Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 31

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壁を噛み砕きながら。
水龍達はこちらへと向かって飛んでくる。
何かの意思があるかのようなその動きに、思わず顔を引きつらせてしまった。

ホーミングタイプの攻撃には昔から対処法というものが決まっている。
所謂『髪の毛でも何でも、自身のモノにさえ当たってしまえば命中判定になるだろう』理論だ。
漫画やライトノベルなどから発祥したその理論は、勿論VRMMOの世界でも取り入れられた。
……と、いっても。それが成功したという話は聞かないが。
当たり前だろう。髪の毛一本一本に当たり判定を付けるなど、正気の沙汰ではない。
そんなアバターが万を超える数存在するゲームなんて、この世の何処を探してもないはずだ。

だからこそ、ホーミングタイプの攻撃に対処法は無い――一種の例外さえ除いてしまえば、だが。

「確かめるためには必要よねぇ……」

一種の例外。
それは言ってしまえば対処法でも何でもないものだ。
人によってその名称が変わるため、例外とされるこの方法。
それは、

「マギ!防御と再生!受けきるわ・・・・・!」
「ちょ、まさかとは思いましたけど本気ですか!?」
「本気も本気よ!壁で止まらなかったんだからそうするしかないでしょう?!」

単純にそのホーミングタイプの攻撃を受けきる。それだけだ。
それの何処が対処法なのだ、と言われそうだが……私もそう思う。
これは単純に逃げれない、足の遅いタンク型のプレイヤーが主に選択する方法だ。
これを教えてくれた知り合い曰く、
『逃げ切れないしそのまま想定外の所で当たるよりは、自分の想定している所に当たった方がダメージコントロールもしやすくないかい?』
とのこと。

最初に聞いた時はそんなバカなとは思ったものの。
実際、自分がそういう特性をもった攻撃をうけるとなったら、その考えが本当の本当に最終手段であることが分かった。
諦めるわけじゃない。次に繋げるために受けるのだ。
そして、私はそれを自分流にアレンジする。

まともに喰らえば私のHPは根こそぎ持っていかれるだろう。
それだけは間違いない。
流石に地面を盛り上げて作り上げた即席の壁と言えど、それをいとも簡単に噛み砕くような攻撃に対して、私の身体が保つとは思えない。
だからこそ、出来る限りの小細工を行う。

「あぁ、もう!【魔女術:防御向上ディフェンシブ】、【魔女術:耐性向上レジスト】……次いでにはい、コレ再生効果のある薬ッ!!」

背中越しにマギの強化を受け取り、嫌がらせか……それとも日々の鬱憤晴らしか、後頭部に直撃したフラスコが中身をぶちまけながら割れる。
瞬間、私の身体に掛かっていた印章による効果よりも強力な【再生】が付与されたのが分かった。
それに続き、私も【洋墨生成】を発動して自身の周囲にインクを湧き出させ、それらを操作する。
もはや目前に水龍が複数迫ってはいるが、それでもこれだけはしておきたい。
……最後ッ!
目の前まで来ている水龍に対し、私はワンテンポ遅れながら、右方向に跳ぶ。

次の瞬間、私がさっきまで居た位置を水龍達が通り抜け……その内の何体かがその身を弾けさせながら空中へと跳んでいく。
それと同時、私の身体も大きく後ろへと弾き飛ばされていった。

「おぉう!?思わずキャッチしちゃったけど許してくれよ?!……って、それ大丈夫?」
「大丈夫よ、ありがとう」

丁度直線状に居たのか、私の事をキャッチしてくれた柚子饅頭に礼を言い。
立ち上がろうとしてバランスを崩す。
見てみれば、私の左足にあたる部分が太腿周辺まで無くなっていることに気が付いた。
……予定通り、って言えば予定通りねぇ……。
倒れないように、インベントリから双剣状態の【HL・スニッパー改】を取り出し杖のように扱う。
何故か柚子饅頭だけじゃなく、こちらの味方であるはずのマギ達も引きつった笑みを浮かべているが気にしないでおく。

私が行ったことはまぁまぁ単純だ。
『髪の毛でも何でも、自身のモノにさえ当たってしまえば命中判定になるだろう』理論、そして知り合いから教えてもらった考え。
この2つを参考に、私は穴だらけの理論を考えた。
髪の毛がダメならば、自身の失っても大丈夫な部位を。
攻撃を全て受けきれないのならば、一部受けられる分だけ攻撃を受ければいいのだ。

部位欠損の概念が実装されていなければ成立しない。
相手の攻撃がそこで消えない場合も成立しない。
事実、今回は運が良かったのか悪いのか。複数いた水龍の内、2、3体ほどが弾けて消えていった。
残っているのは後……4体。
腕や足を喰らわせていけばすぐに消える程度の数だ。

HPの消費に関しては問題ない。
マギに掛けてもらったバフ3種のおかげか、ダメージは多いものの、戦闘不能になるほどではない。
今も徐々に回復していっているHPを目の端で捉えながら、私は空へと飛んでいった残った水龍を視界へと収めようと顔を上げた。
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