149 / 192
第四章 天使にレクイエムを
Episode 38
しおりを挟むこちらへと振るわれる光の剣を弾くのではなく、逸らすようにして受け流す。
今までは真っ向から力と力をぶつけ合わせていたために、力の差によって腕に負担がかかっていたが、これならば多少衝撃はくるものの真っ向から受け止めるよりはマシだろう。
【思考加速】が切れる前に、無理やりにこの捌き方を身体に覚えさせていく。
ボスの方はといえば、中々ダメージを与えられない事に苛々してきたのか、その人形の様に整った顔を歪ませていた。
……そういえば聖母マリアって聖人って括りでいいのかしらね。
集中せねばならない状態とはいえ、ある程度やることが単調だからだろうか。
私はこの区画順位戦という場面で運営が聖人をモチーフとしたボスを登場させた理由を考え始めていた。
プレイヤー側が字面の通り【犯罪者】だから、それの反対……対極に位置すると言ってもいいだろう聖人をボスとして登場させるというのはまぁ分からなくもない。
考えすぎならばいいのだが、これからイベントが開催される度にこのような聖人モチーフのボスが登場するのであれば……少し、現実側で予習しておいた方がいいのかもしれない。
私がそんな事を考えながら光の剣を受け流している間。
周りのプレイヤーはと言えば、直接ボスに攻撃している者と大技を決めるために準備する者、そして私がいつミスをしても良いようにすぐさまフォローに入れる位置に移動する者の3種に分かれていた。
私のパーティメンバーであるCNVLは勿論直接ボスに攻撃する者に含まれる。
但し周りに他の区画所属プレイヤーが居るからか【食人礼賛】や【フードレイン】といった広範囲を巻き込んでしまうスキルを使わず、【祖の身を我に】を主体として戦っていた。
「おっと、そろそろ切れるわね……」
【思考加速】の残り時間が既に心許ない秒数しか残っていないことに気が付き、私は近くに居るタンク達へと目配りし、そのままスイッチするように入れ替わる。
【反海星 マリア・ステラ】の攻撃の受け方はある程度慣れた。
あとはこれが不意に攻撃された時に同じように対処できるかが問題だ。
「よし、行くぞッ!」
「これまで2人で止められてたんだ、倍以上の数が居る俺らで止められねぇわけねぇだろ!」
「タンクの仕事を奪うなリーダー達よォ!」
何やら入れ替わる際に色々と言っているプレイヤーが居たが特に反応はしないでおく。
私が対応できていたのは単純に相手が人間範疇の動きしかしていなかったことと、私の思考速度がバフによって強化されていたからであって、一番ここで注目すべきは神酒の方だろう。
マナー違反になるため、スキルの内容などは聞けないものの……それでもどんな【犯罪者】ならば敵の攻撃を何度も直接受けながら生きていられるのか気になってしまう。
タンク達と入れ替わった後、私は手に巻いている包帯を外しインベントリへと仕舞う。
そしてそのまま双剣をハサミの形へと切り替え、攻撃と拡張の印章を直接捺印した。
他にも【印器乱舞】を併用し自身のバフを、ボスのデバフを延長させる。
取り回しの良さから双剣の状態で使っていたが、やはりハサミの方がしっくりときて手に馴染む。思わず笑みが零れてしまうほどだ。
何かこちらへと視線を向けてくるプレイヤーが多いが、それほど気にせず。私はボスへと攻撃を加えるべく移動を開始する。
目の前からでは流石にタンク達の邪魔になるため、それ以外の方向へ。
背後からでは相手の視線などが分からないため、出来れば側面から攻撃を仕掛けたい所なのだが……私と同じ考えをしているプレイヤーが多いのかどちらも人が多く、ハサミを使うには広さが足りない。
仕方なく背面側に移動するとそこには見慣れた知り合いの姿があった。
「あら、スキニット」
「ん、あぁ、なんだハロウか。お前も人が多くて流れてきたクチか?」
「そんな所だけど……貴方タンクじゃないの?なんでこっちに居るのよ」
「あー……何というかだな……」
前を向き、ボスの方を見続ける彼の隣へと行き私も攻撃を加えるための隙を探しながら話を聞く。
「単純な話、俺の居場所がねぇんだわ。パーティ単位なら兎も角……ほらな?」
「あー……成程ね。確かにアレは厳しいわねぇ……」
私達の目の前にはいつの間に攻撃パターンが変わったのか、私が攻撃を受け流していた時とは違いハルバードのようなのような武器を光で作り出し、それを振るう事で広範囲に攻撃を加えているボスの背中があった。
恐らくは私が移動している間に規定のHPまで減っていたのだろう。
見れば残りHPが3割を切っている。
「あぁいう手合いは流石に盾持ちが有利よねぇ流石に……」
「そういうこった。俺のは結局、そのまま無理矢理固くした自分の身体で受けてるだけだからな。さっきのネースの嬢ちゃんと似たようなもんだ」
「あー、確かに。そういう意味では近いわね」
彼の【犯罪者】は自身の強化を得意とするスキルを多く保有している。
だからこそなのだろう。パーティ単位なら兎も角として、こういった多くのプレイヤーが参加するような戦闘ではタンクとしての立ち回りは行えないのだ。
きちんと理由を聞けば納得出来るものだった。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説


セルリアン
吉谷新次
SF
銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、
賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、
希少な資源を手に入れることに成功する。
しかし、突如として現れたカッツィ団という
魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、
賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。
人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。
各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、
無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。
リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、
生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。
その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、
次第に会話が弾み、意気投合する。
だが、またしても、
カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。
リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、
賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、
カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。
カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、
ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、
彼女を説得することから始まる。
また、その輸送船は、
魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、
妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。
加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、
警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。
リップルは強引な手段を使ってでも、
ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる