Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 30

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しかし、疑問に思う事もある。
それはここに全くと言っていいほど、他のプレイヤーの姿がないことだ。
マギによる索敵や、私自身感じるもの。そしてネース側の2人も何かしら自前での索敵手段。
それらが目の前のアリアドネ以外のプレイヤーが周囲に居ないことを示している。

これはかなり異常な事だ。

人というものは、勝ちたいと思うほどに集団での行動が出来なくなっていく生き物だ。
勝ちたいという気持ちだけならば統一は出来るだろう。
その次に来る欲望が……カッコよく勝ちたい、相手を痛めつけて勝ちたい、スマートに勝ちたいなどと考えてしまうために個人個人でのワンマンプレイが増えていってしまう。

そんな人間がプレイしているこのゲームで。
一定数の人間が勝ちたいと思うイベントで、防衛しなくてはいけない施設をたった1人だけが防衛し続けるなんて事は、普通……あり得ない。
それこそ、周りと隔絶された実力を持っている等、考えられる理由はいくらでもある。
しかしながら、それらは目の前のアリアドネというプレイヤーには当てはまらない理由だ。

隔絶された実力?
私が対応できている時点で、それはあり得ない。
タンクではない私が攻撃を受け、そして適当に回復しながら立ち回れている。これだけで彼女の実力がこちらに近い……もしくは少し下程度である事が分かる。

ディエス全体の実力が低い?
それもあり得ない。
ここに来る道中で戦った感覚からすれば、彼らは少なくともデンス所属のプレイヤーとほぼ同じくらいの実力は持っていた。
彼らがここに居れば、私達は物量作戦で圧し潰されていただろう。
では、何故。
目の前のアリアドネ以外は、この場に居らず……そして、援軍に来る様子もないのか。

……色々考えられるけれど、まぁ単純に考えるなら『メリットがない』からよねぇ。
防衛しなければいけない施設の防衛。もしくは、アリアドネというプレイヤーと共に戦う事自体にデメリットしかないとしたら……この場に誰もいないのは納得がいくかもしれない。
だが、私は一度自分の所属区画で防衛をしているプレイヤー達を見ている。
そこには何か防衛を続ける事でデバフ等を貰っている様子も、不満もなさそうだった。
つまりは、防衛に関するものではないと断定してもいいだろう。

『マギ、アリアドネの噂でも何でもいいんだけど、ぼっち姫って呼ばれてる理由とか知ってる?』
『なんです急に。いやまぁ、知ってはいますよ』

考え事をしていたからか、アリアドネが何か透明な水晶玉のようなものを手に持って、周囲に水球を複数浮かべていた。
恐らくは声に出さず、思考操作だけでスキルを発動しているのだろう。
周囲の水球は次第にその形を変え、東洋龍のような形へと変わっていく。

そして私がそれに気が付いたからなのか、否か。
アリアドネはにっこりと笑うと、こちらへと玉を向ける。
瞬間、周囲の水球……否。水で出来た龍達は、私に向かって襲い掛かってきた。

『ぼっち姫。これは一番最初に誰かが言ってから広まったんですが……まぁ、単純に。最初は誰ともパーティを組まず、ソロの状態でダンジョンに潜っていたそうなんです。でもあの整った容姿でしょう?だからアイテムを貢ごうとする人が多かったみたいで』
『あぁ、そこで姫?』
『えぇ。アイテムとかは受け取ってなかったみたいなんですけど、まるで姫みたいな扱いを受けてたらしくて。でもそれもある時から収まったらしいです』

水龍達は私がどんな動きをしようと、その顔をこちらへと向けついてくる。
所謂ホーミングしてくるタイプの攻撃なのだろう。
追尾してくる攻撃は総じて攻撃力などが低かったりする特徴があるのだが……その特徴は、この水龍達にはないらしい。

今も、『土精の鎚』の【隆起】による簡易的な一時しのぎ用の壁が水龍によって噛み砕かれた。
追尾してくるタイプの攻撃で壁を破壊する威力を出すなんてどんな威力なのか。
防御能力がそこまで高くない私が喰らったらひとたまりもないだろう。

『ある時から、彼女に近づくと急速にHPやMPが減っていくようになったようです。しかもそれは彼女に近しい人になればなるほど激しくなっていったそうで。代わりに、今の僕達のような……敵対している者が近づいても、それは現れなかったようで』
『……何とも言えないわね』
『まぁそうでしょうね。で、一連の流れから付いたあだ名がぼっち姫。過去は姫で今はぼっち……みたいな感じですね』
『成程ねぇ。ありがとう』
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