Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第四章 天使にレクイエムを

Episode 38

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こちらへと振るわれる光の剣を弾くのではなく、逸らすようにして受け流す。
今までは真っ向から力と力をぶつけ合わせていたために、力の差によって腕に負担がかかっていたが、これならば多少衝撃はくるものの真っ向から受け止めるよりはマシだろう。
【思考加速】が切れる前に、無理やりにこの捌き方を身体に覚えさせていく。

ボスの方はといえば、中々ダメージを与えられない事に苛々してきたのか、その人形の様に整った顔を歪ませていた。
……そういえば聖母マリアって聖人って括りでいいのかしらね。
集中せねばならない状態とはいえ、ある程度やることが単調だからだろうか。
私はこの区画順位戦という場面で運営が聖人をモチーフとしたボスを登場させた理由を考え始めていた。

プレイヤー側が字面の通り【犯罪者】だから、それの反対……対極に位置すると言ってもいいだろう聖人をボスとして登場させるというのはまぁ分からなくもない。
考えすぎならばいいのだが、これからイベントが開催される度にこのような聖人モチーフのボスが登場するのであれば……少し、現実側で予習しておいた方がいいのかもしれない。

私がそんな事を考えながら光の剣を受け流している間。
周りのプレイヤーはと言えば、直接ボスに攻撃している者と大技を決めるために準備する者、そして私がいつミスをしても良いようにすぐさまフォローに入れる位置に移動する者の3種に分かれていた。
私のパーティメンバーであるCNVLは勿論直接ボスに攻撃する者に含まれる。
但し周りに他の区画所属プレイヤーが居るからか【食人礼賛】や【フードレイン】といった広範囲を巻き込んでしまうスキルを使わず、【祖の身を我に】を主体として戦っていた。

「おっと、そろそろ切れるわね……」

【思考加速】の残り時間が既に心許ない秒数しか残っていないことに気が付き、私は近くに居るタンク達へと目配りし、そのままスイッチするように入れ替わる。
【反海星 マリア・ステラ】の攻撃の受け方はある程度慣れた。
あとはこれが不意に攻撃された時に同じように対処できるかが問題だ。

「よし、行くぞッ!」
「これまで2人で止められてたんだ、倍以上の数が居る俺らで止められねぇわけねぇだろ!」
「タンクの仕事を奪うなリーダー達よォ!」

何やら入れ替わる際に色々と言っているプレイヤーが居たが特に反応はしないでおく。
私が対応できていたのは単純に相手が人間範疇の動きしかしていなかったことと、私の思考速度がバフによって強化されていたからであって、一番ここで注目すべきは神酒の方だろう。
マナー違反になるため、スキルの内容などは聞けないものの……それでもどんな【犯罪者】ならば敵の攻撃を何度も直接受けながら生きていられるのか気になってしまう。

タンク達と入れ替わった後、私は手に巻いている包帯を外しインベントリへと仕舞う。
そしてそのまま双剣をハサミの形へと切り替え、攻撃と拡張の印章を直接捺印した。
他にも【印器乱舞】を併用し自身のバフを、ボスのデバフを延長させる。

取り回しの良さから双剣の状態で使っていたが、やはりハサミの方がしっくりときて手に馴染む。思わず笑みが零れてしまうほどだ。
何かこちらへと視線を向けてくるプレイヤーが多いが、それほど気にせず。私はボスへと攻撃を加えるべく移動を開始する。

目の前からでは流石にタンク達の邪魔になるため、それ以外の方向へ。
背後からでは相手の視線などが分からないため、出来れば側面から攻撃を仕掛けたい所なのだが……私と同じ考えをしているプレイヤーが多いのかどちらも人が多く、ハサミを使うには広さが足りない。
仕方なく背面側に移動するとそこには見慣れた知り合いの姿があった。

「あら、スキニット」
「ん、あぁ、なんだハロウか。お前も人が多くて流れてきたクチか?」
「そんな所だけど……貴方タンクじゃないの?なんでこっちに居るのよ」
「あー……何というかだな……」

前を向き、ボスの方を見続ける彼の隣へと行き私も攻撃を加えるための隙を探しながら話を聞く。

「単純な話、俺の居場所がねぇんだわ。パーティ単位なら兎も角……ほらな?」
「あー……成程ね。確かにアレは厳しいわねぇ……」

私達の目の前にはいつの間に攻撃パターンが変わったのか、私が攻撃を受け流していた時とは違いハルバードのようなのような武器を光で作り出し、それを振るう事で広範囲に攻撃を加えているボスの背中があった。
恐らくは私が移動している間に規定のHPまで減っていたのだろう。
見れば残りHPが3割を切っている。

「あぁいう手合いは流石に盾持ちが有利よねぇ流石に……」
「そういうこった。俺のは結局、そのまま無理矢理固くした自分の身体で受けてるだけだからな。さっきのネースの嬢ちゃんと似たようなもんだ」
「あー、確かに。そういう意味では近いわね」

彼の【犯罪者】は自身の強化を得意とするスキルを多く保有している。
だからこそなのだろう。パーティ単位なら兎も角として、こういった多くのプレイヤーが参加するような戦闘ではタンクとしての立ち回りは行えないのだ。
きちんと理由を聞けば納得出来るものだった。
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