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第四章 天使にレクイエムを
Episode 20
しおりを挟む--浮遊監獄都市 カテナ 中央区画 メディウス
■【食人鬼A】CNVL
ハロウ達から分かれた後、ダメージを受けつつも無理矢理【あなたを糧に生きていく】によって回復しながら進んでいくこと暫し。
私はようやく中央区画へとたどり着いた。
メアリー程ではないものの、何かと用があって訪れることの多い中央区画。
しかしながら今私の目の前には見慣れた風景はどこにも存在していなかった。
見渡す限りの天使。数を数えるのも馬鹿らしくなってくるほどには多いそれらは、私が中央区画へと足を踏み入れた瞬間、その全てがこちらへと視線を向けてきた。
その中に天使達よりも一回りほど大きい……神父のような恰好をした男の天使がいるのを発見し、少しだけ頬を緩めた。
「あー、連絡。連絡。ごめんコレ一回死に戻るかも」
『え、本当?』
「マジマジ。予想より数が多いぜこれ。でもまぁ出来る限りやってみるから、朗報を待っててくれよ」
音声入力によってパーティへと状況を伝えながら、インベントリから巨大な人間の腕と、骨の腕を取り出した。
それに反応したのか、こちらを警戒するように様子を伺っていた神父以外の天使達がこちらへと光で出来た槍などをもって勢いよく距離を詰めてきた。
「あはッ!【アントロポファジー】、【暴食本能】、【食人礼賛】ッ!」
速度で天使達には敵わない。複数の自己強化を使用した状態でもそれは変わらない。
私の【食人鬼】は速度に特化した【犯罪者】ではないし、系統も攻撃に特化しているAtack系統。
だからこそ、私は甘んじて天使達の攻撃を受けていく。
頭や心臓といった急所への攻撃は何とか勘や反射で避けながら、それらの攻撃を受けていく。
今までにない速度で減っていくHPを横目で見て苦笑しつつも、私はスキルが発動してくれたのを感じた。
HPが一定以上減らず、それどころか増えていく。
それと同時、私の両腕は異形へと変わっていった。
左腕は膨れ上がるように、肉の塊にしか見えない巨大な腕へと。
右腕は何処からか出現した骨が集まり、白く巨大な腕へと。
そしてそれらは、いつもならば安定する大きさから更に一回り大きくなっていった。
【食人礼賛】。
消費するコストが多いため、普段の戦闘ではあまり使えない……私の瞬間最高火力を誇るスキルだ。
基本的には巨大なボスのような相手に使う事が多いスキルではあるものの、それ以外にも私が使う瞬間は存在する。
「良いねぇ『犯歴』。レベル上げておいて正解だったぜ……じゃあ行くよ」
それが今のような対多数戦闘。
巨大な腕や足を生成することが出来るこのスキルは、実は周囲に敵がいる時の方がその真価を発揮する。
幾ら攻撃しても死なないどころか、そんな巨大な両腕を生やした私に焦ったのか。
天使達は明らかに急所へと攻撃を集中させるものの、むしろ狙いが集中したおかげで巨大な腕を引きずりながらでも最低限の動きで避けられる。
そして攻撃が頭ではなく心臓を狙ったものになった瞬間、身体を大きく回るように横に振り……それに合わせて両腕を振り回した。
当然、普通の腕ならばそこまで脅威ではないだろう。
射程も短く、それでいて勢いがついているとはいえ、ただのスキルも何も乗っていない状態ならばダメージも少ない。
しかしながら、今の私の腕は【食人礼賛】によって巨大な異形と化している骨と肉の腕。
その質量だけでも普通の人間大の生物にとっては脅威になる。
骨の腕に当たった者は、硬く何かが潰れるような音を。
肉の腕に当たった者は、鈍く何かに打たれるような音を。
それが連続して中央区画に連続して響いていく。
やがて両腕が光の粒子となって普通の腕へと戻る時には、私の周囲で攻撃を繰り出してきていた天使達の数は少なくとも3分の1ほど減っていた。
「……まぁまぁ減ったほうか。でも……」
しかしながら、すぐにその数は増えていく。
神父のような姿をした天使の身体から生み落とされるように、べちゃりべちゃりと嫌な音を立てながら地面に向かって血に濡れた天使が落ちていき、それらがすぐに立ち上がってこちらへと光の武器を向けてきた。
「どうしようもないねコレ。少なくとも私だけじゃ無理だなぁ……」
それが分かっただけでも収穫だ。
腐った肉片をインベントリから取り出し口に含みながら、私は中央区画から背を向け逃げ出すように離脱した。
後ろから数十体もの天使が追ってきているのを確認して変な笑いが漏れてしまう。
「これ下手したらMPKとか言われそうだなぁ……」
そうなったときの事を考えると、誤解を解くのが面倒だなとか思いつつ。
そもそも私はデンスとオリエンス以外では結構派手にPKをしていることから今更だったと考え直した。
……いいじゃん、そのままディエス辺りに引っ張っていこう。
何やらハロウや酔鴉が2つの区画について言っていたような気がするものの、まぁいいかと思いながら私はディエスの方へと向かって走り出した。
その先に何が待っているかを考えずに。
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