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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?
Episode 31
しおりを挟む--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 屋上エリア
■【食人鬼A】CNVL
鉄同士がぶつかり合う音がする。
火花が散り、光が舞い、そして血が跳ねる。
これまでの予選で使ってきたのであろう【隠蔽】の位置がばれないという利点が、私の自己強化バフによって潰され。
スキルによって作り出された剣や盾が、彼女のハサミによって物理的に潰される。
こちらがコストごと無駄になっているのに対し、まだバレていないもののあちらは実質何も制限がかかっていない状態なのだ。
ジリ貧というレベルではなく、単純に勝てない相手に挑んでいるような感覚。
それに加え、彼女の【偽善活動】は時間によって強化具合が変化していく長期戦タイプ。
……勝ち目、ないなぁ。予選ならまだしもちょっとこれは厳しいぜ。
今もこちらへ近づいてくるハロウの速度は先程よりも少しずつ上がっていて。
叩きつけるように振るわれる【HL・スニッパー】は、早く重くなっていっている。
苦しい時こそ笑え、というある意味間違った言葉があるが……現状はギャグかと思うくらいに苦しい戦いを強いられているため笑えてくる。
そんなことを考えながら、左手に【菜切・偽】を取り出した時。
突然距離をとったハロウから声を掛けられた。
「CNVL、貴女限界が近いでしょう」
「……おいおい、まるで私が負けそうみたいな事を言うじゃあないか」
「事実でしょう?さっきよりもマグロ包丁の振りが遅くなったし、重さも全然違うわ。【暴食本能】切れたんでしょう」
事実、私に今かかっているバフは【アントロポファジー】のみ。
聞こえているように振舞っているものの、もう一度【真実の歪曲】による【隠蔽】は既に見破る事はできないものとなっている。
迎撃するにしてもほぼほぼ勘と運で何とか保ってるだけ。
正直、限界と言われてもおかしくはない。
「あは、確かに切れちゃってるし、コスト用の人肉もほぼないねぇ」
「限界じゃない」
「……あぁ、そうさ限界さ。これ以上は君に強化具合で引き離されるだけだし、勝ち目はどんどんなくなっていく。今こうしている間にもそうだろうね……でもッ」
地を蹴り、ハロウに近づいて。
彼女の脇腹に狙いをつけて、勢いそのままに出刃を突き出す。
しかし、ゲームの身体強化というのは残酷で。
今の私の動き程度ならば容易に対応できるのか、半身横にずらす形で避けられ。
そのまま出刃を持つ腕を掴まれてしまう。
私の腕を掴む関係上、ハサミを持つことはできないのだろうが……それでも彼女にはナイフを持っている。
一見すれば、絶体絶命。しかしながら、これは私にとっての予想内。
彼女が攻撃を当てやすい状況というのは、逆に言えば私側からも攻撃を当てやすいということ。
私は彼女の振り上げているナイフに一切の対策もせず。
右手に持つ【解体丸】を下から上へと跳ね上げるようにして振るう。
瞬間、再度血が舞った。
私の左腕は既に血だらけで動かず。
それ以外の四肢も満足に動くような状態ではなかった。
ナイフに刺され、ハサミに先を潰され。
少しずつ少しずつ出来ることを減らされていく感覚に、少しだけ顔が歪む。
「あは、これで満足かい?」
「満足かと言われると、まぁ満足よ。でも不満もあるわ」
「あー……次は私の在庫を万全にしてからやろうか。そうじゃないと、多分君は満足しないだろうし」
「そうしましょうか。じゃあ、またあとでね」
私は仰向けに倒れ。
そんな私の上にハロウは立ち、ナイフを振りかぶる。
ぐちゅ、という水っぽい音と共に、私のHPが急速に減っていき底を尽く。
視界が、黒く染まる。
--System Message 『あなたは敗北しました。スタッフの指示があるまでその場で待機してください』
黒く染まった空間の中、私の視界の隅にはそんなメッセージが表示され。
私は溜息を吐いてしまう。
「はぁー。負けたなぁ。……悔しいなぁ」
やりようはあった。
新しい武器や既存のスキルを使って、相手にぶつかって。
それでもやはり、足りなかったのだろう。
彼女の首に手を掛けるには、まだ足りなかったのだろう。
考え無しにアイテムを使っていた事も反省しないといけない。
確かにあの場では最善だったのかもしれないが、長い目で見れば最善ではなく。
先程の不甲斐ない試合のような結果を引き寄せるのだろうと、そう自分の中で結論付けた。
「立ち回りだけじゃなく、使い方も考えないと」
自分を犠牲にした戦い方をせず、アイテムやスキルの使い方をしっかりと詰めていく。
これが今後の私の課題なのだろう。
今だスタッフとやらの案内が来ないからか、一寸先も見えない暗闇の中。
私は頬が緩むのを感じた。
確かに苦しい戦いだった。
始め参加する時は、ほぼ自分の意思ではなく流されただけだったが……得るものがたくさんあった。
……流されてよかったなぁ。
収穫があった。新しい戦い方を考える良い機会になった。
負けたのは悔しいものの、それを踏まえれば楽しいイベントだったなぁと薄く笑う。
その後、遅れてきたスタッフによって転移され私は選手用のフィールドへと飛ばされた。
一応3位決定戦とやらがあるそうで。
それが終わった後、敗者復活から上がってきたプレイヤーとの戦いもあるらしい。
まだまだこの決闘イベントは終わっていないのだ。
やりたい事をやって、イベント終了まで駆け抜けよう。
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