Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 10

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■【?奕?T】アリアドネ

「……よし、ちょっと危ないけどまだ大丈夫」

重要拠点へと続く石階段。
そこで座りながら目を瞑り、自身のスキルから発生した者たちの動向を確かめていく。
何体かが偶然発動された索敵系のスキルに引っかかってしまったようだが、正体自体はバレていないようだった。
集中を解いて浅く息を吐き。ゆっくりと目を開くと、目の前にはいつの間にか1人の男性が立っていた。

宮司のような姿をした彼は、私と目が合うとにっこりと人の良さそうな笑みを浮かべ私の隣に座り込んだ。

「あれ?木蓮もくれんさん?」
「どうだい、守備は?一応こっちはこっちで上空から索敵、情報収集させてはいるけれど」
「問題ないよ!まだきちんと見つかってないからね」
「それは上々。でも報告だ」

笑みを消し真剣な表情を見せた木蓮に、思わず私も背筋が伸びる。
その様子を見た彼がまた少しだけ笑みを溢すものの、すぐに切り替え話し始めた。

「ネースの方で動きがあった。ソーマが何人か連れてこっちに攻め込んできてる」
「また?昨日も何人かのグループで継続的に攻め込んできてたよね?」
「あぁ。それだけだったらこうして報告に来なかったんだけどね……今回は少し事情が違う」

一息。

「ソーマだけじゃなく、あの・・ハロウまで一緒になって来てるんだ」
「……『決闘狂い』が?」

『決闘狂い』。
誰が付けた通り名かは知らないが、以前行われた決闘イベントにて笑いながら巨大なハサミを振り回し、相手を殺していったプレイヤーだ。
確かデンスに所属していたような気がする。

「1人だけ?それなら別段問題ないんじゃ……」
「いや、ハロウだけじゃなくそのパーティメンバーまで来てる。同盟らしきものは組んでいないようだが……どうする?」
「……うーん。脅威度がイマイチ分からないなぁ……」

私の認識では、ハロウというプレイヤーは個人戦が強いものの。
今回のような集団戦ではあまりその強さを発揮できないと考えていた。
普段彼女と共にこのゲームをプレイしているメンバーが居たとしても、だ。

だが、それでも警戒はするべきだろう。
ハロウとそのパーティメンバーが来るということは、その分こちらが相手にする数が増えるということなのだから。
自身の思う脅威度はこの際一旦忘れておくことにする。
何せこのゲームを始めてから何度も良くしてもらった木蓮が、直接私の元まで来て報告してくれたのだ。

「……うん、木蓮さんありがとう。気を付けるね」
「礼は要らないさ。……一応護衛用の式神を付けようか?」
「あはは、大丈夫だよ。それに付けられない・・・・・・でしょう?」
「そこはほら、周りの自然物とかに……いや、君が大丈夫と言うならそうだろうな」

木蓮はそう言うと、その場から立ち上がり階段を降りていく。
少しずつ小さくなっていく彼の後ろ姿に、私は何かを感じてしまったのだろう。

「木蓮さんも気を付けてね!」

気が付けば、そう声を掛けていた。
木蓮はその声に私の方へと振り返ると、頬を掻きながら苦笑いを浮かべ……こちらへ手を振ってからまた階段を降りていった。
その姿を私はじっと見つめた後、息を吐いた。

ソーマと、ハロウ。
この2人が何故手を組んでディエスこの区画へと攻めてきているのかは分からない。
彼らは当然ながら重要拠点へと向かって侵攻してくるのだろう。

「でも、ここに来るまでに他の区画の重要拠点を潰しちゃえば関係ないよね」

彼らが来る前に、他を全て潰す。
この2日目でイベントを終了させるつもりで動けばいいのだ。
そう考えた私は、もう一度集中し直し人型達の現在位置を確認した。

こちらの命令通りに動いている人型達は、そのほぼ全てが他区画の近くまで辿り着いていた。
恐らく索敵系のスキルがほぼ常時使われているのだろう。
命令通り、これまで人に見つからないように動いていた人型達は索敵スキルが使われている範囲内には追加の命令がなければ入っていかない。

「……大丈夫。いける。よし……」

私は人型達へ新たに命令を下す。
瞬間、遠くから複数回何かが爆発するような音が聞こえてきた。
人型達が姿を人前に表し、各区画の重要拠点へと攻め込み始めたのだ。

ここからが勝負。
私達が勝つ為の、チャンスを掴む為に。
私は更にスキルを発動させた。
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