Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

文字の大きさ
上 下
179 / 192
第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 27

しおりを挟む

敵が目の前にいるというのに、思わず上を見てしまう。
そこには、

「隕石!?」

空から降ってくる岩のような何かがあった。
私の身体くらいならば下敷きになってしまうくらいには大きいそれは、今もこちらへと向かって落ちてきている。
……いや、隕石なんかじゃない!竹取物語準拠ならアレは……。
直前に宣言したスキルは、彼女が身に纏っている推定『火鼠の皮衣』を出現させた【竹取の五難題】。
それに倣うのであれば、上から降ってきているアレは竹取物語の中の5つの難題の中の1つなのだろう。

一番近いのは……『仏の御石の鉢』、だろうか。
釈迦だけが持つことが出来ると言われる、石の鉢。
落ちてきているのであれば、下から支えればいい。

インベントリ内から【土精の鎚】を取り出し、【隆起】の印章が彫られた面を地面へと叩きつける。
瞬間、触れた地面が盛り上がり今も私に向かって降ってきている石の鉢に向かって伸びていった。
それらはそのままぶつかり合い石の鉢の勢いを殺していく。
しかしながら、その勢いが完全に死ぬ事はなく……少しずつではあるが、今も落下し続けていた。

「凄いじゃない!そんな方法で止める人初めてみたわ!」
「余裕そうね」
「まぁ、まだスキル1つしか使ってないしぃ……」

こちらを見て楽しそうに笑うアリアドネは、ちらと私の後ろ……ネース側の2人に向けて視線を向けた。

「正直、あの2人が参加してこない限りは何とかなりそうな気がするのよね。貴女、本当に決闘イベントの優勝者?」
「あからさまな挑発ありがとう。でもそれを言われると弱いわねぇ……」

顔は苦笑いを。
しかしながら、言われた一言に対して反応してしまう。

一瞬で双剣へと持ち替え、石の鉢を無視して元々近づいていたアリアドネに対し。
一歩でその距離を零に……剣を振るう事が出来る距離へと詰める。
アリアドネはこの一瞬で起きた事が理解できていないのか、きょとんという顔を浮かべていたが、それに対して苦笑いを崩し……にっこりと笑ってやる。

「【強欲性質】」
「なァッ!?」

そしてしっかりと与えたダメージ分ステータスを強化していくスキルを発動させ……その無防備な胴体に向かって左から右へと剣を振るう。
近すぎたのか、それとも反応出来なかったのか……それとも別の理由か。
その一撃は避けられず、アリアドネの胴体へとするりと吸い込まれるように入っていく。

瞬間、彼女の羽織っていた推定『火鼠の皮衣』が赤い光を放ち始めた。
やはりというか、予想通りの代物だったのだろう。
すぐさまその光は炎と変わり、私に向かって飛んでくる。
……申し訳ないけど、似たようなのはもう見てるのよねぇ。

少しだけ眉を困らせながら、その炎を軽く横に跳ぶことで避ける。
後ろから焦ったように私を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、気にしない。恐らくマギだろうし。
アリアドネの顔に更に驚愕が浮かぶものの、仕方がないだろう。
私も酔鴉と共に攻略したダンジョンの経験がそのまま活かせるとは思わなかったのだ。

「さぁ、どんどん行くわよ」

戦闘のスピード感を上げていく。
元々こういった白兵戦は得意ではないのだろう。徐々にアリアドネが付いていけなくなるのを感じ、ソーマを含めるネース所属のプレイヤーがどうしてあんなにも警戒していたのかを疑問に思った。
ソーマの性格ならば、私がそこまで苦戦しない相手ならば……『まぁ、お前なら何とかなるだろう』などと言ってもおかしくはない。

しかしながらそれを言わなかった。
と言う事は、何か警戒するに足るものが目の前の彼女に存在しているということなのだ。

そんな事を考えていた、その時だった。
ずしん、と私の後ろで重い何かが落ちる音がした。
恐らくは【隆起】によって止めていた『仏の御石の鉢』が地面に落ちたのだろう。少しばかり私がそちらへと意識が逸れた瞬間、

「【竹取の五難題】、【怠惰模造】ッ!」

彼女は大きく後ろへ……階段を数段上がるようにして私から無理矢理距離をとり、スキルの宣言をした。
片方は3度目となる竹取物語関係のもの。
そしてもう1つは名称から私の【強欲性質】、CNVLの【暴食本能】と同じ特殊スキルであることが分かった。

――そしてその効果は一目瞭然だった。

アリアドネが何かを握りつぶすとともに、私の目の前には先ほど拘束してきた白い粘性の液体で出来た人型が少なくとも5体以上出現した。
恐らくは、ネース所属のプレイヤーはコレを知っていたのだろう。
特にソーマはこれが出来る事を知っていた……だからこそ、少しの特徴だけでそれが誰の仕業か分かったのだろう。

絶望はない。
寧ろどうやって拘束を解くのか知っている私達が相手をしていて良かったと言うべきだろう。
そうして、私はパーティチャットを開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

セルリアン

吉谷新次
SF
 銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、 賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、 希少な資源を手に入れることに成功する。  しかし、突如として現れたカッツィ団という 魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、 賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。  人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。 各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、 無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。  リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、 生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。 その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、 次第に会話が弾み、意気投合する。  だが、またしても、 カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。  リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、 賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、 カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。  カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、 ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、 彼女を説得することから始まる。  また、その輸送船は、 魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、 妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。  加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、 警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。  リップルは強引な手段を使ってでも、 ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~

霧氷こあ
SF
 フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。  それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?  見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。 「ここは現実であって、現実ではないの」  自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...