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第三章 オンリー・ユー 君だけを
Episode 30
しおりを挟む--第二区画 第二階層ダンジョン 【決闘者の墓場】 3F
■【偽善者A】ハロウ
殲滅にそこまで時間は掛からなかった。
というのも、1回1回の時間制限があるものの捺印さえしてしまえばバフの効果がすぐに出てくれる印章のおかげで回復も攻撃もし放題のような状態だったためだ。
流石にこれは、という事で私とマギは少しだけ話し合っている。
CNVLに関しては……まぁ、考えてはいるだろうが自分から周囲の警戒を行うと申し出たため、話には加わっていない。
「これ、どっちだと思う?単純に印章が強いだけかしら」
「個人的にはバグの方かなぁとは思いますけどね。初心者用のツール類で作ったんですよね?」
「そうよ、初心者キットっていう奴で作った初心者が初めに作るような粗末な印章よ。効果時間もそこまで長くないし」
議題はもちろん、明らかにおかしい位の強化を私達に施した印章についてだ。
自己強化スキルを使っても蹴り飛ばせなかったタワーシールド持ちの前衛系スケルトンを、捺印1つで周りを巻き込んでまで吹き飛ばせるというのは、少し強化されすぎだろう。
マギの考えとしては、バグ。明らかに初心者が作れるものとしては強すぎるということで、どこかダメージを計算する部分などで不具合が起きているのではないだろうか、という事。
私もそこまで考えに違いはないということで、そのままプレイヤーメニューからGMコールを行った。
すると、程なくして白衣を上に羽織っている警官姿の見た事ある男性が現れた。
GM、というか運営スタッフの駿河さんだ。
前に見た時よりも眠そう、というか単純に疲れているのだろう。
あまり長居させてしまうのは申し訳なさそうだと思い、話を進めていくことにした。
「あーっと、君たちで良いかな。GMコールしたの」
「そうです、すいません。少し印章の効果でおかしいんじゃないかって思って」
「印章ー?あぁ、成程?俺が呼ばれた理由が分かった。で?何がおかしいんだ?」
「簡単に言うとですね……」
私とマギは実演しながら事情を説明していった。
「ふむ、成程な。確かにこりゃ数値バグってら。申し訳ない、少しの間そのままにはなっちまうがすぐに直すよ。報告ありがとう」
「あぁやっぱりバグだったんですね。お仕事お疲れ様です」
「お疲れさまでーす」
ある程度見た駿河さんはそう言って私達に手を振ってから戻っていった。
結論として、アレは仕様ではなくバグだったということで、初心者用のもので作った場合はもっと効果は小さく少ないものになるらしい。
流石に詳しい所までは教えてもらえなかったものの、印章は結局そこまで効果量の多いバフ、デバフ系生産物ではないとのことで。
「まぁ当然よね。ほぼほぼリキャストないような状態でインクさえあればずっとバフ受けられるようなものなんだし」
「いちいち身体のどこかに捺す必要はありますけどね。その時のインクの付き方によって効果時間も変わるんでしたっけ?」
「そうねぇ、きちんと全体が捺せたら最大時間、どこかが欠けるように捺したらその分だけ減っていって最低時間に近づくようになるわ」
バグの修正は流石に今日中に出来る、というものでもないとのことで。
印章の使い心地を確かめたかった私は、とりあえず戻る事にした。
CNVL達はどうするのかと聞くと、
「ん、もう少しだけ潜ってるよ。ストック増やしておきたいしね」
「そういうことらしいので、付き添いです」
との事。
CNVLのストックが増えれば増えるほど、その分彼女の継戦能力が上がっていくためパーティメンバーとしてはありがたい限りだ。
そんなわけで2人と別れ、私は1人セーフティエリアへと戻る。
「よし、とりあえず作りましょうか」
いずれ修正されるにしても、作ったものが消えるわけではない。
どれほどバフの効果量が下がるかはわからないものの、それでもあった方がマシというレベルにはなるだろうということで、各種現状作れる印章くらいは作っておいた方がいいだろうと考えたのだ。
それに試したい事も1つほどあるため、それを試していく事にした。
「よし、完成」
というわけでメインで作ったのがこの二つ。
――――――――――
俊敏の印章
制作者:ハロウ
効果:捺印した対象に対し、速度上昇効果を付与(30~60s)
説明:木材によって作られた印章
速度を意味する印が彫られており、特殊なインクを用いることで効果を発揮する
――――――――――
――――――――――
防御の印章
制作者:ハロウ
効果:捺印した対象に対し、ダメージ軽減効果を付与(30~60s)
説明:鉄材によって作られた印章
防御を意味する印が彫られており、特殊なインクを用いることで効果を発揮する
――――――――――
速度上昇効果は、単純に自分の動きの速さ自体を速くしてくれるもの。
防御の印章の効果は呼んでそのまま軽減だ。
現状、バグがある状態で使えばダメージ軽減だけでボス戦がある程度楽に戦えそうだな、と考えすぐに『それは面白くはない』と否定する。
そして、この2つ以外にももう1つ。
試験的に作ってみた印章がある。それがこれ。
――――――――――
攻撃と拡張の印章
制作者:ハロウ
効果:捺印した対象に対し、ダメージ上昇効果、射程増加効果を付与(15~30s)
説明:木材によって作られた印章
攻撃、拡張を意味する印がそれぞれ彫られており、特殊なインクを用いることで効果を発揮する
――――――――――
2つの印を1つの印章に彫り込んだものだ。普通1つのモノに2つ彫り込んでいるため、他の印章よりも少しだけ大きい。
初心者キットでは流石に無理があるのか、途中失敗してしまったため効果時間が短くなってしまったものの、それでも複数の印用のスペースさえ確保できれば複数の効果を発揮できると考えれば作る価値はあるものだろう。
……どうしてこんなコンテンツが今まで掲示板で全くネタにされないくらい知られてないのかしら。
そんな事を思いつつも、私は更に印章を作ることにした。
必要のなさそうなものから、実用的なものまで。どれを使うかは置いておいて時間の許す限り作成へと没頭していった。
たまには、こんな時間もいいかもしれない。
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