Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第四章 天使にレクイエムを

Episode 1

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■【魔女】

僕に言えることなんて少ないですよ。
今回は色々と普通の話であるし、そもそも僕はこういった話をするのは苦手なんです。
でも話せというのなら……そうですね。

貴方は、天に司える者たちの事はご存じですか?
そう、その輪っかを頭の上に浮かせた所謂天使って奴です。
彼らはファンタジーの作品によっては、人形のように扱われていたり……そもそもとして、立ち位置は神の側。
基本的には主人公たちの味方であるべき存在です。

……えぇ、言いたいことはわかりますよ。
この状況を見れば、そんな言葉は戯言だと言いたくなるのもわかります。
ただ、最近は悪者側が主人公になるパターンの作品も増えてるんですよ。
魔王だったり、復讐者だったり、そもそもとして天使の対比とも称されることのある悪魔だったり。
それらが主人公だった場合、今のように、天から地から天使が攻めてくるような状態になったりもします。

この状況、僕たちがその悪者側であることに疑問を抱くのはナンセンスですし……そもそもとして、僕たちは【犯罪者】。
それこそ悪者の代名詞のような存在じゃあないですか。

生き残りたい、とは違う……今後の生活のために、頑張っていきましょう?


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■鷲谷 香蓮

ここ数ヶ月、私は色々な活動をしていた。
といっても、やっていたのはVRMMOとそれに伴う運動不足の解消だ。
プレイ時間が長くなればなるほどに、やはり襲い掛かってくるのは運動不足。
そのため、リアルでジムへと通い始めたり、1日のプレイ時間を制限したりなど、やれることはやってきた。

そのおかげか、FiCを初めてから鈍ってきていた私の身体はそれなりに引き締まってきているし、1日にやれる時間が減ったために、出来る限り濃密な体験が出来るようにゲーム内で調整しているため、プレイスキルも相応に上がっていっていた。

私以外のいつものメンバー……メアリー達はといえば、CNVL以外が【犯罪者】を一新したり、それぞれ知り合いに戦闘訓練を行ったりなど、総合的な能力を上げていた。
中でも、マギの戦闘方面でのスタイルが定まったのが大きいだろう。

彼は今まで接近戦は乳棒で行うという、ほぼほぼ素手での戦いを行っていたものの。
今では立派な短杖を持ち、私には理解の出来ないアイテムを使って近距離と遠距離の両方を行えるオールラウンダーとなっていた。

「……よし、良い時間。そろそろ入りましょうか」

時間は正午を少し過ぎた程度。
平日、ということを抜きにすれば人が増え始める時間帯だ。
今日もある人物とのプレイの予定が入っているのだ。

私は自室のベットに横になりながら、ヘルメット型のVR機器を装着しゲームを起動する。
意識が深い所へと落ちていく、スゥ……という感覚。
少し前は苦手だったものの、今はもう好きになった感覚だ。



■【印器師】ハロウ

--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス 第二階層

私が降り立ったのは、私の所属区画であるデンスの第二階層。
コロッセウムが見える広場の中心だ。
既に今日の予定を組んでいるプレイヤーも到着しているらしく、私がログインした瞬間に近寄ってきていた。

「あら、早いわね。酔鴉・・
「いやまぁ、私は半ばニートのようなものだから。しかし、今日は誘ってくれるとは思わなかったわ」
「そりゃあ今日挑むのはそっちの区間のダンジョンでしょう?まとめ役の貴女がいた方が楽だもの」

そう、今日挑むのは酔鴉の所属区間であるオリエンスの第一階層に存在するダンジョン……【喪揺る地下都市】のハードモードに挑む予定なのだ。
といっても、私の方はデンスの第二階層ダンジョンをノーマルとは言えクリアしたプレイヤー。
酔鴉に関しても、現在はオリエンスの第二階層にてノーマルモードのダンジョンを攻略中の身。

第一階層のダンジョンを攻略できていないはずもないのだ。
ハードモードだからといって、それは変わらない。
……というか、私以上に火力出るのだから苦戦しないのは当然よねぇ。

ではなぜ今日、酔鴉と共にダンジョンを攻略することになっているかと言えば。
単純な話、次のイベント内容が発表されたためであった。

「しかし、次のイベントは協力型とは……」
「そうね。しかも詳細は知らされてないものの、区画順位戦でしょう?私と酔鴉が連携できるかどうかだけでも確かめておいた方がいいと思って」
「それは聞いた。……しかし、私達が組んで戦うことになるほどに難しいイベントだと、本当にそう思ってるの?」

区画順位戦。
前回行われた第一回では、中央を除く全区画にモンスターが溢れ返って一種のパニック映画の様相を見せていた。
しかしながら、今回運営から告知された内容は前回のものとは違い、プレイヤー達が協力することによって進めていくものらしい。

一見、これだけ見ると戦闘ではなくミッション……この浮遊監獄都市に存在するNPC達から発せられるミッションを協力してクリアしていくものと捉えられてもおかしくはない、が。
今まで開催されてきたイベントを考えると、運営がそんなイベントをやるとは到底考えられなかった。

「いやまぁ、確かに酔鴉の言い分も分かるわよ?……でも、なーんか嫌な予感がするのよねぇ」

それに加え、根拠は全くないものの……私の勘が嫌なものを感じ取っていた。
こういう時は出来る限り、やりすぎてると言われるレベルで備えておいた方がいい。

「嫌な予感、か。成程。なら仕方ない」
「あら、信じるの?」
「ゲーマーのゲームにおける勘というのは何よりも信じるべきでしょう?検証ならいざ知らず、こういったイベントごとに関しては」
「ふふ、良い事言うじゃない」

そんな話をしながらも、私は酔鴉の案内に従って第二階層から第一階層へ、第3区画オリエンスへと移動した。

--浮遊監獄都市 カテナ 第三区画 オリエンス 第一階層

そんな表示が視界の隅に浮かび上がるのを確認しつつ、私は周囲を見渡した。
私が出てきたのはどこかの広場だったようで、今まで階段などを登っていないはずなのにも関わらず、階層を移動していたようだった。

「オリエンスの風景が珍しい?」
「まぁ、ね。来たのも初日以来だし……特色も特色だしね」

第3区画オリエンス。
プレイヤー達の間では『ファンタジー区画』と呼ばれているほどに、かなり特殊な街並みとなっている。
やはり目を惹くのはゴーレムなどと言った、所謂魔法生物と呼ばれるモノたちだろう。

「気になってはいたのだけど……ゴーレムってどう動いてるの?アレ」
「あぁ、アレらは基本的に術者のMPを吸って事前に命令された通りに動いてる。この辺にあるのはプレイヤーメイドのゴーレムたちね」
「もうゴーレムを作れる【犯罪者】が出てきてるのねぇ」
そっちデンスも似たようなのがいるでしょう?」
「あぁ……人形ね。自律運動は出来ないけれど、確かに似たようなものね」

所属区画によって、ではなく。
単純にその区画のダンジョンで何が採れるのか、それによってそういった【犯罪者】のばらつきが出てきている、らしい。

デンスであれば、人形が。
オリエンスであれば、ゴーレムが。
それぞれ作りやすい素材が落ちているのだろう。
恐らくではあるが、他の2つの区画にも似たような【犯罪者】が存在しているに違いない。

「次の決闘イベントは楽しみねぇ……そういう手合いとはどうやっても戦闘経験が乏しくなるから、いい勉強になりそうだわ」
「そんなんだから『決闘狂い』なんて通り名が付くのよ?」
「貴女も言えないわよ『泥酔姫』」

適度にお互いに口で殴り合いつつ。
私達はダンジョンへとたどり着いた。
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