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第1章 霧狐の神社にて
Episode 5
しおりを挟む「……強化系の魔術つくろ」
ぽつりと、平原の真ん中で私はそう呟いた。
私の目の前には二足歩行で立ちながら、こちらを煽るように尻尾を振っているウサギがいた。
『イニティラビット』――この【始まりの平原】で出現する、プレイヤーが戦闘に慣れるためのモンスターだ。
それこそ、某国民的RPGのスライム並みの強さしかないものの……彼らはそんなスライムと違い、プレイヤーを苦しめる個性を持っていた。
それは何かと言われれば……こちらを捕まえられない相手に対し、執拗に煽り続けてくる点だ。
私の目の前にいるイニティラビットのように、目の前で尻尾を振ってくるのはまだいい方で……人によっては転んで倒れた所を背中に乗られ笑われたりもしている。
一応一度イニティラビットに出会えばこの『煽りシステム』とでも言うべきものはオプションからONOFFが切り替えられるようだが、私はとりあえずONのままにしていた。
というのも、煽りシステムをONにしているとイニティラビットを倒した時に愕然とした表情をこちらへ向けながら光となって消えていくのだ。
初めてそれを見た時の達成感と、もっともっと見たいと思う気持ちが混ざり合った結果今もONのままなのだ。
それに倒すこと自体はそこまで面倒ではない。
私の場合だったら、イニティラビットが逃げない間に【魔力付与】付きの木の枝を数回叩きつけるだけで倒せる程度だ。
だが、その『逃げない間に』という所が難点でもあった。
単純にモチーフがウサギだからなのか、足が速いのだ。
狐の獣人族でありながら、ウサギ1匹満足に狩れないのはどうかと自分でも思うものの……こちらはスペック的には普通の人間に近いため考えてもどうしようもない。
「一応レベルは上がってるんだけど……やっぱり追いつけないもん」
――――――――――
Name:アリアドネ Level:2
HP:120/120 MP:67/85
Rank:beginner
Magic:【創魔】、【魔力付与】
Equipment:布の服・上、布の服・下
――――――――――
一応、イニティラビットを1匹倒せてはいるため、レベルが1上がりHPとMPも上昇している。
『煽兎の足』というそのままな名前の素材も1つはドロップしてくれたために、【創魔】を行うことも出来る。
あとは『詳細』か『自動』のどちらで創るのかという点なのだが……今回は自動にしてみることにした。
理由は単純にどう創られるのかが気になるため。
あとは……兎の足なんていうアイテムを使うのだ。十中八九自身の足が素早くなるタイプの魔術が作れるだろうと予想出来ているから。
「よし……目の前で見てなさいよ!【創魔】!」
今も尻尾をこちらへと振り続けるイニティラビットに指を突き付けると同時、私は【創魔】を発動させた。
瞬間、私の目の前には【白紙の魔導書】が出現した。
流石に2度目とも興奮も少しは冷めるものの、それでもワクワクするものだ。
本が独りでに開き、私の目の前に『アイテムを選択してください』という簡素な一文とアイテムリストが出現した。
そこには『煽兎の足』と、手に持っている木の枝……『???の枝』が載っていたが、今回使いたいのは『煽兎の足』のため、迷わずにそのまま選択する。
……【鑑定】系の魔術を創るための情報も集めておかないと。
本当にそのアイテムでいいかの確認を承認し、そのまま『自動創造』をタッチする。
すると、『詳細』の方とは違い『起動方法』を選ばずに【攻撃行使】か【補助行使】かを選ぶようにアイコンが出現した。
自動では『起動方法』すらもシステム側が決めるのか、と少しだけ驚きつつも【補助行使】をタッチし、続いて出てきた魔術を創造するか否かの選択に『YES』と即答する。
「さぁって!出来れば身体強化系を!お願い!」
チュートリアルでも見た演出が再度起こりつつ、未知の言語が白紙のページへと書き記されていく。
……そういえば、あの文字って読み解けるのかな。読み解くのにも専用の魔術がいるって言われそうだけど。
そんなことを考えながら見ていると、魔術が出来上がったのか私の目の前にウィンドウと共にメッセージが表示された。
【魔術を創造しました】
【自動創造のため、名称が自動設定されました】
【自動創造のため、行使方法が自動設定されました】
――――――――――
【挑発】
種別:補助
等級:初級
行使:発声行使
効果:効果範囲(行使者の声が届く範囲)内にいる敵対者のターゲットを自身へと強制的に向ける。
――――――――――
「……あれー?」
思っていたものとは違う魔術が出来てしまった。
いや、心のどこかで考えてはいたのだ。『煽兎』なんて枕詞の付いているアイテムを使って、本当に身体強化系の魔術が創れるのかと。
しかしながら、『自動創造』ではどうやって魔術を創造するのか気になってしまったのだから仕方がない。
「いやまぁ?目的はウサギ狩りだし?むしろヘイトが向くならこっちのもんだし?」
誰に言い訳をしているのか分からないが、折角できた魔術だ。
使ってみないことには期待外れなんてことは言えないだろう。
息を吸いこみ、憂さ晴らしのように思いっきり魔術の行使を宣言する。
「【挑発】ッ!!」
瞬間、私の身体から赤い円が周囲へと広がっていく。
当然、一番近くにいた目の前のイニティラビットは一番最初にその赤い円に触れ……その全身に赤い色のオーラを纏い、こちらへとくるりと身体を向けた。
その目は何処か血走っているように見え、先程までずっとこちらを煽り続けていた雰囲気は何処かへと霧散している。
そして変化はそれだけではなかった。
ボコッ、という音が複数周囲から聞こえてくる。
恐る恐る音のした方向へと視線を向けてみれば、そこには穴から顔を出したイニティラビットが複数体、血走った目でこちらを見つめていた。
ひっ、という声にならない声を思わず挙げてしまいながらも、手の中の木の枝を強く握りしめ声を上げる。
「こっ、来いやぁ!」
そんな私の声が引き金となったのか、今まではこちらを煽ったり逃げるばかりだったイニティラビット達が一斉にこちらへと襲い掛かってきた。
正確な数は分からないが、相手はスライムと同じようなもの。一度レベルアップしている私にとって、冷静に対処すればなんとかなる相手でしかない……はずだ。
兎達の体当たり、噛みつき、二足歩行ならではの蹴りなどを紙一重で避け、時に喰らいながらも、私は頑張った。
攻撃手段が枝を上から振り下ろすしかない私ではあるものの、それだけしか出来ないのが逆に功を奏したのだろう。
数十分後、平原に寝っ転がりながら肩で息をする狐獣人の姿がそこにはあった。
周囲には、倒した兎のドロップアイテムがぽつぽつと落ちている。
……何かしらの効果を狙って創る時は絶対『詳細』を使おう。
私は1つ、このゲームにおける大切な事を学んだのだった。
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