Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 17

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これは後から知ったことだが。
ディエスという区画は現実区画と言われているものの、内情を調べてみるとその認識は少し違う事が分かる。

というのも、ディエスという区画は宗教の色が強いのだ。
神道、仏教、キリスト、ヒンドゥー、ユダヤ……現実で存在する宗教がある程度まで再現され、それ以外にもこのゲーム特有の宗教も根付いているらしい。
それらが全て、ディエスの中にまとまっている。
思えば、デンスやオリエンスでも修道女のような姿をしている者や、【犯罪者】が【汚職神父】というプレイヤーもいるのを見かけた事がある。

では何故そんな話をしたかと言えば。
私が見つけてしまったのは、それに関係するものだったからだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あはッ!近づけば近づくほどに嫌な感覚・・・・が強くなるねぇ!」

屋根から屋根へ跳ねるように区画内を進んでいく。
目的地は、【食人礼賛】で上から確認した巨大な岩。道中に居るプレイヤー達に見つかりながら、そして私を追いかけるように空中から襲い掛かってくる【式紙】を軽くあしらいながら、私はそれが何なのかを確かめるために足を動かしていた。

それに伴い、何か背筋に汗が一筋流れていくような。
虫が身体中を這うような、気持ちの悪い感覚。
近づくにつれ、何故か強くなるそれを感じながら、私は笑う。

「1人じゃあないとこんな寄り道できないからねぇ。ハロウは多分あのプレイヤーに対して使いきれって言ってたんだろうけど……まぁ、私に頼んだんだ。変な方向に向かって突っ走るのも予想済みだろうさ」

……だけど後で怒られるだろうなぁ。
何故かそんなくだらない事が頭に浮かびつつ。私は目的地へと辿り着く。

そこはディエスに入ってからみた広場のどれよりも広く、プレイヤーが多く集まっているからか他の場所よりも騒がしい。ざっと3、40人ほどいるだろうか?
そして目を惹くのはそれらの中央にある巨大な岩だろう。
何故か・・・その岩自体を拘束するように規則性もへったくれもなくグルグルと注連縄で巻かれていた。
そんな広場の様子を見て、私はこの場から離れようと即座に決断した。

プレイヤーの数は問題ない。
流石に頭が破壊されたら不味いが、それ以外の場所の欠損ならば私のスキルによる回復で何とか乗り切れるだろうからだ。
しかしながら、問題はそこではない。

問題なのは、その注連縄の使い方だ。
……注連縄って確か神道の奴だよねぇ。くそったれの自己中の領域と現世を分ける結界、だっけ。
神域と現世を隔てるもの。厄や災いを祓う結界。
それが注連縄の枠割であり、意味だ。

このゲームでどこまでそれが再現、実装されているのかは知らないが……1つだけ確実に言える事がある。
それは、

「……あんな使い方をしてる時点で、碌なもんじゃあないねぇ……」

巨大な岩が何なのかは知らない。
だが、あんな巻かれ方をしているモノが危険でないとは口が裂けても言えないだろう。
そんな危険物がある場所に私1人が居ても仕方ない。
というか、完全に好奇心だけで来たのものの、予想以上に危ないモノを発見してしまい、今だけは自分を恨みたくなってしまう。

兎に角、この場から離れようと。
離れてハロウ達に連絡を入れようと思い、振り返ればそこには。

「おや、どこに行くつもりでしょうか?」
「その声……ッ!」

厭らしい笑みを浮かべた、宮司のような恰好をした1人の男性プレイヤーが私の背後に立っていた。
見知らぬ顔。人の顔をあまり覚えられない私でも、間違いなく初対面だということが出来る彼の口から発せられたその声は聞いた事があった。
どこで?
当然、ディエスの中で。

先程まで頭の中に響いていたあの声の主が、私の目の前に立っていた。

「……どうして、こんな隙だらけの私を攻撃しなかったんだい?」
「不意打ちというのは好みませんので」
「【式紙】を使って人を追い詰めている奴が言う事じゃあないぜ?」
「はは、それはそれ。これはこれですよ」

この場から逃げ出したいのに、それが出来ない。
歩くようにこちらへと距離を詰めてくる彼に対し、私は少しずつではあるが後ろへと……広場の方へと後退ってしまう。
何故か何も言えないような威圧感を感じて。

「アレを見たんでしょう?どうです?私達【狂信者】のスキルを使い、共同で作り上げた【偽神体】は」
「……【偽神体】?」
「えぇ、えぇ。元は【狂信者】のスキルを素材に使う事で作成できた、所属している組織に対応する宗教的シンボル。それらを巨大な岩に出来る限り大人数で使ったらどうなるのか、そういう実験をディエスでしていたんですよ」

何故か、目の前の男は笑うように語り出す。
その姿は宮司というよりも、白衣を着て実験を行う科学者のように見えた。
私の横を通りすぎ、岩の方へと歩く彼の姿をどうしてか目で追ってしまう。

「そうして出来上がったのが、【偽神体】。あれだけでもスキルの触媒として使うには本当に優秀なんですよ?それこそこれを使えばもっと大量の使役系のNPCを呼び出すことができるくらいには」
「……それを私に伝えるなんて正気かな?私が情報を流すとは思わないのかい?」
「はは、何を馬鹿な事を。通話機能が制限されている現状、貴女をキルしない限りは情報漏洩の心配なんてないでしょう?」
「は?」
「ん?」
「……あぁ、いや、何でもない」

……これは……本気で言ってるのかな?
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