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第1章 霧狐の神社にて

Episode 1

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魔術。かつてそれを扱う者がいたとされ、現代ではそれを扱う者は想像上しかいないとされている技術だ。
既存の素材を扱い、未知の事象を引き起こすその技術は、科学の進歩と共に次第に失われていった。
だからこそだろう。人は、その技術に対して創作上ではあるものの夢を見た。

こんな術があればあんなことが出来る。
手から自由自在に火や水を出したり。空を飛ぶ事が出来たり。大地から人形を作り出し、力仕事を任せたり。

「だからこそ、かなぁ。こういうのが出るのって」

長々と頭の中で考えていたものの。
私は今、家電量販店のゲームコーナーの新作コーナーの前で1つの作品を前に腕を組んでいた。
これまで国民的と言われるRPGや、FPSを発売してきたゲームメーカーがVR業界に参入と共に、発表したパッケージ版VRMMO『Arseare』。
有名所が遂に世に出したVR作品であること、そしてそのタイトルの特殊性からVRユーザー問わず、世のゲームプレイヤー達から注目されていた。

「『君の想像力次第で様々な魔術を創り出そう!』……似たようなゲームは前にもあったけど……面白そうだなぁ」



Arseareでは、プレイヤー次第でどんな魔術でも創り出すことが可能らしい。
勿論、コストなどは掛かるものの……自分が想像した『あったらいいな』がVR上とはいえ再現することが出来るのだ。
少し前にはクローズドではあるもののベータテストもやっていたようで、レビュー自体も好評だったらしい。

らしい、というのは単純に私自体があまりこのゲームについて調べていなかったからだ。というかそもそも出る事自体知らなかった。
だからこそ、ふらっと立ち寄ったゲームコーナーで買うかどうかをこうして迷っているのだが。

「他のゲームの知り合いにどやされそうだけど……その時は引き込もうかな。まぁまだハマるとも確定してないわけだし?」

少し悩み。そして、パッケージを手に取って会計へと歩いていく。
実際にゲーム内にイン出来るのは今夜ではあるものの、新しいゲームを始める前というのはどんなゲームであろうとわくわくするものだ。


その日の夜。
少しばかり年季の入ったフルフェイス型のVR機器を被り、昼間買ってきたArseareを読み込ませインできる状態になったのを確認してからベッドに横になった。

「よーし、楽しんでみよう!」

時刻を確認すれば、もう1分もしない内にサービスが開始する時間となっていた。
少しだけ笑みが浮かぶのを感じながら、VR機器からArseareを起動させる。
すぅ、という感覚と共に自分の身体から何かが……自分の意識だけが何処かへと沈んでいくような、慣れ親しんだ感覚が私を包み込んだ。


――――――――――


次に私の視界に映り込んだのは、映画に出てきそうな豪華なカジノだった。
カードやスロット、ルーレットなど一通りのモノは揃っていて今すぐにでも遊べそうなほどだ。
しかしながら、そこには俺以外の人は見当たらない。
何故か軽快なBGMが掛かっているものの、あるべき喧騒がないためか、酷く静かに感じられた。

『これはこれは、新しい魔術師様!遅れてしまって申し訳ございません!』
「!?……えーっと、貴方は……キャラメイクとかチュートリアルを担当してくれるNPCってことでいいの?」
『えぇ、えぇ!仮称名アルファと申します、以後お見知りおきを。では早速キャラメイクから始めていきましょう!』

突然肩を叩かれたかと思えば、そこには燕尾服を着た白髪の男が立っていた。
VR系お馴染みのキャラメイクを手伝ってくれるNPCだろう。
彼の言葉に頷くと、私の目の前にウィンドウが出現した。

『そこの名前の欄にアバターの名前をご記入ください!アバターを作成する前に貴女様の名前が分からないと会話がしにくいですからね』
「あぁー成程。じゃあ、うん。これで」
『アリアドネ様ですね、少々お待ちを!……はい、運営側も問題ないと判断したため、これから貴女様の事はアリアドネ様と呼ばせていただきます!』

私が普段使っているハンドルネームをそのままアバターネームとして入力した。
どうせ色々な所で使っている名前だ、今更変える気もないしいいだろう。

『では続いて、アバターの作成に入っていこうと思うのですが……』
「思うのですが?」
『いえ、注意事項というか。リアルに近づけすぎると特定などのリスク~なんてお話は聞き飽きましたよね?なので別の話をしようかと思いまして』

そう言うと、アルファは1冊の本を取り出した。
古く、見た事もない革で装丁されたそれを彼は開きながら話始める。

『まず、このArseareには大きく分けて3種類の人が居ます』
「ファンタジーとかでよくある人族とかそういう括り?」
『そうですそうです!そのままの意味での人族、そして人族を基として動物の特徴を持っている獣人族、最後に体格などが小さい代わりに属性魔術に特化している妖精族。この3種が生存、日々魔の頂へと到達する事を目指しています』

……人、獣人、それと妖精かぁ。
あるあるな話だ。しかしながら彼の話には聞き逃せない部分が存在した。

「えっと、属性魔術?それと魔の頂ってのは?」
『これは失礼いたしました!属性魔術というのはその名の通り、属性を持っている魔術の事となります!このArseareにおける最大の特徴である『魔術を創る』という点で、そういった属性が付与されることがあるのです!……例えば、風を操る魔術を創り出せば、その魔術は風属性に。火を熾す魔術を創り出せば、それは火属性に……と、非常にシンプルなものですがね!』
「成程?属性は何種類あるの?」
『現状6種類となっています。パラケルススという人物はご存じでしょうか?彼の提唱した四大元素……火、風、土、水の4つに加え、ファンタジーの定番ではありますが、闇と光の2つを加えた6種類。これは今後のアップデートでその数が増える可能性もあります!』

基本的にはその6属性……いや、アルファは属性が『付与されることがある』と言っていた。
そこから考えるに、恐らくは無属性とでもいうべきものが存在していると考えるべきだろう。
つまりは、火風土水闇光、そして無の7属性がこのArseareというゲームには存在すると考えた方がいいだろう。
当然、属性があるからには相性なんかも存在するはずだ。それが何基準で定められた相性かによって対処も変わってくるため、検証は必要だろう。

「色々あるのね。で、魔の頂って方は……」
『そちらは所謂グランドミッション、グローバルクエスト、世界目標……呼び方は様々ですが、このArseareというゲームでアリアドネ様含めたプレイヤーの皆さまも目指すものとなります。また後々説明することにはなりますが、創ることが出来る魔術には『等級』が存在します。それを一定値、尚且つ複数持つことが条件となっていますので、詳しい条件はご自分で……ゲーム内でお探しください』
「ふぅん……まぁ今色々言ってても仕方ないわよね。ごめんなさい、邪魔しちゃって。アバター作成しましょうか」

グランドミッションに関わる項目。
ゲームを始める前の段階で少しでも教えてもらえたのは運が良かったのか、目の前のアルファというNPCがお人よしなのかは分からないが……どうせ興味本位で始めるのだ。
ゆるゆると目指してみてもいいかもしれない。

アルファが指を鳴らすと、彼が開いていた本は消え。
代わりに私の目の前に新しいウィンドウが2つ出現する。
マネキンのようなものが映っているものと、何やらパラメータを弄れるものの2つだ。

「これでアバターを作ればいいの?」
『そうなります!一応VR機器の方から他のゲームで使っているアバターを読み込み出力することや、現実の貴女様をスキャンしゲーム内に反映させることも出来ますがいかがされますか?』
「……んー、いや私は良いわ。ある程度自分で弄るからこれで」
『了解いたしました!では、私は黙っていますので、心ゆくまでアバター作成をお楽しみください!』
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