Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第四章 天使にレクイエムを

Episode 8

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「これで12回目ッ!」

両手で持ったハンマーを、横に振り抜くようにして振るう。
ハンマー一回り分ほど大きくなった攻撃範囲が、パラケルススに触れる度に衝撃波を生み出していた。
そしてそれに合わせ、彼の身体を覆うようにして展開されている岩の鎧の表面が零れ落ち、そのまま散弾のように私へと襲い掛かってきた。

しかしながらそのカウンターにも慣れたもので、一瞬ハンマーから手を離しインベントリ内から【HL・スニッパー改】をハサミ状態で出現させ簡易的な盾にすることで直撃を防いでいく。
たまに地面から跳ね返りこちらの身体に当たってダメージを与えてくるものもあるにはあるが、再生の印章の効果で回復出来る許容範囲内のもののため、無視で構わないという判断をしていた。

「【デュアルシギル】」

そして再びインベントリへ【HL・スニッパー改】を仕舞い、地面に落ちかけていたハンマーの柄を握って上へと振り上げる。
ガツンッ!という音と共に、2度の衝撃波がパラケルススに襲い掛かりそのHPをじりじりと減らしていった。
そして同じような方法で防御を行い、攻撃を再度繰り返していく。
結局の所、パラケルススとの戦い方はこれが続くだけのものだった。

……味気ない、っていうのは私が先のダンジョンを先に攻略しているからかしらね。
【劇場作家の洋館】の2種類の難易度に加え、【決闘者の墓場】という第二階層の……所謂現在の最前線のダンジョンをクリアしている私にとって、既にここのボスは格下だったということだろう。
それか、このパラケルススというボス自体が第一階層のハードモードダンジョンでも弱い部類なのか。

『――Mode Undine。続いて持続性』

そんなことを考えながら、ハンマーを振るっていれば。
突然パラケルススを覆っていた鎧が崩れ落ちていくのが目に見えた。
それと共に、彼の周囲から水の塊がいくつも空中に出現し、私へと襲い掛かってくる。

「次はウィンディーネってわけね!?」

まるで砲弾かのように撃ちだされるそれらを、ハンマーの面に当てる事によって衝撃波を発生させながら、パラケルススの姿を見る。
姿自体は一番最初にこちらへ挨拶をしてきた時と変わらないように見えるものの。その肌は何処か透き通っており、時々彼の近くに浮くようにして流れている水が、まるで天女が着けている羽衣のようになっていた。

今も、その水で出来た羽衣から攻撃が行われているのだが。
その攻撃が収まる様子がないのはどういうことだろうか。

「酔鴉ッ!」
「叫ばなくても聞こえてるわよ。あの状態のパラケルススのカウンター能力は、単純にダメージ量に比例した持続時間を持った範囲攻撃よ。ほら、今も私達が居ない方向にまで攻撃してる」
「これ防ぐの厳しいんだけど!?」
「ハンマーでやってるからでしょう。この水弾は一度攻撃を当てれば勢いを失ってその場に落ちるから、手数重視でいきなさい」

そう言われ、すぐさま【HL・スニッパー改】をインベントリから双剣状態で取り出した。
最近知ったが、変形機構のようなものがあるからなのか取り出す際にどちらの形で取り出すのかを指定することが出来るようなのだ。
最近ではその仕様を使いインベントリから直接装備することで、先程のように盾として使ったりなどその場その場に合わせた戦い方が出来るようになった。
これもこの数ヶ月、レベル以外のプレイヤースキルを鍛えた結果だ。

問答をしている間にも、こちらへと迫ってきている水弾を切り落としていく。
速度は中々早いものの反応出来ないほどではなく、むしろ余裕をもって対処できる程度のものだ。

切って切って切って。
我武者羅になってこちらへと飛んでくる水弾を切り落として。
気が付けば、自身の周囲が水浸しになっていた。

「……終わった、かしら?」
「そうみたいね……これだけ長いの初めてよ私」

疲れたように肩を落とす酔鴉を横目で確認しつつ、どうこのモードを攻略するかを考える。
ダメージを出しすぎるとこちらが近づけない時間が増えてしまう。
しかしながらダメージが少ないとそれはそれで時間がかかってしまう。
幸い、パラケルススがカウンターとして放つ水弾は対処できないものではないのが分かっている。

「どうする?」
「んんー……私が行きましょうか。上にあげるから気を付けて。アレはどっちかっていうと私の方が相性いいでしょ」

問いかけた私に対し、腕を捲るような動作をしながらパラケルススの方へと酔鴉は歩いていく。
彼女は基本的に素手。私より射程が短いもののその小回りの良さで先程までの攻撃も凌ぎ切っていた……ようだ。自分の方に集中していたためにあまり彼女の動きを見れていなかったため確実にそうとは言えない。

足取り軽くパラケルススへと近づいた彼女は、一言。

「【ギアアップ・ワン】」

瞬間、パラケルススの身体が空中へと打ち上げられた。
否、酔鴉によって蹴り上げられたのだ。
そしてそのまま、同じように空中へと跳びあがった酔鴉によって攻撃が加えられていく。
右拳、左膝、左肘、右足とパラケルススが地面に落ちないよう器用に空中で打ち上げながら、彼女はダメージを与えていく。

詳細を聞いていないため、彼女の使ったスキルの詳しい効果は分からない。しかしながら、彼女の動きや以前体感した時の事を考えると、少しばかり予想は出来る。
……何かしらのデメリットありのステータス大幅強化スキル、かしら。
彼女の動きを目で追おうとしているものの追い切れず、コマ落ちしたかのように空中で彼女の姿が現れたり消えたりしているのを見ながら、私は双剣を構える。

ただ見ているだけならばどんなに楽だっただろうか。
しかしながら、それを許してくれないのが今私達が相手にしているパラケルススというボスの特性。
彼に追尾するように、纏わりつくようについてきていた水の羽衣が大きく一度鼓動したかと思えば、先程と同じように部屋全体に目掛けて水弾を放ち始める。

「あっちは格ゲー、こっちは弾幕ゲーっていよいよ何をやってるのか分からなくなってきたわね……ッ!」

空中から放たれるそれの中でも、自分に向かって飛んでくるものを切り払うようにして落としていく。
急速に減っていくパラケルススのHPは、残り5割を切った所だった。
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