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第五章 月を壊したかぐや姫
Episode 16
しおりを挟むそうと決まれば、やることは単純だった。
ナイトゾンビの腕を大量に出現させ、それを消費する事で【フードレイン】を持続させながら。
私は元々在庫が少なく、そもそもこのイベント中に使う予定のなかった素材を取り出した。
「さぁ、頼むぜ?イタダキマス」
インベントリから取り出した肉塊を、【式紙】達の目の前で見せびらかすように喰らう。
何やらこちらへと手裏剣や折り紙の鶴などが飛んでこようとしていたものの、それらは例外なく血に濡れ、近づく前に地へと落ちてしまう。
口の中に広がる、濃厚な血の香りとどこか酸っぱさのある肉の味。
歯で噛む度にぶちぶちと切れていく繊維を感じながら、それを喉の奥へと押し込んでいく。
ごくん、と飲み込めば……私の身体から赤黒い液体が湧き出した。
それらはべちゃべちゃと地面に落ち、独りでに盛り上がり人型を形作る。
『そのスキルは……ッ!?』
発動させたスキルは勿論、【祖の身を我に】。
それを使うために使った素材は勿論、ゾンビスポーナーの肉塊。
そうして発現する効果は勿論――自立型のNPCの生産。
「さぁ行け!私以外のプレイヤーを見つけたら即座に拘束ッ!他は無視!拘束後連れてくること!出発!」
私の号令に対し、特に反応する事なく……しかしながら迅速に人型達は動き出す。
彼らは【フードレイン】の中に居ようと影響を受けないのか、いつもと同じように散らばっていく。
その動きを見た私はにっこりと笑った後、インベントリからマグロ包丁……【解体丸】を取り出した。
……正直、ただ声を私に向けて届かせてるだけの可能性は否めないなぁ。
予想する。
最悪ではあるが……【式紙】を行使しているであろうプレイヤーがこの場に居ないかもしれないという予想をする。
【食人礼賛】によって出現させた骨の腕による大規模な破壊。
【フードレイン】による実質的な【式紙】の無力化。
そして【祖の身を我に】の捜索及び拘束。
当然、これらを突破し私へと攻撃するための準備をしている可能性は十分にあり得る。
だがそれにしては、こちらへのアクションが少なすぎるのだ。
ここまでに仕掛けてきた事と言えば、【式紙】による攻撃と声による煽り程度。
それ以外にも攻撃手段くらいはあるだろうに、それらを見せてこない。
隠れ、忍んで攻撃を行う。そのための準備をしているのだろうか?と考えたものの、それにしてはこうして私が棒立ちで考えているのにアクション1つ起こさない。
「あー……一応連絡だけはしておくかぁ」
パーティチャットに逃げられたかもしれない旨を書き込み、そのまま捜索と破壊活動を継続することも一緒に書いておいた。
……索敵系のスキル持ってないのが悪いから何も言えないのがつらいなぁ。
【食人鬼A】のスキルの中には、相手がどこに居るのかを知覚できるような便利な効果を持っているスキルは存在しない。そのため、普段は勘かマギの作成した薬を服用することで索敵を行っていたのだが……この場には私しかいないのだ。
もしも逃げている最中ならば、どう探すべきか。
索敵スキルも、その心得すら知らない私がそれをするには何が必要かと考え、ふと思いつく。
「……【食人礼賛】」
消費するは、アクターゾンビの足10本。
そして創り出されるは、巨大な異形の肉の片足だ。
ぐんッと一気に、強制的に私の身体の高度を上げ、周囲を見渡していく。
普段よりも3倍ほど高い景色は、周囲に存在する建物の屋根よりも上から周囲を俯瞰するような状態になっている。
私が今現在立っている森の跡地。そこから少し離れた位置で今もなお【式紙】達が大量に集まっている一角。恐らくはソーマ達が戦っている場所だろう。
そして、少し離れ神社のような場所へと向かって爆発音などが聞こえてくる大通り。
十中八九ハロウ達だ。
そうして周囲を見ていれば、1つ気になる物を発見した。
それは、
「……?なんだろあの岩」
ディエス所属のプレイヤーと思われる人たちが、区画の中心近くに存在する巨大な岩へと集合していた。
巫女だったり神主だったりと宗教関係の姿をした者も多い。
それを見つけた私は、少しだけ迷った後に【食人礼賛】を解除してからそこへと向かう事にした。
赤黒い人型達へ出した命令は、そのままに。
まぁ帰ってきたときに捕まえられていればいいのだと、楽観的に考えながら。
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