Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第三章 オンリー・ユー 君だけを

Episode 35

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--第二区画 第二階層ダンジョン 【決闘者の墓場】 5F
■【印器師A】ハロウ

「【散布】」
『2分、よろしく!(゜д゜)!』
「「了ッ解!」」

ムービー処理が終わったのか動けるようになった瞬間。
巨大な骨の怪物が、こちらへと向かって走り出す。
それに対応するようにマギが事前の打ち合わせ通り薬を【散布】、メアリーが準備を始める。

マギが【散布】した薬は超敏捷強化薬。その名の通り、対象の敏捷……速度なんかに纏わるステータスを強化する薬だ。
それをグレートヒェンに効果がない範囲で【散布】した後に、すぐに他の薬を【散布】し始める。
恐らくは回復系の薬だろう。
前回メアリーに指示された通りの薬を周囲にばら撒き始めている。

そして前回最後の方に指揮を行っていたメアリーはといえば、現在巨大な何かを組み立てていた。
いや、何かではない。アレは彼女の新しい武器だ。
クロスボウから、威力と安定性を特化させ巨大化したもの。
本人はバリスタではない、と言っていたものの。その組み立て風景はバリスタを組み立てているようにしか見えない。

「とと、そろそろやり始めないとダメね」
「あは、気ィ抜けてるんじゃないかい?」
「ふふ、そうかもね……【洋墨生成】」

隣に来たCNVLの言葉に笑いつつ、私を覆うようにインクを生成する。
目の前には既に剣を振り上げているグレートヒェンの姿があり、アレをまともに喰らえば流石に防御系統ではない私はデスペナルティは免れないだろう。

「CNVL」
「リーダーは人使いが荒いねぇ!【食人カニバル・礼賛フェスタ】!」

しかし、それを心配する必要はない。
すぐ横にいるCNVLがインベントリから取り出した巨大な腕……恐らくはシェイクスピアの腕だろう。
それへと食らいつき、苦い顔をした後。
彼女の右腕が巨大な異形の肉の塊へと変わっていく。

そしてグレートヒェンの剣が振り下ろされるのと同時、それを上へ掲げるようにして剣を受け止めた。
本当に鉄と肉がぶつかった音なのか、金属と金属がぶつかったような音がすると共に少しずつCNVLの方が圧されているのが目に見えたため、

「【印器乱舞】。攻撃、拡張、次いで防御よ」
「ありッがとッ!!」

私はトンカチを操作し、CNVLの身体に直接捺印していく。
彼女の身体に赤、黄色、そして青のオーラが纏わりついた後。彼女の異形と化した腕と接していたグレートヒェンの剣が少しだけ上へと持ち上がる。
恐らくアレは拡張の印……射程増加効果によるものだろう。

生身で使った事はないものの、CNVLによれば射程増加効果は身体の大きさが一回り位変わったような感覚があるらしい。酔鴉辺りが使ってきたらかなり面倒臭そうだ。
それを見た後、自分にも拡張を除いたその2つの印と残る再生、俊敏の印を捺印した後に走り出す。

グレートヒェンの横へと一瞬で辿り着き、それを無視して更に奥。
今もなお、羊皮紙に何かしらのメモをとっているファウストの元へと駆けていく。
私の行動に気が付いたのか、背後から追撃しようとグレートヒェンが動きだしたのを感じるものの、そちらは問題ないだろう。

「おいおいどこに行こうっていうんだい?君の相手はこっちだろうッ!!」

CNVLの声が響き、またも激突音が聞こえ始めた。
……ここまでは事前打ち合わせの通りね。問題は……。

一気に足に力を入れ、跳ねるように駆ける私の目線の先にはファウストがいる。
彼との交戦経験がないため、彼がどんな攻撃をしてくるのか分からない。それが問題だ。
もしかしたらCNVLの方が相性のいいボスかもしれない。その場合は臨機応変に、などと考えながら、打ち合わせの内容を思い出しつつほぼほぼ距離が詰まってきたファウストを見据える。

「おや、おやおやおや!無粋じゃないかお客人!」
「生憎と、私達は客じゃなく【犯罪者】だから」
「そいつは失敬!【犯罪者】にそういった事を求めるのは酷だった!」

自身へと迫る私を見て可笑しそうに笑うファウストに対し、私は全く持って笑わない。
手には【HL・スニッパー改】、それを双剣状態にし。
印の効果によって目に見える形でオーラを纏う私はどこかの漫画に出てきそうなキャラクターそのものだろう。

いつも以上に加速している勢いそのままに。
私はファウストの横を駆け抜けるようにしながら、勢いを殺さずに手に持つ双剣で切りつける。
ガキン、という音と共に何か硬い感触があったため直撃はしていないだろうが関係ない。
直撃するまで剣を振るうだけなのだから。

その場で止まり、ファウストの方へと振り返れば。
肩を震わせながら笑う彼の腕が、骨の鎧のようなもので覆われていた。

「ふふッはははッ!!この【外骨装甲】には傷を付けられないか!やはり!」
「あら、面倒そうね」
「そうだろうそうだろう!【外骨装甲】はスケルトンにして約10体分の骨を固め、防具の形にしたもの!それを貫くには君のそれでは少々便りないだろうなぁ!」
「……【印器乱舞】」

どうしてファウストは聞いてもないことをこちらへと喋ってくるのだろうか、そんなことを頭の隅で考えながら。
私は5本のトンカチを全てファウストへと操作する。

「むッ!?」

そうして捺印された印は5つのデバフ。
約1分と短い時間ではあるものの、攻撃力は下がり自身の防御力は低下し、速度も出ず、射程は思った以上に届かなくなり、そして回復しようにもそれが阻害される。
それに加え、

「【強欲性質】」

私は特殊スキルを発動させ、地を蹴りファウストに再び接近した。
そろそろ2分。
彼女の準備が終わるものの、出来るだけ私の方に視線を向けていたほうがいいだろうと思いつつ。
戦闘はまだまだ始まったばかりだ。
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