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第2章 精鋭達の夢の跡にて
Episode 12
しおりを挟む「【衝撃伝達】ッ!」
それに対して私が行った行動は単純で。
『熊手』を持った腕を捨てる形でその場から離脱することだった。
罠が新たに設置される可能性があるということで、自ら制限していた【発声行使】を使い【衝撃伝達】を発動させ、その場から離れるために床を蹴る。
少し床が柔らかいため、いつものような速度は出ないものの……それでも加速は行えた。
ブチブチブチッという嫌な音を、糸に絡まっている右腕から聞きながらではあるが。
瞬間、私が居た位置に木の槍が床から複数本勢いよく生え、残っていた私の右腕を突き刺していく。
キィンと軽い金属音を立てながら上に飛ばされた『熊手』は、『万蝕の遺人形』の背後へと跳んでいってしまった。
あれでは回収するのも一苦労だろう。
千切れた腕からは若干引くようなレベルで血が流れ出ており、HPも徐々に減っていく。
それと共に【貧血】が状態異常として付与されてしまっており、ステータスの低下まで掛かってしまっているためもう笑うしかない。
詰み、と言う奴だろう。
少しばかり短絡的に動き過ぎた、というよりは焦りすぎたといった方が適切だろうか。
だが、ここでただ諦めるのも目覚めが悪い。
そう考え私は、1つ息を吐きつつも今だ笑うフランス人形へと目を向けた。
床から突き出た槍の奥で笑う人形は、先程と違い目が紅く光っていない。
……目が紅く光ったら、罠を設置したって事かな……分かりやすくてありがたい。
どうせ死ぬのならば、出来る限りの悪あがきをしてやろう。
ニィと無理矢理口角を上げ、笑顔を浮かべ。
息を吸い込んで魔術の発動を宣言する。
「【脱兎】、【衝撃伝達】、【血液強化】ッ!」
一息で3つの魔術を発動させた瞬間、フランス人形の目が紅く光った。
やはり声を出すと罠を設置するような能力を持っているのだろう。
しかしながらそんなものはどうでもいい。
【血液強化】を発動したため、更に減っていくHPを視界の隅で確認しながら、私は再度人形へと近づくために床を蹴った。
結局の所、バトルールなどのように遠距離攻撃を持ち合わせていないのだからやることと言ったら近づいて蹴るか殴るをするだけ。そう考えれば意外とやるべきことは分かりやすい。
真っ直ぐ行って思いっきり蹴り飛ばす。これだけなのだから。
先程の数倍の速度で近づく私の足元から複数の軽いスイッチ音が聞こえ、それに伴いギロチンなどが何処かから出現するものの。
私の速度について来れていないのか、その全てを素通りしていく。
そうして先程の繰り返しのように距離を詰めた私は、そのままフランス人形を素通りし、その背後へと回り、回し蹴りの要領で身体をフランス人形の方へと向ける。
見えない何かによって蹴りは止められたものの、それ自体は別にいい。
魔術すら発動させていないただの蹴りは本命じゃないからだ。
「【衝撃伝達】」
再度【衝撃伝達】を発動させつつ、今度はローキックをフランス人形に向かって放つ。
しかしながらやはりこれも床から生えてきた槍によって防がれる……がしかし。
足が触れると同時に発生した衝撃波によって槍が破壊され、それらが全てフランス人形へと降り注いだ。
多少なりともダメージが発生したのか、名前の下にHPバーが出現し1割ほど削り取る。
どうやらその大きさからか、それとも元々そこまで体力がないのか、HP自体はかなり少ないようで。
減り方から察するに私の蹴りを1発でも命中させればHPを全て削り取ることくらいは出来そうだった。
『傷……傷傷傷ゥ……!』
だが、ここでフランス人形の様子が変わる。
何処か錯乱したかのうような声をあげると、そのままぐりん!と首をこちらへと向けた。
その目は青く、チカチカと光っている。
それに何処か嫌な予感がした私は再度距離をとろうとしたのだが……いつの間にか糸が足に絡まっており動きがとれず。
私の視界は光に包まれた。
【一定の敗北条件を満たしました:『万蝕の遺人形』の特殊攻撃を発動させる(1/1)】
【ボス撃退戦へと移行します:参加人数1人】
【HPを全て失いました。直前に訪れた街の宿屋へと転送します】
【デスペナルティ:全ステータス低下 00:19:59】
――――――――――
Tips:ボス撃退戦
ボス遭遇戦に参加しているプレイヤーが一定の回数デスペナルティになる、もしくは一定の敗北条件を満たすと、ボス撃退戦へと移行します
通常、ボスは一部の例外をボスエリア以外には出現しませんが、ボス撃退戦に移行した場合ボスがダンジョンの最奥から外へと向かって移動を開始します
外への出口にボスが辿り着く前に倒し切れなかった場合、辿り着くと同時にそのダンジョンが消滅してしまいます
出口に辿り着いたボスは準エリアボスとしてそのエリアを徘徊、プレイヤーを見つけ次第攻撃を加えるようになるため、出来る限りダンジョン内でボスを倒しましょう
――――――――――
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