街】から見てどの方向にあるのかもきちんと書いた上で、だ。

「うーん……撃退戦については書いてる人いないかな……?フィールドの方の掲示板にはそれっぽいモブが居るっぽいし、ダンジョンから出した人も何人かいるっぽいか……」

そして撃退戦に関して、きちんと言及されている掲示板は現状存在していなかった。
私がいつも暇な時に見ているダンジョンやボスについてまとめられている所でもそれなのだから、他の所でそれらしいものが出ているとも思えないため、掲示板を閉じ時間を確認する。

デスペナルティが解けるまで残り15分程度。
【カムプス】から『蝕み罠の遺跡』へ移動するのに大体5分ほどと考えると、残り10分ほどは何もしない方が良い時間が生まれてしまっている。
と、ここでポロンという軽い電子音と共にゲーム内通話が掛かってきた。
通話相手は……フィッシュだ。

「あ、お疲れ様です。アリアドネです」
『やぁやぁお疲れ。メッセージ見たよ、とりあえずバトくんは居ないけど私は丁度【カムプス】の近くに居るから合流しようぜ。色々詳しい話も聞きたいし』
「了解です、じゃあ場所は噴水の所で」
『オッケーイ』

私はそのまま重い身体を引きずりながら、街の中心にある噴水へと向かって行動を開始した。


噴水にて合流した私達は、時間がもったいないということですぐに街の外へ出て『蝕み罠の遺跡』へと向かって歩き始めた。
走らないのは私のデスペナルティが完全には解けていないため、少しでも時間を稼ぎながら行動するための苦肉の策だ。

「……成程成程、フランス人形……しかも幼女形のボスか」
「発声をトリガーにして罠を設置する能力もあるみたいで。実質【発声行使】メタですよアレ」
「思いっきり呪いの人形かぁ。うーん……どっちかというと私じゃなくバトくん案件だったかなコレ」
「?フィッシュさんの魔術なら生物非生物関係ないですよね?」
「あー、いや。確かに関係ないんだけど、話を聞く限り遠距離攻撃が合った方がいいだろう?ほら、私達2人だとさ」
「あー……成程、確かに前衛しか居ませんね……」

ちなみに後衛組の1人であるメウラに関しては、他のダンジョンを攻略中で手が離せないとのこと。
今話に出たバトルールは【始まりの街】を挟んで反対側の街付近にいるらしく、行けたら行くという素晴らしい言葉を受け取っていた。

「ちなみにあと何分くらいでデスペナルティは解ける?」
「えーっと、あ、切れます」

【デスペナルティが解除されました】

「よし、通知も来ました。走れます」
「オーケィ。じゃあここからは走ろうか。あっちだよね?」
「そうです。その方向に石造りの遺跡があるんで、そこがダンジョンですね」
「了解、じゃあ飛ばすぜ」

デスペナルティが解除されたため、ここからは走っての移動となる。
フィッシュは自身の指を噛み、全身に赤いオーラを纏う強化系の魔術を。
私は【発声行使】によって【脱兎】と【衝撃伝達】を発動させ、普通に走るよりも高速に移動を開始した。

少しして、ダンジョン前に辿り着いた私達は装備の点検をしてからダンジョン内に侵入する。
無駄に親切なのか、ボス戦で弾き飛ばされ回収していなかった『熊手』もしっかりインベントリに戻って来ていたため装備し直しておいた。
周囲にはプレイヤーの姿は無く、ダンジョンの特性によって人気度がここまで露骨に差が出るのかと少しだけ苦笑してしまった。

「いやぁ、中々趣がある遺跡だねぇ。特性が……成程。罠モリモリの構成か」
「一応探索中の罠に関しては新たに設置されてない限りは私が何とかできます。あー……一応発動させておこうかな。【血狐】」
「おわ、なんだいそれ。中々におどろおどろしいじゃあないか」
「新しい魔術です。詳細は言えないですけど、中々便利なので」
「ほほーう……」

減ったHPを回復薬で回復させながら、私とフィッシュ、そして【血狐】はダンジョンの中へと侵入した。

【ダンジョンに侵入しました】
【『蝕み罠の遺跡』 難度:5】
【ボス撃退戦を開始します:参加人数2人】

「……ん?」
「どうかしたかい?」
「いえ、ダンジョンの難度が3から5まで上がってるので何かと思って」
「あー。掲示板でも度々出てる話題だねぇ。新しいモブが出たりや何か悪いイベントが起こってると難度が変動するらしいぜ?ほら、『惑い霧の森』なんて今は3だったかな?」
「あ、本当ですか?あっちはもう通知スルーしちゃうからちゃんと見てなかったな……」

悪いイベント……十中八九ボス撃退戦が影響しているのだろう。
もしかしたらそれ以外にも新しいモブまで出現している可能性もあるとなると頭が痛いが……このダンジョンの探索法を思い返すと、そこまで警戒しなくても良いかもしれない。
遠距離攻撃持ちでない場合、という但し書きが付けられるが。
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