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第五章 月を壊したかぐや姫
Episode 33
しおりを挟む■【印器師A】ハロウ
空高く昇った4体の水龍は、空中で絡み合いその身を1つにしていく。
大きく、そして長く。
水流のようだったその身に流れる水は、今は激流のように変化していた。
先程の私の対処の仕方を見て、アリアドネ側が何かをしたのだろう。
あれを身体のどこかだけで受けようとすれば、そのまま水の勢いでHPが持っていかれそうだ。
だが、避けたくとも私にターゲッティングされているために受け切らなければならない。
……んー、今回3回目のデスペナかしらねぇ。
諦めたわけではない。
今もどうにか出来ないかを考えてはいるが、結局さっきの攻撃でここまでボロボロになっている私には4体分の攻撃をこの身で受けきれない。
それだけの話なのだ。
スキニットのように、私がタンクであれば違ったのかもしれない。
CNVLのように、回復能力が高ければ違ったのかもしれない。
ソーマのように、状況で選択できる武装があれば違ったのかもしれない。
だが、そう思った所で私は私だ。
私にしかできないことは勿論あるし、私にしかできないことの中でアレには対応しきれなかった。
龍が落ちてくる。
それを見て、私は目を静かに瞑る。
恐らく、私がデスペナになればメアリー達が遠距離攻撃を主体に戦い始める事だろう。
ここまで戦って、アリアドネは遠距離攻撃に対応できるスキルを『龍の首の玉』以外には使っていない。
否、一応『燕の子安貝』も合わせれば2つだろうが……あれは使うのに何かしらの条件が付いているんじゃあないだろうか。
そうじゃないのなら、最初に私から一撃喰らった時やそれ以外の時も回復し続ける事が出来るのだから。
だからこそ……正直、私が居なくなったところで不利にはならないだろう。
寧ろ私の我儘に付き合わせていた分、有利になる可能性すらある。
そんなくだらない事を考えていたからだろうか。
目を開けると既に水龍はすぐ上、頭上にまで迫ってきていた。
「ふぅ……リーダーが聞いて呆れるわ」
そう、独り呟いた時だった。
「――そうかい?でも私は君だからついて行ってるんだけどねぇ」
私の視界にピンクと赤に彩られた人型の何かが現れ、水龍へと突っ込み……そして、水龍は爆発する。
周囲に雨のように飛び散ったその中身は、先程と違い少しだけ赤色が混じっていたものの。私に当たる前に何かに――否、見覚えのある者に当たり極限まで無力化されていた。
「……重要拠点の方の防衛は?」
「本当は私も戦いたかったんだけどね。スキニットくんが『こっちは十分だからお前は前にいけ!』って」
自分から水龍にその人物は、何事もなかったかのように私の横へと着地する。
見れば、所々欠損している部位があるものの……自分の身体を口に運ぶことで無理矢理回復しているようだった。
「そう、ならいいわ。……ありがとう。助かったわよ、CNVL」
「あはッ!素直にそう言われるとむず痒いものがあるねぇ」
私達と同じようにディエスへ殴り込みをかけ、そして途中で別れ。
デスペナルティになった彼女は、どうやら気を利かせた知り合いによって前線へと戻されたようで。
ここにきて、彼女は……CNVLは戦闘に参戦する。
足が片方無くなり、足手まといにしかならない私はここで下がるしかない。
代わりに、うちのパーティのアタッカーがデスペナルティを背負いながらではあるものの、参戦する。
その攻撃能力と、条件付きではあるが継戦能力は私以上のプレイヤーの登場が意味するものは1つしかない。
とても単純で、それでいて残酷な答え。
……私の仕事、というよりは……今回の区画順位戦自体が終盤かしらねぇ。
「ところで、彼女がアリアドネさんでいいのかな?」
「――ッ。……えぇ、そうよ。私がアリアドネ。この先に行きたかったら――」
「あー、うん。私はそういうのあんまり気にしてないんだけどさぁ……」
CNVLはゆったりと。
この場の誰よりもリラックスしているかのように自然に、マグロ包丁をアリアドネへと構える。
「これから、私は君の事を喰らい尽くしてしゃぶりつくす。辛くなったら言ってくれればすぐにデスペナ送りにするから、遠慮なく元気に手を挙げてくれよ?」
「……嘗めてるの?」
「あはッ、嘗めてないさ。これから舐めるけどね」
ふざけた言動で、にやにやと笑いながら。
しかしながら、彼女は眼だけは真っ直ぐアリアドネを真剣に見据えていた。
「ハロウ。良いよね?」
「えぇ、私はもう無理だもの」
「オーケィ。じゃあここからがミールタイムだ」
CNVLというプレイヤーは、消費出来るアイテムさえなければ無力化できる。
そう考えられていたものの、最近その認識は改められた。
ダメージを受けるものの、自身の身体を喰らうことでスキルの発動が出来ることに気が付いたからだ。
といっても、そこまでして戦う意味は薄く……私もCNVLと別れる前に出した指示はそこまでやるように考えてはいなかった。
しかしながら、彼女自身がそれを選択したという事は。
この無駄な戦いが終わりに近づいたことを意味していた。
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