Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第四章 天使にレクイエムを

Episode 24

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光の槍が、剣が、そして斧が様々な方向から襲い掛かってくる。
上から、下から、左右から。
同時に振るわれているように見えるそれらは、厭らしいことに少しずつタイミングをずらされていた。

だがそれを厭らしいと感じるのは、攻撃を防御する前提での話だ。
生憎と私はそんな正面から天使の攻撃を受け止める事が出来るほど、タンクのような役回りはしていない。
思考発動によって【洋墨生成】、【デュアルシギル】を発動させ、【土精の鎚】の【隆起】の印章の面を自分の足元へと叩きつける。
瞬間、私の足元が勢いよく空に向かって盛り上がっていった。
勢いが強く、私は弾き飛ばされるように空へと浮かび上がった。

空中に身体を逃がすことが出来たものの、相手は地上だけにいるわけではない。
私が昇ってくるのを見て、空中に存在していた複数の天使達が光の剣を振り上げているのが見えた。
普通に考えれば危険な状況だ。
だが、これくらいの危険ならば今までも何度か潜り抜けてきた。
インベントリから双剣を取り出し、代わりにハンマーを仕舞う。

「【強欲性質】ッ!」

スキルの発動を声高く宣言し、自ら地面を蹴って天使達へと向かっていった。
空中戦は得意ではないし、そもそもの話……空中を移動できるような手段をもっていないのだから満足に回避すらできない。
しかしながら、限定的な条件の中でならその前提は無かったことに出来る。

空中へ浮いた私にいち早く襲い掛かってきた天使に対し、右手の剣で相手の剣を逸らし、左手に持った剣でその脇腹を斬りつけた。
私のステータスが強化されるのを感じながら、双剣を仕舞いハンマーを取り出して、

「【洋墨生成】」

後ろに続くようにしてこちらへと向かってきていた天使に向かって【衝撃】の印章が彫られた面を叩きつけた。
本来、この【衝撃】の印章は触れた相手に対し追加のダメージを与えるという目的で衝撃波を発生させるだけの印章だ。
しかしながら、その衝撃派の発生に伴って使い手である私に対しても少しばかり反動という意味での衝撃が襲い掛かってきている。

普段ならばダメージにすらならない程度の弱い衝撃。
だがそれは、地面に足がついていればこそのもの。
空中ならば立派な移動手段として利用できるくらいには強いものだった。
身体が少しだけ後ろへと移動する。
私の移動に合わせて迫ってきていたのか、私の背中に天使の身体が当たるのを感じ笑う。

『……ッ!?』
「知ってるかしら?窒息って結構苦しいらしいのよ?私は知らないけれど」

私が発生させたインクが、身体を密着させている天使の顔らしき場所へと集まっていく。
天使達が空気を吸って活動しているかは分からないものの、口を動かして会話していたのだから多少は効果があるだろう。
慌てたのか、それとも私を近くから引きはがそうとしたのか。
天使は密着していた私の身体を強く押すように前へと突き飛ばした。

「ありが、とうッ!」

空中で落ちながら前へと進んでいく私に対して、長物を中心に群がろうとしてくる天使達を見ながら苦笑する。
ある程度の数がこちらへと引っ張れればいいなと考えこんな行動をしているものの、天使達の数が少しずつ全体的に増えていっているのが分かってしまったからだ。
つい、一度下を見る。

自分の想定よりも打ち上げられてしまっていたのか、私の身体はまだまだ高度的には高い位置にいて。
一瞬背筋が冷えるような感覚に陥ったものの、心から浮かび上がってくる恐怖を今は押し込めていく。少しは私も成長しているのだ。

「あ、れは……?」

天使達がこの場に群がっているのは良い。分かりきっていることだから何も問題ではない。いや問題だが。
そして、所々天使達に混ざって神父のような恰好をした人型のモブが居る。アレがゾンビスポーナーと同じ類の敵なのだろう。CNVLが無理矢理向かっていくのが見えた。

しかしながら、私はそれらではなくもう一つ。ある場所に視線を奪われた。
中央区画の中心、この浮遊監獄都市の中心とも言える場所。
そこに鈍く緑色の光を放つ何かが存在していた。

--ALL System Message 『反節制の聖書が発見されました。区画順位戦の勝敗条件が開示されました』

それを私が見たからなのか、突然システムログが流れていくのが目の端に見え。
私はそれに気を取られてしまったために、迫ってきていた天使達の攻撃を受けてしまう。
複数の光の槍が、私の身体に突き刺さっていく。
完全に私の注意不足によるものだ。

「あっちゃー……」

素早くHP回復用の薬品や印章を捺印するものの、物が突き刺さっているからなのかその回復速度はいつもよりも遅い。
仕方ないと溜息を吐き、私はパーティチャットで連絡した。

『ごめん、全損したわ。すぐ戻るから耐えてて』
『えっ?!あぁホントじゃん!マジかよ了解!メアリーちゃん……はダメか、マギくん指揮引き継いで!』
『了解です』
『早く戻ってきてね(´・ω・)』

そんな会話を見ながら、私は区画順位戦中初めてとなるデスペナルティを喰らった。

--System Message 『あなたはデスペナルティとなりました。一定時間全ステータスが低下します。また、所属区画であるデンスの区画順位戦ポイントが減少しました』
--System Log 『-6pt』
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