186 / 192
第五章 月を壊したかぐや姫
Episode 34
しおりを挟む■【食人鬼A】CNVL
足を欠損したハロウの代わりに、1歩前に出る。
正直、今回私はそこまで前に出るつもりは無かった。
というのも、それなりに暴れられる場を与えてもらっていたからだ。
この区画順位戦中、1日目の天使騒動から既に私は色々と自由な行動を刺せてもらっていた。
出来得る限り用意していたアイテム群が底を尽いているのが良い証拠だ。
あれらを使い切る程度には、無茶な事を沢山やった。
そして、それらをやらせてくれたハロウの為に、デンスの重要拠点を守ろうと……デスペナルティになった後、自分の身体の一部を文字通り食いながら戦っていたのだが……そんな時。
同じく重要拠点の防衛を行っていたスキニット達、顔見知りのプレイヤー達に言われてしまったのだ。
『道中程度なら、俺達の持ってるアイテムで保つだろ!』
『リーダーのパーティのアタッカーがこんなところで道草食ってんじゃねぇよ』
『ほら、行ってこい。どうせハロウの事だ……また無駄に1対1とかやってボロボロに負けそうになってんだろ。ちょっくら行って横槍いれてこい』
『正々堂々なんてクソ喰らえだねぇ。ほらほら、CNVLちゃん。ここは君の居場所じゃあないんだよ、行ってらっしゃい』
だからこそ、私は今ここに立っている。
自分の意思じゃない、なんて言えば気持ち的には楽なのだろう。
しかしながら、私は今自分の意思でここに立っている。立ってしまっている。
目の前には、巫女服を着た見覚えのない女性プレイヤー。
名前も知らない、顔も今見たのが初めて。しかしながら、何となしに誰なのか理解できた。
確認のために声を掛ける。
「ところで、彼女がアリアドネさんでいいのかな?」
「――ッ。……えぇ、そうよ。私がアリアドネ。この先に行きたかったら――」
「あー、うん。私はそういうのあんまり気にしてないんだけどさぁ……」
アリアドネの名乗り自体はどうでもいい。
この先に行くかどうかなんてのもどうでもいい。
私にとってこの場で一番気になるのは別の事……それでいて、この世界で一番重要な事だ。
今まで戦っていたハロウは、見ればわかる通りに戦えない。
ネース所属の2人も戦う気があるのかないのか、後ろに下がったまま。
残りのうちの2人は後衛で、私達の居るラインに立つような役割じゃあない。
つまり、私の獲物。
ということは、だ。
「これから、私は君の事を喰らい尽くしてしゃぶりつくす。辛くなったら言ってくれればすぐにデスペナ送りにするから、遠慮なく元気に手を挙げてくれよ?」
「……嘗めてるの?」
「あはッ、嘗めてないさ。これから舐めるけどね」
そう、味だ。
彼女の味は、どんなものなのか。それをじっくりと、ねっとりと、骨にこびりついた肉を丁寧に丁寧にこそぎ落とすかのように味わい尽くす。
最近は区画順位戦の準備のために時間がなく、現実でもこの世界でも味気ない料理が続いていたのだ。
つまり簡単に言えば……食欲がもう限界なのだ。
ネースに赴いた時に一時的に凌いだものの、美味しいものが食べたいという欲はどうやっても頭の中を埋め尽くしていく。
ログアウトして近場へと繰り出せば違うのだろうが、今ログアウトしてしまえば区画順位戦中に戻ってこれるかは怪しい。
つまりは……ゲーム内で、一時的に欲求を満たし続けるしかないのだ。
「ハロウ。良いよね?」
「えぇ、私はもう無理だもの」
「オーケィ。じゃあここからがミールタイムだ」
一種の願掛けのように言葉を紡ぐ。
意味が分かっているのか、それとも私の存在をあまり理解できてないのか。
しかしながら、何か殺意のようなものを私に向けているアリアドネに対し、にっこりと笑いかける。
今までは彼女も何かしらの矜持などをもってハロウと戦っていたのだろう。
しかしながら……ここからはそんなものはいらない。
食うか食われるか、それだけしかない戦いだ。
野性と野性がぶつかり合うだけの泥臭い戦いだ。
相手が何を使おうが、それには違いがない。
呆気にとられているアリアドネに、自身の身体能力にものを言わせ近づき。
手に持っていたマグロ包丁で無造作に右から左へと斬りつける。
型なんてあったもんじゃない、適当な一撃。
「くぅッ、【竹取の五難題】ッ!」
首ではなく胴体を狙ったその一撃は避けられることなく、そのまま彼女の身体に吸い込まれるようにして当たり。
次の瞬間、光と共に傷が癒えていく。
普通ならば、この回復能力に色々と思うことがあるのだろう。
しかしながら、私はそれを見て更に笑みを深めた。
そんな私を見て、何故か恐怖したような顔を浮かべるアリアドネに、私は語り掛ける。
「どうしたんだい?君がここに立っている理由は、私を恐れる程度で消えてしまうものなのかなぁ?」
「……ッ」
相手の事情なんてものは知らない。
全くもって裏の事情なんて調べていない私にとって、そこの情報はあってもなくても関係ない。
だが、ただ怯えているだけの獲物は面白くない。
焚きつけるように。煽るように。そんな気がなくとも、相手のやる気が出るように。
私は一度、後ろに跳び退きながらそう言った。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~
ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。
そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。
そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー!
これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる