Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 29

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空中に跳びあがり、手に持った右手に持った剣を振るう。
狙いは首。当たればそのままデスペナに持っていける部位だ。
『火鼠の皮衣』の効果によるカウンターは空中では避けることが出来ないが……パラケルススのように、当たったら死ぬようなものではないだろう。

アリアドネの立っている場所は階段だ。
身体を大きく動かし避けるといった大きな動作は出来ない。
もしかしたら『火鼠の皮衣』にダメージ吸収、もしくは一時的なダメージ無効化効果があるのかもしれないが……それでも私の剣は2本ある。
1本防がれ身を焼かれたとしても、もう1本で殺し切れるのだ。

「【竹取の五難題】」

無理矢理避ける、『火鼠の皮衣』によって受ける、階段から降りる、未知のスキルを使い防御する。
私の考えていた彼女の防御手段。しかしながら、彼女はそのどれでもない選択をした。
手の平を上へ開き、そこに白い光が集まり何かが呼び出されていく。
そして、私の剣が彼女の首へと届く。

スパン、という小気味良い音と共にそのまま彼女の首へと私の攻撃が当たったのが感触で分かった。
幻影でも、先程のように人型を使った変わり身でもない。完全に彼女自身の肉体に当たった感触だ。
カウンターは……何故か発動しない。

複数の疑問が私の頭の中に駆け巡る。
何故カウンター効果が発生しなかった?
他の狙いが何かしらあったのか?
最後に呼び出していた何かは、私の剣を防御するものではなかったのか?
その効果は何なのか。彼女のしたかったことは何なのか。
そこまで考え、彼女の手の平に集まっていた光が弾ける。
そこにあったのは……何かの貝だった。

……『燕の子安貝』か!?
竹取物語で貝と言えば、かぐや姫が出した5つの難題の中の1つ……『燕の子安貝』。
安産祈願のお守りとも、ツバメが自身の子の目を直すために持ってくるものだとも言われるそれは、水色の光を放ち始めた。
その効果に関してはある程度予想がつく。つくからこそ、私はもう片方の……左手に持った剣を『燕の子安貝』を持つ彼女の手に向けて振るった。

再度、剣が肉へと届いた感触が剣越しに伝わってくる。
狙った位置よりも奥……腕を斬ってしまったようだったが、それでも当たり所や威力が高かったのだろう。
彼女の腕をそのままの勢いで斬り飛ばすことに成功した。
しかしながら、空中で無理をしたからか……体勢を崩した状態で私は地面へと落下していく。

――それと同時、彼女の手の中の水色の光が弾ける。

光によって、私の視界が一瞬塗りつぶされる。
衝撃や、それに伴い減っていくHPの表記を見て、私が地面に激突したことは分かった。

徐々に視界が元に戻っていき。
素早く身体を起こし、アリアドネの居た方向へと顔を向ける。
そこには、

「あー……やっと目が慣れてきた。だからコレ使いたくないんだよね」

なにやらぼやいている、首も腕も繋がっている健康体にしか見えないアリアドネの姿があった。
……防御じゃなく、回復によるダメージの回復の方をとったってわけね。

『燕の子安貝』の効果なのだろう。
彼女の手の中には既にその貝自体はなくなっていたものの、斬り飛ばしたはずの腕が繋がり、少しは傷が出来ていてもおかしくない首は傷1つ見つけられない。
所謂、完全回復。ダメージを受けてもデスペナになる前に回復しきってしまえばいいだけという……ある種のゾンビ戦法のようなもの。

だが、それでも強すぎる・・・・
全てのダメージを回復出来てしまうのならば、『燕の子安貝』を延々と呼び出しながら戦えばいいだけの話となってしまう。
しかしながら、ここまでアリアドネは1回もそれを行わなかった。
嘗められている可能性もある。だが、それよりも……何かしらのデメリットが存在するのではないだろうか。

強力なスキルにはデメリットがつきものだ。
【暴食本能】然り、【強欲性質】然り……特殊スキルには何かしらのデメリットがついているように。
彼女の扱っている求婚難題をモチーフとした宝の品々にも、何かしらのデメリットがついてしかるべき……だと思いたい。
そう、思いたいのだ。

「……回復も持ってるなんてやるわねぇ」
「普段は使わないわよ。流石に色々と間に合わなそうだったから使ったけど」

ぶっきらぼうに、しかしそれでいて起き上がって体勢を直している私を油断なく、石階段の上から見下ろすアリアドネに有効な攻撃手段が何かないかを考える。
考えるが……どうしてもこの場に居ないうちのアタッカーに任せた方が良いという考えが頭を過る。

『土精の鎚』があるとはいえ、手数で勝負するタイプの戦い方をする私とアリアドネの相性は悪い。
いや、こちらのスピードについて来られている感じはないため、速度で翻弄しつつ攻撃を加え続ければ何とかなるのかもしれないが……それでも途中で私がガス欠を起こしそうだ。

後ろの2人に任せるという手もあるが……如何せん、【竹取の五難題】の存在がネックとなってくる。
改めて思うが、戦いにくい相手だ。
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