Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第三章 オンリー・ユー 君だけを

Episode 36

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--第二区画 第二階層ダンジョン 【決闘者の墓場】 5F
■【食人鬼A】CNVL

ハロウの背を見送りながら、それへ攻撃しようとしたグレートヒェンへと新たに生やした骨の腕を振るう。
瞬間、それが危険なものだと判断したのだろう。
グレートヒェンはハロウへと攻撃する動きを止め、こちらの腕の動きに合わせるように剣を振るう。
激突音がコロッセウムへと響き渡った。

「おいおいどこに行こうっていうんだい?君の相手はこっちだろうッ!!」

挑発するように、私のことを見るように。
わざと大きな声を出し、グレートヒェンの視線をこちらへと向けさせる。
まぁ眼球など彼女にはないのだが。

『先輩、あと何回使えますか・・・・・・・・・?』
『多く見積もってあと5回。それ以上はスキルの維持に回せなくなるかな』
『じゃあ使うのは大事をとって3回までに抑えてください』
『了解』

音声入力、音声読み上げによってパーティチャットを用いて後方にいるマギと会話を行いながら、グレートヒェンの剣戟を回避していく。
マギの言う「何回」というのは、私の使っている新たなスキル【食人礼賛】のコストについてだ。

スキルの効果としては見た通り。
コストとして消費したアイテムと同じ部位を自分の身体を覆うように作り出すスキルだ。
作り出す部位は基本的に異形化……それこそ骨の塊のようになったり、不自然に肉が継ぎ接ぎされた塊のようになったりするため、使い勝手は悪い。
しかし、それらによる攻撃力はこれまでの戦闘でも明らかの通り圧倒的だ。

しかし、それ故か。
コストはいつも使っている【祖の身を我に】などよりも重い。
具体的には【祖の身を我に】が1に対して【食人礼賛】は10。
単純に10倍ものコストを必要とする。

今までの私のコストの使い方では、消耗が激しく決闘イベントの時のように何もできない状態になってしまう。
それに戦闘中では咄嗟の判断やいつもの癖でついコストとして使ってしまう事もある。

「あは、いいねぇ。私があんまり考える必要がないってのは良い事だ。そうは思わないかい?グレートヒェン」

返事はない。
今も私に向かって振るわれる剣戟は衰えることはなく、一定のスピードを保ったまま私へと襲い掛かってきている。
一回一回が、私にとっては必殺のもの。
当たってしまえばそのままデスペナルティになることは想像に難くない。

しかし、当たらない。
当たるはずもない。
上から、横から、掬い上げるように、多少のフェイントを入れつつ振るわれる剣を、紙一重で躱し続け相手に隙が出来るのを待つ。
コストは最低限に、それこそ今はバフの維持だけに使うように。

相手のHPは減らせないものの、疲労という目には見えないものは確実に溜まっていく。
グレートヒェンのような骨の化け物にそういったものが存在するのかどうかは疑問ではあるが、まぁいつかは隙くらい出来るだろう。
それこそ、今も奥で戦っているファウストが倒された時なんかは一番の狙い目なんじゃないだろうか。
先程の動きから察するに、恐らく主人を守ろうとする意志程度の何かは存在するのだから。

一撃、二撃、三撃、四撃。
舞うように振るわれる剣は、扱う者が骨の化け物グレートヒェンで無ければ見惚れてしまうものだ。いや、もしかしたら生前の彼女ならばそれこそ本当に見惚れてしまっていたかもしれない。
しかしながら、そんな素晴らしい剣にも『繋ぎ』の動作……次の連撃に移る時に僅かながらの隙が生じているのが慣れてくると分かる。

『今です』

マギからのチャットと共に、その『繋ぎ』の瞬間に相手の懐へと踏み込み。
一撃、【解体丸】による袈裟斬りを胴体へと叩きこむ。
凡そ骨の硬さではない感触が右手に持つマグロ包丁から伝わってくるのを感じながら、すぐに横……グレートヒェンが盾を持つ方向へと跳ぶようにしてその場を離脱する。

後から聞こえるのは風切りの音。
見れば、私の先程まで居た所に彼女の持つ剣が振るわれたらしく、そのまま追撃しようとしていればあっけなく私は終わっていただろう。
彼女の頭上のHPバーを確認すると、まだ2割ほど削った程度。
流石の硬さだと感心すると共に、どこかのタイミングでこちらが安全に攻撃が出来るようにしないといけないとも考えつつ、笑う。

「いいねぇ、いいじゃあないか。長時間戦闘。私が今まで出来なかった分野だぜ?何事も面白いが、やっぱり経験が少ない方が面白い」

長い戦いになることを感じ、そんな言葉を再度骨の化け物である彼女にぶつけるものの、先程と同じように声は帰ってこない。
帰ってくるのは剣だけだ。
……そろそろ印の効果も切れるなぁ。まぁ攻撃自体はあまり困らないのだけど。

マギによる攻撃を期待したとしても、そもそも当たるかどうかが怪しいだろう。
こちらに注目しているとはいえ、彼の使うフラスコや試験管のようなものが突然投げられてきたら私でも咄嗟に反応して避けるくらいは出来てしまう。
しかし、彼の持つ薬による攻撃は防御など関係なく、薬の効果が出る者ならば通用するもの。
グレートヒェンに対して彼の薬が効果を発揮する事は前回の戦闘から分かっているし、今も微量のステータスアップ系の薬によって強化されているのが分かっている。

ならば、だ。
彼の攻撃が出来る限り当てられるような、そんな環境を作るしかないだろう。

『1回目、行くよ。マギくん準備』
『了解です。いつでもいけます』

うちの後輩はこういう時に頼もしい、そんなことを考えながら私は何本もの骨の腕をインベントリ内から自身の目の前の空中へ放り出した。
そしてその中の一本を口でキャッチし、噛み砕きながらスキル名を宣言した。

「さぁ、二度目だ。【食人礼賛】ッ!」

噛み砕いた骨の腕はもちろんの事、空中に放り出された他の腕も全てが光の粒子となって消え、それらが上へと掲げた私の右腕へと集まってくる。
次いでどうせならと【暴食本能】を発動させ、その効果を更に高め。
出来上がったのは今まで以上に巨大な異形の骨の腕。
私の三回りほどは大きいそれは、所々腕だけではなく白骨死体まで含んでいるようだった。

流石に今回の戦闘中2度目ともなれば警戒してくれるのか、グレートヒェンは私が腕をどう振るってもいいように剣を止め、盾を構えどっしりとその場に構えた。
だが、私がするのは攻撃ではなく、拘束だ。

そのまま私は振り下ろすように、彼女の身体を上から抑えつけるように骨の手を開き、その身体を捕まえようと握りしめた。
手には何かを掴んだような感触が伝わってきており、どうにかこうにかグレートヒェンか何かを掴めたらしい。

瞬間、私の横を何かが通りすぎていき次の瞬間大きな音を立てて爆発する。
私の異形の骨の腕ごと盛大に爆発したそれは、同時に周囲へ何か酸性の薬品でも撒き散らしたのか焼けるような音も聞こえて来ている。
黒い爆煙が立ち昇る中、私は笑顔で1回は言ってみたかった台詞を言う事にした。

「やったか!?」
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