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第三章 オンリー・ユー 君だけを
Episode 24
しおりを挟む--第二区画 第二階層ダンジョン 【決闘者の墓場】 5F
■【偽善者A】ハロウ
コロッセウムに激しい剣戟の音が木霊する。
時に複数響くそれは、私とCNVL、そして巨大な骨の怪物であるグレートヒェンから発せられるものだった。
グレートヒェンによる攻撃をよけ、時に2人で力を合わせて受け。
攻撃をしようにも、こちらからの攻撃をいとも簡単に盾で防ぐ骨の怪物に少し……いや、かなりの焦りが生まれてしまう。
グレートヒェンのみに私達前衛組が付きっ切りになるとはうちのパーティの誰もが予想していなかったために、後衛組の2人も戦闘開始後の衝撃から復帰するや否や、こちらの援護に回っている。
幸いだったのは、ファウストがグレートヒェンに加勢せず、どこかから取り出した羊皮紙にこちらを見つつ何かを書き込んでいるだけという点だろうか。
彼も戦線に加わっていたら既に全滅していた可能性も高い。
……流石にレベルというよりかは、プレイヤースキルの方がまだ足りないかしらね。
装備の強化自体はしているし、与えているダメージが少なすぎるというわけでもない。
単純にグレートヒェンのような、巨大で力の強い敵との戦闘経験が少ないのだ。
「CNVL!」
CNVLが飛び跳ねながら攻撃を加えた後、グレートヒェンはその着地の瞬間を狙って攻撃を仕掛けてきた。
咄嗟にそちらに向かおうとしたものの、CNVLの顔に浮かぶ笑みを見て止め。
私はそのままハサミを構え、グレートヒェンへと近付いて横に振るう。
それ自体は盾で弾かれたものの、一瞬だけCNVLから注意をそらすことが出来た。
一瞬だけ気を逸らせられれば、CNVLは余裕を持って避けることが出来る。
そして、その一瞬さえあれば。
「【食人礼賛】!」
CNVLが一撃入れることができるのだから。
彼女は私も聞いたことのないスキル名を宣言しながら大きく跳び、左手に持つナイトゾンビの腕を喰らう。
瞬間、彼女のマグロ包丁を持つ右腕が肥大化……いや、何かの肉で覆われ二回り以上大きくなった。
その先端には銀に光る刃のようなものも見え、完全に異形のそれにしか見えない。
CNVLはそれを難なく上へと掲げると、そのままグレートヒェンへと振り下ろした。
グレートヒェン側も一応は反応出来ているのか剣を上へと掲げ受け止めようとしているが、間に合っておらず。
そのまま一撃、骨の化け物の肩口から上段で切り込む形となった。
CNVLの腕からは光が溢れ、いつもの彼女通りの腕がその中から現れる。
「追撃ッ!」
私はそう叫ぶと、大きく怯んだグレートヒェンへと再度近付き、ハサミを大きく開く。
それと同時、白い爆発と共にガラスが割れる音が複数回響き、グレートヒェンから何かが溶けるような音が聴こえてくる。
メアリーとマギによる支援攻撃だろう。
……【強欲性質】ッ!
声には出さず、頭で考えるだけでスキルを発動させながら、私はハサミでグレートヒェンの太い骨の脚の1本を鋏み込み断ち切ろうと力を込めた。
「ぐッ!?何よこれ!!骨なのにめちゃくちゃ硬いじゃないの!!!」
「ハハハハッ!当然だろう!その実験体は失敗作とは言ったものの、完成度は高い!彼女の持っていた防御能力くらいは再現されている!!」
「アンタの奥さんは超人か何かだったのかしら……!!」
つい漏れた愚痴のような言葉に、後方で何かのメモを取っているファウストが応える。
少しずつダメージは与えられているのか、スキルの効果によって私の力も上がっているのはわかるが……それでもまだ硬い。
軽く舌打ちしながら、うざったくなったのか私の方へ視線を向けてきたグレートヒェンから逃げるように鋏み込むのを止め、双剣状態にしながら距離を取る。
……使うタイミング間違えたわね。
単純に今【強欲性質】を使うべきではなかった。
脚が切れるかもれないなぁと単純な考えから使ったのだが、流石に浅慮過ぎただろう。
しかしまだ時間は残っている。
それを活かすため、手数の多い双剣へと変えたのだ。
「メアリー指揮交代!」
『了解!('ω')』
そしてパーティ全体の指揮をメアリーへお願いし、私は攻撃に専念することにした。
以前から、メアリーかマギに対して戦闘中の指揮をお願いできないかという話をしていたし、事実マギの方はある程度以前から出来ていたため、やるならばマギだろうと考えていた。
しかし、1つ問題が生じた。
それは、今私達が対峙しているファウストのような『こちらの言葉を理解し、行動してくる敵モブ』の存在だった。
こちらの声に合わせ、私達を迎撃するように動く敵を目撃した時。
私やマギからではなく、メアリー自身から指揮をやると進言してくれて、今に至る。
メアリーの指揮の利点。
それは、
『ハロウ、そのまま脚に攻撃。5連撃に1回距離取って。CNVLさんはデメリットないならもう一回さっきの。あるなら他のスキルを使って、ごまかしながら正面からヘイト引いて。再使用可能になったら宣言すること。マギくんは割合じゃなく固定値回復のポーション【散布】。こっちには効果高くてもあっちはHP多い分薄いから大丈夫』
この長さだ。
元々彼女は、戦闘中でもパーティチャットにて会話をするようなプレイヤー。
そのタイピング速度は並みではない。
私やマギのような発声では言い切れないような指揮も、彼女にかかればすぐに皆へと伝達する。
そして、もう一つ。
それは、声に乗らないことだ。
パーティチャットという性質上、パーティ以外のメンバーは見ることも聞くこともできない。
唯一例外として、チャットの読み上げ設定をオンにしていればパーティメンバーは音声によって聞くことが可能だが……それでも周りへと漏れる事はない。
これによって、私達の戦闘中の行動は誰にも阻害されることなくスムーズに行うことが出来るようになった。
指揮を受け、私達は行動を開始する。
眼の前の敵を倒すために。
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