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第四章 天使にレクイエムを
Episode 3
しおりを挟む--第三区画 第一階層ダンジョン【喪揺る地下都市】 Hard 3F
ボスに向かう、という事で酔鴉と共にある程度戦闘を回避しつつダンジョン内を進み、早3階。
ハードモードのダンジョンだからか、それとも第一階層のダンジョンならではなのか。
【劇場作家の洋館】と同じように、中ボス的存在がいるようで。
あちらのダンジョンでも見たように、1本道の奥に1つの扉が存在するようなエリアとなっていた。
酔鴉に聞けば特に制限などもない事から、共に挑むことになったのだが……、
「えぇっと?これは一体どういうことかしら?酔鴉」
「あー、えーっとぉ……すごく申し訳ないのだけど……これ私の所為ね」
中ボスらしき、4体の妖精達が酔鴉を見るや否や土下座してきたのだ。
どういうことか、と視線を向ければ明後日の方向を見る始末。
では、と4体の方を見ればこれまたびくりと頭らしき部分を床にこすりつけ、許しを請う始末。
「……それぞれ、ノームにウィンディーネ、シルフィードにサラマンダーよね。パラケルススが提唱した四大精霊じゃないの。上に居たのとは違って形もそれぞれしっかりしてるし、あれらの大本って事よね?」
「そうよ。それにAI搭載型の会話が成立するタイプのボス。……本当は、それぞれが攻撃してくるのを凌ぎながら各個撃破していくんだけど……」
『……酔鴉の姐さんは度々ここに来ては回避の練習といって、俺らが手も足も出ないのを良いことにボッコボコにしていくんス。最近じゃ空中コンボの練習とか言いながらサンドバッグ扱いされてて……』
そう口にした火のトカゲのような姿をした妖精……頭上に【火炎蜥蜴 サラマンダー】と表示されたボスの1体がそう言った。
どうやら、個対多の戦闘練習をこのボス達で散々行ってきた結果……ボスである彼らに逆に畏れられてしまっているようだった。
「……どうすんのよ」
「どうもこうも……これは私の問題だから後で対応しておくよ。……はい、土下座はいいから。私は今回何もしないわ。相手はこっち。ハロウよハロウ」
『ほっ本当ですかい?この前だってそう言って後ろから攻撃を……』
「うっるさいわね。何?また即死コンボの練習台になりたいわけ?」
『よーっしお前ら!やるぞ!……あ、すいませんそっちのお姉さん。もう1回入場からやり直してもらってもいいですか?酔鴉の姐さんはあっちの出口の方で待機してもらえると……』
「了解。うちのが迷惑かけたわね……あとで保護者には言っておくから」
『助かります……』
グダグダとしたボスとの邂逅にはなってしまったものの。
一度仕切り直しという事で、一度中ボス部屋から出て装備を確認。
ある程度経ったところで酔鴉から準備完了のチャットが飛んできたため、再入場することになった。
『よくぞここまで辿り着いた、【犯罪者】よ』
『我ら世界の理に根付く精霊なり』
『この先に進みたくば、我らに力を示すこと』
『裁定。我等、汝を審判する者也』
中に入ると、先程まで居た部屋とは違い真っ暗な闇のような世界が広がっていた。
私の周りだけが明るく照らされていることから、何らかのムービー処理のような状態なのだろう。
身体も自由に動かせないため、そのまま従うことにした。
『『『『では、審判を始めよう』』』』
-決闘イベント開始-
-【火炎蜥蜴 サラマンダー】-
-【清流乙女 ウィンディーネ】-
-【豊穣小人 ノーム】-
-【風塵妖精 シルフィード】-
声が響くと同時、部屋の闇が私を中心に払われていく。
先程彼らが土下座していた殺風景な四角い部屋とは違い、どこにそんなスペースが存在したのかと言いたくなるほどに広大な荒野がそこには広がっていた。
それと同時、こちらに向かって飛んできた火の玉と土の塊をそれぞれ身を反らすことで避ける。
咄嗟に動いたものの、身体の制御権が戻っていることに気がついてインベントリから【HL・スニッパー改】を取り出し、戦闘態勢をとった。
戦闘開始だ。
「チッ、面倒ねぇ……」
正直な話、彼らの攻撃自体はそこまで辛くなく私1人でも十分に対処が出来るレベルではあった。
というのも、それぞれがそれぞれ連携は取っているものの、一定のパターンで攻撃を放ってくるため読みやすいのだ。
火を撃ってきたら土、土を撃ってきたら水、そして風……という風に四大妖精ならではの攻撃ではあるものの……肝心の攻撃自体は脅威にならない程度の密度しかない。
印章によって細かく強化を施している私にとっては最低限の動きで避ける事が可能でしかない。
では何が面倒かといえば。
「姿が見えないって敵とは確かに会ったことなかったわ。対策が必要ね」
そう、姿が見えないのだ。
理屈は分かっている。相手には火を、水を、そして風を司る妖精達が存在しているのだ。
それぞれがそれぞれ、光の屈折を利用したり、蜃気楼だったり、そもそも空気中に溶け消えていたりと自らの性質とマッチした姿の隠し方をしている。
だが、彼らはまだ良い。
攻撃の来る方向から、ある程度の位置は予測できるからだ。
問題なのは大地を司る妖精であるノーム。
場所が荒野なのを良い事に、周囲の地面……それこそ、私が立っている位置をも操り攻撃してくるため、場所の特定ができないのだ。
恐らくは見つからないように、地中か何かに潜っているのだろうが……攻撃手段がハサミやハンマー、ナイフである私にとっては対策の立てにくい相手ではあった。
「仕方ない、使いましょうか」
はぁ、と1つ溜息を吐きハサミをインベントリの中へと仕舞う。
代わりに取り出したのは、私の普段使っている印器のハンマーよりも二回り以上大きい……ファンタジーならば、それこそドワーフが使っていそうなハンマーだった。
当然面には印を彫ってあるため、【印器乱舞】によって扱う事もできる印器となっている。
但し彫ってあるのは、今までのようなバフデバフの印ではなく……ある種試作品のような、まだ数回ほどしか試していない別のもの。
「さぁて……ファウスト達には使わなかったけど、どうなるかしらね。【デュアルシギル】」
スキルの発動を宣言した瞬間、私の持つハンマーに彫ってあるものと同じ印が空中に出現した。
ハンマーの頭を動かせば、ホーミングするようについてくるそれをみて薄く笑う。
私が動かない事を好機と見てか、四方八方から攻撃が飛んでくるものの……問題ないと対処せずに視線を地面へと向けた。
1つ息を吐き、ハンマーを思い切り振り下ろせば。
瞬間、ホーミングするようについてきた印がガラスのように割れ変化が起こった。
今回、ハンマーに彫っていた印は【衝撃】というもの。
効果としては、接触時に追加で衝撃波を発生させるという攻撃向けの印だ。
そして【印器師】のスキルである【デュアルシギル】。
こちらの効果は単純で、指定した印器の印の効果を1度に2度発動させるというもの。
では、それらの効果が乗ったハンマーを地面へと振り下ろせばどうなるか?
答えは簡単だ。
「お、おぉおお?!」
ドカンッ!という爆発音に似た音を立て地面へと接触したハンマーは、その接触した場所を中心に、荒野を蜂の巣状に陥没させていく。
単純な破壊力だけでなく、印章の効果も乗ったからだろう。その範囲は私の立っている場所だけではなく、凡そ10メートルほどの範囲の地面ごと陥没させていた。
地面が陥没した事により、私の立っている位置を狙って放たれた火の玉達は狙いを外し、明後日の方向へと飛んでいく中。
私は近くの地面がボコッと動くのを見逃さなかった。
そこまで遠くに潜んではいなかったのだろう。私のハンマーと印章がもたらした破壊に巻き込まれたノームは慌てた様子でこちらから距離をとろうとしているのが手に取るように分かり、
「みぃつけた」
私はにやりと、どこかの【食人鬼】に似た笑みを浮かべた。
【印器乱舞】によって強化された足で、未だ逃げようとしているノームへと近づき、ハンマーを振り下ろす。
さながら、もぐら叩きのように。
「まず1体。そこまでHPもないみたいねぇ」
そこまで素早くはなかったのか、私の振るったハンマーはそのままノームへと直撃し。
【衝撃】の効果も相まって、彼の姿を光の粒子へと変えていく。
残り3体。とはいえ、一番面倒だと思っていたノームを先に撃破出来たのは大きいだろう。
……端から見ると虐めてるみたいね、これ。
私は周囲を見渡した。未だ隠れているのか、残りの妖精たちの姿は見えない。
が、しかし。こちらにもまだ手札は残っている。
少しだけ、自分がどう酔鴉に見られているのか気になりながら私はハンマーを肩に担いだ。
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