175 / 192
第五章 月を壊したかぐや姫
Episode 23
しおりを挟む走ること暫し。
進行方向に大きな山が見えてきた。
他の区画からも見えるんじゃないかと思うくらいには巨大な山。
しかしながら私がそれを目にするのは初めてだった。
恐らくゲーム上の仕様なのだろう。区画内に居ないと見えない……なんて設定がされていそうだ。
既にここまで近づいていることくらいはディエス側にも伝わっているだろう。
だが、何故か山に近づくにつれ、襲ってくるプレイヤーの数は減少していた。
「マギ、あれでいいの?」
「えぇ。あれがディエスの第一階層ダンジョンの【忘れ去られた神社】です。といっても、実際にダンジョンに繋がってるのはこの道を進んだ先にある石階段からだけなんですけどね」
「……一応聞くけれど、なんでそんなに詳しいのよ」
「そりゃあ、あの先輩がどこで迷惑かけるか分からないじゃあないですか。迷わずに向かえるように地理くらいは頭に入れます」
「苦労してるのねぇ……」
ハイライトの死んだ目を虚空へと向けながら空笑いするマギを、少しだけ気の毒に思いながらも、私には彼の先輩の行動を縛る事は出来ないので心の中で応援だけしておいた。
あの自由人は戦闘に関する指示などには耳を傾けてくれるが、それ以外の事になると割と自分のやりたい事をやりたいようにこなしていく。
しかもその結果が最終的に益となったりするのがいやらしい。
明確に馬鹿やっているのならば指摘することも出来るのだが、結果が出ているためにどうしようもないのだ。
「メアリー、攻撃準備だけしておいて」
『了解(゚д゚)!』
「ディエス所属のお2人は……やりたいことある?ダンジョン攻めるならそれでいいのだけど」
「そうだな……どうする、ジョンドゥ」
「そォだねェ……」
仕草だけは考えるように。
少しだけ顎に指を添え、空中に目を彷徨わせた彼はこう言った。
「うん、攻めようかダンジョン。この後絶対ぼっち姫がいるだろうしィ?」
「……一応理由を聞いても?」
「簡単さ、ボク達はぼっち姫とは戦いたくない。というか、そもそもボク達はPvEばかりやってるから、対人の経験値が低いのさ」
「私もジョンドゥと同意見だな。私達は如何せん君達とは違い、決闘などには触れていないものでな。たまにやる程度で、そこまでじゃあないんだ。……今回のコレで少しばかり考えないといけないと思っているがな」
ジョンドゥの意見に、柚子饅頭が同意する。
彼らが戦いたくないというぼっち姫……ソーマの話ではアリアドネというプレイヤーだったか?
私は全くもってアリアドネの事を知らないために、その危険度というのはあまり理解していない。
特殊な……それこそ何かしらのデメリットがあるのであろう、デンスやその他の区画を襲っている強力な使役系スキルを使う事くらいしか分からない。
だが、彼らが戦いたくないと断言するほどには強いプレイヤーなのだろう。
少しだけ、知らず知らずのうちに顔がにやけてしまったのを抑える。
それに気が付いたのか、マギとメアリーがじとっとした目を向けてくるものの。
今回は別にソーマの時のように1人で戦う気はないから安心してほしい。
「安心してくれ。とりあえずハロウ達に挑んでもらおうと考えているから」
「それは安心していいんでしょうかね……」
「私としては願ったり叶ったりだけどねぇ。決闘イベントにも出てこなかった子でしょう?色々気になるわ」
そんな会話をしているうちに、山の……ダンジョンに繋がるという話の石階段が見えてきた。
次いで、その一番下の段に1人のプレイヤーが座っているのも見えた。
長い黒髪に、コスプレのような丈の短い巫女服を着た女性プレイヤー。
空を見上げていた彼女は、こちらに視線を向けると軽く息を吐いた。
そのまま近づいていくと、その場に立ち上がり頭を掻きながら何やら呟いているのが聞こえてきた。
「あー……きちゃった。でもソーマの姿はない、か。木蓮さん頑張ったなぁ」
「……貴女の名前は?」
「私?私は――ンンッ。私の名前は、アリアドネ。一応言っておくけれど、ディエス所属ね」
「ではこちらも自己紹介を。デンス所属のハロウよ。……一応聞くけれど、奥に通してもらう事って出来るかしら?」
一応聞いてみる。
戦わずに済むのならその方がいいからだ。個人的に戦ってみたいが私欲でしかないために私の思いはグッと抑えて。
「無理無理。というかこっから通したら戦犯ってレベルじゃあないわよ」
笑いながら。
そして、少しばかりこちらを蔑むような眼を向けながら。
彼女は両腕を横に広げた。
「一度言ってみたかったのよ。……ここから先に行きたいのなら、私を倒してからにしなさいッ!この、ディエス所属のッ!アリアドネが相手をするわ!」
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説


セルリアン
吉谷新次
SF
銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、
賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、
希少な資源を手に入れることに成功する。
しかし、突如として現れたカッツィ団という
魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、
賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。
人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。
各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、
無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。
リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、
生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。
その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、
次第に会話が弾み、意気投合する。
だが、またしても、
カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。
リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、
賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、
カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。
カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、
ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、
彼女を説得することから始まる。
また、その輸送船は、
魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、
妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。
加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、
警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。
リップルは強引な手段を使ってでも、
ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる