Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 3

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喫茶店から出て、私達は私達のパーティで固まり移動を始めた。
といっても、私達の行先は決まっているのだが。

「……ちなみに確認しますけど、本当に行くんですか?」
「行くわよ?だってそっちの方が確実だし……今も見てるでしょうから、隠し事は意味ないでしょうしね」
「まぁまぁマギくん。いいじゃあないか。私は戦ってみたい子がいるから賛成だぜ?」
『それにしてもネースかぁ……私結局最初の1回目しか行ってない気がする(';')』

そう、私達が向かうのは第一区画ネース。
高度な科学技術によって発展した区画で、情報処理や収集に関しては他の区画から頭一つ二つほど抜けている。
それこそ、私がソーマに会うため連れられていったディスプレイが大量にある広場のような場所をみるだけでもそれが分かるだろう。
今回、周りの区画は全て敵。ならば先に消耗させるべきは情報強者であるネースだろう……というのが私達パーティでの判断だ。
……まぁ、同盟とかの余地があるならそれに越したことはないんだけど。

あくまでも無理はしない。これを大前提に動くつもりだ。
というのも、デンスの中でネースへと攻撃を仕掛けようとしているのは知り合いの中では私達だけなのだ。
人気がないというわけではない。単純に他に、デンスの地形について詳しい者たちがいるからこそ、皆そちらへの攻撃を優先しているというだけの事なのだ。

「いやぁ、同盟もこういう時には仇になるわね」
「普段仲良くしてる分そうなりますよね。特に禍羅魔さんとか一度こちらへ攻めてきてますし、絶対攻撃部隊に居ますよあの人」
『こっちにはスキニットさんとか居るし大丈夫じゃない?(´・ω・)危なかったからこっちに連絡来るだろうし』
「あは、一番危ないのは酔鴉だと思うけれど……まぁあの子もあの子で私と同じコスト消費型の強化スキル持ちだからねぇ。前線に出るとしてもそこまで長時間はいられないだろうし何とかなるだろうねぇ」

そう、私達デンスにとって一番脅威度が高いのは実はオリエンスなのだ。
良くも悪くも繋がりが深いあの区画は、私達の区画の地理情報についてある程度知っているプレイヤーが多い。
当然だ。最近では第一階層でも他の区画から着ていると思われるプレイヤーの姿も増えてきている。その中でもやはり多く見かけるのはオリエンス所属のプレイヤーだ。
アクセスもしやすく、一度同じ戦場で戦ったからだろう。他の区画のプレイヤーよりも親しいのだろう。

しかしながら、その交流の結果として……今もなおこちらへとオリエンス所属のプレイヤーが攻め込んできているらしい。
恐らく運営的には他の区画所属のプレイヤーと交流を持ち、親しくなり始めたからこそこんな形式の区画順位戦イベントを開催したのだろう。

「そろそろね」

そんな事を考えながら走っていると、ネースとデンスの境界に辿りつく。
現実でもよくある、ビルの裏路地へと繋がっていそうなその道は昨日訪れた時よりも暗く……意図的に照明が落とされているのであろうと察せられた。
途中何度かデンス所属プレイヤーとすれ違ったものの、こちらへとアクションをかけてこなかったためスルーしていたが……仲間を増やすという意味では声を掛けておいた方が良かったかもしれない。

「確かハロウが言うには、もう監視されてるんだっけ?」
「私の場合は多分ドローンか何かで見られてたっぽいけどね。後は……そうねッ」

私は咄嗟にインベントリ内から【HL・スニッパー改】を双剣状態で取り出し前へ交差するように構える。
次の瞬間、何か水っぽい湿った音と共に私の腕へと強い衝撃が伝わった。

「彼女自身が私の事を発見してたわ」
「ありゃ?防がれちゃった」
「不意打ちはPKの基本だから。それにPvPじゃいっせーのでは対面から始めるのよ?突然こういう攻撃が来ることくらいは想定しないと」
「……うわぁ、『決闘狂い』モードじゃん。聞いてないよソーマぁ……」

視線を前へ……暗闇の方へと向けると、その奥からは短い間ながらも昨日行動を共にしたネース所属のプレイヤーである神酒が何かを投げたような姿のまま立っていた。
見れば、彼女の左腕が肘の辺りから引きちぎられたように欠損しており、そこから大量の血が流れているのが分かった。
だがそれも、すぐさま新しい腕が生えてきて何事もなかったかのように動かしている。

「よーし、防がれちゃったら仕方ない!これ言いたかったんだよね!……ここから先に進むなら私を倒してからにしろ!」
「推定不死、もしくは回復能力特化のプレイヤーが壁になる。うん、時間稼ぎには確かに良いわよねぇ……CNVL」
「あいあいさっさっと。私が相手になるぜお嬢ちゃん」
「ん?全員で私をぼこぼこにしなくていいの?私が言うのもなんだけど、絶対そっちの方が早いと思うよ?」

一歩横にずれ、代わりに私が居た位置……神酒の真正面となる位置にCNVLが立つ。
その手にはいつものマグロ包丁と出刃包丁を既に持っている。準備万端という奴だろう。
口がもごもごと動いているため、恐らくはいつも通りに腐った肉片も食べているはずだ。

「それがそうでもないって言ったら?」
「……んー、まぁそういう深く考えるってのは私に向いてないからここにいるわけだし!いいよ、1人ずつそっちが来るなら1人ずつ倒してくだけだよ!」
「あはッ!良いぜ、まず私を倒してからその台詞は吐いておくれ!」

ネースとデンス、その境界上で私達の2日目初戦闘が始まりを告げた。
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