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第五章 月を壊したかぐや姫
Episode 4
しおりを挟むCNVLのマグロ包丁と、神酒の腕が交差する。
血が舞い、腕が舞う。
肉も舞い、しかしながら両者の動きは鈍らない。
「あはッ!いいねぇそのタフさ!私も欲しいぜ」
「お?なり方教えようか?ネースに来ないと多分無理だと思うけどね!」
「それは遠慮しておこう!私は私で自分の【犯罪者】を気に入ってるからねぇ!」
そんな事を言いながら、両者が互いを傷つけあっているのを私達は準備運動なんかをしながら傍目から見ているのだが……そろそろ行動に移すべきだろう。
マギの方を見ると、彼は頷き虚空から液体の入った三角フラスコを取り出した。
その行動に神酒がこちらへと視線を向けたものの。
私達との間にCNVLがするりと入り、それを遮った。
いつの間にか手に持っていた包丁などが無くなっている。恐らくはインベントリ内にでも仕舞ったのだろう。
「先輩、そろそろお願いします」
「りょーうかい!」
「何を……っておぉ!?組み付き!?あっ、しかも関節極めてるのコレ?!ダメージ入ってるじゃん!」
そしてマギの声と共に、CNVLが神酒の身体に絡みつくようにして地面に抑えつけた。
神酒が動けなくなった事を確認すると、マギが手に持ったフラスコを足元に叩きつけた。
瞬間、私達パーティ全体に対し敏捷性……つまりは速度が上昇するバフが掛けられた。
それを確認し、私達は頷き合うと神酒とCNVLの横から路地裏へと続く道へと走って通り抜けていく。
「あっちょっ!待って!おーい!ほらCNVLちゃんも離して!」
「あは、離したら追いかけるだろう?しかも今は私とのタイマン中だ、集中しようぜ?」
「あぁッ!確実にコレあとでソーマに怒られる奴じゃん!あとでCNVLちゃんも私の事擁護してよね!?」
「それは気分によるかなぁ」
後方からそんな会話が聞こえてくるが、私達は前へと進む。
恐らく待ち構えているであろう、ソーマの元へと急ぐために。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■【食人鬼A】CNVL
事前に決めた通りに動き、神酒の片腕を後ろへと回しながら地面へとうつ伏せの状態で倒す。
そのまま私は神酒の背中に跨るように座り、もう片方の自由な腕も同じように無理矢理背中へと回させた。
それぞれの腕を足によって固定し動かないようにすると、私は見えないだろうが神酒に向かってにっこりと笑みを浮かべる。
そしてハロウ達がネースの奥へと走っていくのを見ながら、私は神酒へと語り掛けた。
どうやら暴れても無駄なのが分かったのか、彼女は大人しく私を背に乗せたまま動かない。
現実と違い、痛みは無いはずだから無理矢理に動こうと思えば動けるのだが……警戒はしておこう。
「さて、神酒ちゃん。君は不死性の高い化け物とは戦った事があるかな?」
「……えぇっと、それは今必要な事?」
「必要さ。あぁ、必要だとも。だって考えてもみなよ?君と私、不死性の高い化け物とその討伐者。この2つは似たような関係だろう?」
「はは、確かに言えてるかもね!でもこのFiCではそういうのとは戦った事はないよ?戦った事があるにしても他の作品だし……そういうのは基本的にギミックがあるからね」
私の質問に対して、しっかりと返してくれる彼女に更に笑みを深くしながら。
私はインベントリから腐った肉片を取り出し丸呑みして強化スキルの持続時間を延ばしておく。
「んん。そう、そうなんだよ。不死性の高いっていうと絶望感しか与えないけれど、基本的にはそういう奴らを倒す術ってのは存在しているのさ。だからこそゲームというものは成り立つんだから」
「ちなみにこれは時間稼ぎの為の会話?だったら早めに解放してくれると助かるんだけど……」
「あは、違うぜ。全然違う。これはまだ本題にすら入ってないんだよ神酒ちゃん。あぁ、すまないね。私は本来話を脱線させるような人間じゃあないんだけど、どうにも気持ちが昂っているようなんだ」
そう言いながら、私はフリーになっている手にインベントリ内からマグロ包丁を取り出した。
やはり人間大の相手に対して使うのならば出刃包丁よりもこちらの方が使いやすい。
特に相手を喰らうために解体するときは。
「さて、話を戻そう。ここで問題になってくるのは……というか本題は、君のその不死性の高さから、どうやって倒すべきなのかという点さ。君はボスではなく、単純に私達と同じ一般の1プレイヤーでしかない。ならばHPなどといったシステム的制約からは逃れられない。そうだろう?」
「まぁHPとかはあるね。確かに」
「昨日の戦闘中、君はずっと攻撃を喰らいながらも生き残り、そしてタンクの真似事のような事をしてくれていた。あの時は助かったよ。でも同時に疑問もあってね。そう、どうやって即座にHPを回復しているのかって」
「……」
そのまま、私は手に持ったマグロ包丁を彼女の腕へとぴたりと触れさせる。
一瞬彼女の身体がびくんと跳ねたが、何が触れたのか分かったのか息を小さく吐いた。
「そして私達は仮定として、君のそのHP回復速度を何かコストがあるものだと関g萎えた。というか身近にそれらしい例が居たから当然さ。じゃあ聞こう。何故私がそんな君との戦闘役に選ばれたと思う?」
「……同じタイプだと考えたからじゃないの?仮定の通りならば、私がCNVLちゃんと同じタイプの【犯罪者】を使っている。なら、同じタイプで相手をすれば、ジリ貧になるだろうって」
「概ね正解だね。そう、同じタイプがいるならそれをぶつけるべきだ。でも、君と私じゃ決定的に違う点が存在するのは分かっているかな?」
不死性の高い化け物を倒す時、ゲームならばそれ相応のギミックが必要となる。
それこそ、封印という形をとることで、一時的な撃破という形にするとか。
だが、そんなものはこのゲームには存在しない。
ではどうやってこの目の前のしぶとく生き汚い相手を倒すべきなのか?
答えは簡単だった。
「……」
「そう、コストの内容が違う。美紀ちゃんが何を使っているのかは分からないし、本当にコストを必要とするタイプの【犯罪者】を使っているのかどうかも分からないけれど、それでも私の【食人鬼】と同じように、人肉をコストとしている事は絶対にないだろうね。だからこそ、私が君の相手として選ばれた」
「……どういうこと?」
「あは、こういう事さ」
そう言って、私はマグロ包丁で神酒の腕を切断した。
どうにも、彼女の身体は脆い。それこそ彼女自身が武器にしたように、腕の力だけで腕を引きちぎれるように。
そして私は切断した彼女の腕を口に近づけ、それを喰らう。
先程から食べていた腐った肉片にはない、どこか甘く、そして酸っぱく苦く。筋っぽい肉を飲み込んでいく。
「うーん、柔らかいね。良い肉だ……と、お替りがすぐに生えてくるのは良い事だねぇ。……さて、ここまですれば君には分かるよね?」
「人肉をコストにするからこそ、私を抑えつけて延々と食事を行う事でスキルのコスト稼ぎにも使える、と?」
「あは、全部じゃないけど8割正解だね。さぁ、抵抗してくれて構わないぜ?私は私で君の身体でブレックファストを頂くとしよう。では……イタダキマス」
種がある不死ならば、その種が尽きるまで延々と喰らい続ければいいだろう。
私達が出した答えは、そんな単純なものだった。
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