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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?
Episode 35
しおりを挟む■遠野 葵
夜。
ゲームからログアウトした私は、いつもの日課として外出していた。
というのも、目的地はそこまで遠くなく。
家近くの食事処、というだけなのだが。
そこへたどり着けば、やはり先に着いていた男から話しかけられる。
私はそこに用意された椅子に座りながら返事をした。
「しかし、なんでこっちで続きなんです?別にあっちでも紅茶は飲めるのに」
「おいおい、そうじゃあないんだ。そうだけどそうじゃあない。確かに向こうでも飲めるし、それ用のアイテムも用意したのは私だけどね?でもやっぱり現実の方が良いものがあったりするだろう?」
「長ったらしくありがとうございます。まぁ、そういうことなら何も言いませんが」
FiCを始めてから、ゲーム以外の自分の時間というのは極端に少なくなった私だが。
それでも、定期的にこうしてマギ……後輩と共に適当に話しながら紅茶を飲むという時間を作っていた。
FiCの中でも紅茶を飲むこと自体は、確かに彼の言う通りできる。
しかしながら、やはりゲームとリアルでは違うものがあるのだ。
結局の所、ゲームで飲む紅茶は特に言うところもない……言ってしまえば完璧なもので。
現実の方がやはり、雑味などが混ざってしまっている完璧とは言い難いもの。
……でも、だからいいんだよねぇ。
そんなことを考えながら。
私は後輩とゲーム内でのこれからのことを話し合う。
「いやぁ、やっぱりダメだよアレ。防具どうにかしないと」
「ダメージ受けても自己回復出来る先輩でアレですからねぇ……」
話題はやはり、第二階層で発見されたダンジョン。
名前は【決闘王者の墓場】というもので。
出現する敵性モブはスケルトン……所謂、動く人体模型という奴だった。
「何が厄介って、スケルトンしゃぶっても回復は出来るけど、数が多くて回復が間に合わないのが」
「僕達も支援しようにしても、的がスッカスカだからかメアリーさんのボルトも中々命中しないですし……僕なんて尚更ですよ」
「あは、どうするかねぇ……」
第二階層に存在するダンジョンは、基本的に第一階層とは違い敵性モブに乗せられているAIの頭が良いとされている。
というのも、ほぼ同時期に第二階層を見つけたらしい酔鴉も言っていたことだが……第一階層に出現する敵性モブではしなかった『連携』をしてくるらしいのだ。
こちらのパーティのように、アタッカーが居て。
バッファー、ヒーラーが居て。タンクが居て。
私達の挑む【決闘王者の墓場】も、酔鴉の挑んでいるらしい【亡者の生祭】も、どちらもモブがパーティのようなものを組んで移動し、こちらを見つけるや否やそれらしい動きで襲い掛かってくるのだ。
今まではこちらを襲い掛かってくるだけだった者らが、明確な役割をもって襲い掛かってくるというだけでも、かなり厄介だった。
「単純にパーティ単位での戦闘に慣れるしかないよねぇ。実際、私達がやられてるのって相手がパーティなのに慣れてないだけだし」
「そうですね……今までは乱戦か、それ以外だと1体を数的有利でぼこぼこにしてただけですし」
「私かハロウがタンクに移行すればいい話なんだけどねー。でも今更感強いから、詰む所まではこれで行きたいぜ」
「まぁ、回避タンクとかも一応ありですから。それっぽい事ができそうなの先輩じゃなくハロウさんですけど」
「そうかい?私も避けようと思えば避けれるんだぜ?避けない方がダメージ与えやすいから避けないだけで」
ここまで役割構成を適当にパーティを組んできたツケが回ってきた感じだろうか。
しかし構成だけで計れないのが、VRMMOと私はハロウに教わっている。
「あぁ、そうそう。先輩、掲示板で色々話題になってますよ」
「あ、本当かい?どんなスレ?」
「えーっと……『【お前の名前は】有名プレイヤー通り名スレpart4【なんて言う?】』と『【決闘者の皆様】決闘イベント感想スレ【お疲れ様です】』ですね」
自分のスマホを取り出して確認してみれば、確かに私の事が話題として挙がっている。
例えば、私の食べている肉は何か意味があるのかだとか。
実際に食べてみた人もいるらしく、「あんなの日常的に食べてるだなんて、あの人人間じゃねぇ!」等とコメントも残している。
慣れれば意外とイケるのだが……あまり理解されないようだ。
ちなみに美味しさ的には、スポーナー≦腐った肉片≦ソルジャーゾンビ・プレイヤー≦ナイトゾンビ≦ボス連中の順番で。割とボス連中は美味しい部類にはなる。血が凄いが。
他にも、私の通り名……所謂『漆黒の堕天使』だったり、『疾風迅雷』だったりするファンタジー小説やゲームでお馴染みのアレが考えられているらしく。
といっても、私のは案外シンプルで、そこまで私のイメージと変わりないものだった。
「おぉ、通り名つくんだねぇ私も」
「そうみたいですね。……あんまり変わらない気がするんですけど」
「まぁ、それは仕方ないさ。というか私としてはもうちょっと他になかったのかなって感じではあるなぁ。……『屍肉喰い』なんてそのまますぎるじゃないか」
「あ、一応ルビあるみたいですよ。『屍肉喰い』って読むらしいです」
屍を喰らう者。グール。
確かに、ゾンビの肉ばかり喰らっている私にはお似合いの通り名だろう。
問題は、私は別に屍肉以外にも生きている相手の肉も喰らうという所ではあるが……、
「一応、CoCでも人を襲うグールも出てくるし、そういう意味でこの通り名かなぁ」
「まぁそうでしょうね。先輩めちゃくちゃ人襲いますし」
「あは、人に見えるだけでアレは人じゃなくゾンビだしねぇ。FiCできちんと人を襲ったのは2回くらいしかないぜ?」
「あるのが問題なんですよ……」
はぁ、とため息を吐く後輩を笑いながら見ながら。
私はぐぐっと背筋を伸ばし、椅子から立ち上がった。
「そろそろ時間だし、帰ろうか」
「そうですね、明日も早いですし……それに明日もチャレンジするでしょうしね」
「そうだねぇ。明日に攻略は無理だろうけど……それでも、前に進めるといいなぁ」
そんな会話をした後に、私と彼は歩き出す。
お互い反対方向ではあるものの、目的地は結局のところ同じで。
私達はそうかからないうちに再会することだろう。
仲間たちの待つ、空に浮かぶ巨大な監獄都市で。
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