Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 23

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走ること暫し。
進行方向に大きな山が見えてきた。
他の区画からも見えるんじゃないかと思うくらいには巨大な山。
しかしながら私がそれを目にするのは初めてだった。
恐らくゲーム上の仕様なのだろう。区画内に居ないと見えない……なんて設定がされていそうだ。

既にここまで近づいていることくらいはディエス側にも伝わっているだろう。
だが、何故か山に近づくにつれ、襲ってくるプレイヤーの数は減少していた。

「マギ、あれでいいの?」
「えぇ。あれがディエスの第一階層ダンジョンの【忘れ去られた神社】です。といっても、実際にダンジョンに繋がってるのはこの道を進んだ先にある石階段からだけなんですけどね」
「……一応聞くけれど、なんでそんなに詳しいのよ」
「そりゃあ、あの先輩がどこで迷惑かけるか分からないじゃあないですか。迷わずに向かえるように地理くらいは頭に入れます」
「苦労してるのねぇ……」

ハイライトの死んだ目を虚空へと向けながら空笑いするマギを、少しだけ気の毒に思いながらも、私には彼の先輩の行動を縛る事は出来ないので心の中で応援だけしておいた。
あの自由人は戦闘に関する指示などには耳を傾けてくれるが、それ以外の事になると割と自分のやりたい事をやりたいようにこなしていく。
しかもその結果が最終的に益となったりするのがいやらしい。
明確に馬鹿やっているのならば指摘することも出来るのだが、結果が出ているためにどうしようもないのだ。

「メアリー、攻撃準備だけしておいて」
『了解(゚д゚)!』
「ディエス所属のお2人は……やりたいことある?ダンジョン攻めるならそれでいいのだけど」
「そうだな……どうする、ジョンドゥ」
「そォだねェ……」

仕草だけは考えるように。
少しだけ顎に指を添え、空中に目を彷徨わせた彼はこう言った。

「うん、攻めようかダンジョン。この後絶対ぼっち姫がいるだろうしィ?」
「……一応理由を聞いても?」
「簡単さ、ボク達はぼっち姫とは戦いたくない。というか、そもそもボク達はPvEばかりやってるから、対人の経験値が低いのさ」
「私もジョンドゥと同意見だな。私達は如何せん君達とは違い、決闘などには触れていないものでな。たまにやる程度で、そこまでじゃあないんだ。……今回のコレで少しばかり考えないといけないと思っているがな」

ジョンドゥの意見に、柚子饅頭が同意する。
彼らが戦いたくないというぼっち姫……ソーマの話ではアリアドネというプレイヤーだったか?
私は全くもってアリアドネの事を知らないために、その危険度というのはあまり理解していない。
特殊な……それこそ何かしらのデメリットがあるのであろう、デンスやその他の区画を襲っている強力な使役系スキルを使う事くらいしか分からない。

だが、彼らが戦いたくないと断言するほどには強いプレイヤーなのだろう。
少しだけ、知らず知らずのうちに顔がにやけてしまったのを抑える。
それに気が付いたのか、マギとメアリーがじとっとした目を向けてくるものの。
今回は別にソーマの時のように1人で戦う気はないから安心してほしい。

「安心してくれ。とりあえずハロウ達に挑んでもらおうと考えているから」
「それは安心していいんでしょうかね……」
「私としては願ったり叶ったりだけどねぇ。決闘イベントにも出てこなかった子でしょう?色々気になるわ」

そんな会話をしているうちに、山の……ダンジョンに繋がるという話の石階段が見えてきた。
次いで、その一番下の段に1人のプレイヤーが座っているのも見えた。
長い黒髪に、コスプレのような丈の短い巫女服を着た女性プレイヤー。
空を見上げていた彼女は、こちらに視線を向けると軽く息を吐いた。
そのまま近づいていくと、その場に立ち上がり頭を掻きながら何やら呟いているのが聞こえてきた。

「あー……きちゃった。でもソーマの姿はない、か。木蓮さん頑張ったなぁ」
「……貴女の名前は?」
「私?私は――ンンッ。私の名前は、アリアドネ。一応言っておくけれど、ディエス所属ね」
「ではこちらも自己紹介を。デンス所属のハロウよ。……一応聞くけれど、奥に通してもらう事って出来るかしら?」

一応聞いてみる。
戦わずに済むのならその方がいいからだ。個人的に戦ってみたいが私欲でしかないために私の思いはグッと抑えて。

「無理無理。というかこっから通したら戦犯ってレベルじゃあないわよ」

笑いながら。
そして、少しばかりこちらを蔑むような眼を向けながら。
彼女は両腕を横に広げた。

「一度言ってみたかったのよ。……ここから先に行きたいのなら、私を倒してからにしなさいッ!この、ディエス所属のッ!アリアドネが相手をするわ!」
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