Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

文字の大きさ
上 下
61 / 192
第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 31

しおりを挟む

--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 屋上エリア
■【食人鬼A】CNVL

鉄同士がぶつかり合う音がする。
火花が散り、光が舞い、そして血が跳ねる。

これまでの予選で使ってきたのであろう【隠蔽】の位置がばれないという利点が、私の自己強化バフによって潰され。
スキルによって作り出された剣や盾が、彼女のハサミによって物理的に潰される。

こちらがコストごと無駄になっているのに対し、まだバレていないもののあちらは実質何も制限がかかっていない状態なのだ。
ジリ貧というレベルではなく、単純に勝てない相手に挑んでいるような感覚。
それに加え、彼女の【偽善活動】は時間によって強化具合が変化していく長期戦タイプ。
……勝ち目、ないなぁ。予選ならまだしもちょっとこれは厳しいぜ。

今もこちらへ近づいてくるハロウの速度は先程よりも少しずつ上がっていて。
叩きつけるように振るわれる【HL・スニッパー】は、早く重くなっていっている。
苦しい時こそ笑え、というある意味間違った言葉があるが……現状はギャグかと思うくらいに苦しい戦いを強いられているため笑えてくる。

そんなことを考えながら、左手に【菜切・偽】を取り出した時。
突然距離をとったハロウから声を掛けられた。

「CNVL、貴女限界が近いでしょう」
「……おいおい、まるで私が負けそうみたいな事を言うじゃあないか」
「事実でしょう?さっきよりもマグロ包丁の振りが遅くなったし、重さも全然違うわ。【暴食本能】切れたんでしょう」

事実、私に今かかっているバフは【アントロポファジー】のみ。
聞こえているように振舞っているものの、もう一度【真実の歪曲】による【隠蔽】は既に見破る事はできないものとなっている。
迎撃するにしてもほぼほぼ勘と運で何とか保ってるだけ。
正直、限界と言われてもおかしくはない。

「あは、確かに切れちゃってるし、コスト用の人肉もほぼないねぇ」
「限界じゃない」
「……あぁ、そうさ限界さ。これ以上は君に強化具合で引き離されるだけだし、勝ち目はどんどんなくなっていく。今こうしている間にもそうだろうね……でもッ」

地を蹴り、ハロウに近づいて。
彼女の脇腹に狙いをつけて、勢いそのままに出刃を突き出す。

しかし、ゲームの身体強化というのは残酷で。
今の私の動き程度ならば容易に対応できるのか、半身横にずらす形で避けられ。
そのまま出刃を持つ腕を掴まれてしまう。

私の腕を掴む関係上、ハサミを持つことはできないのだろうが……それでも彼女にはナイフを持っている。
一見すれば、絶体絶命。しかしながら、これは私にとっての予想内。
彼女が攻撃を当てやすい状況というのは、逆に言えば私側からも攻撃を当てやすいということ。

私は彼女の振り上げているナイフに一切の対策もせず。
右手に持つ【解体丸】を下から上へと跳ね上げるようにして振るう。
瞬間、再度血が舞った。


私の左腕は既に血だらけで動かず。
それ以外の四肢も満足に動くような状態ではなかった。
ナイフに刺され、ハサミに先を潰され。
少しずつ少しずつ出来ることを減らされていく感覚に、少しだけ顔が歪む。

「あは、これで満足かい?」
「満足かと言われると、まぁ満足よ。でも不満もあるわ」
「あー……次は私の在庫を万全にしてからやろうか。そうじゃないと、多分君は満足しないだろうし」
「そうしましょうか。じゃあ、またあとでね」

私は仰向けに倒れ。
そんな私の上にハロウは立ち、ナイフを振りかぶる。
ぐちゅ、という水っぽい音と共に、私のHPが急速に減っていき底を尽く。
視界が、黒く染まる。

--System Message 『あなたは敗北しました。スタッフの指示があるまでその場で待機してください』

黒く染まった空間の中、私の視界の隅にはそんなメッセージが表示され。
私は溜息を吐いてしまう。

「はぁー。負けたなぁ。……悔しいなぁ」

やりようはあった。
新しい武器や既存のスキルを使って、相手にぶつかって。
それでもやはり、足りなかったのだろう。
彼女の首に手を掛けるには、まだ足りなかったのだろう。

考え無しにアイテムを使っていた事も反省しないといけない。
確かにあの場では最善だったのかもしれないが、長い目で見れば最善ではなく。
先程の不甲斐ない試合のような結果を引き寄せるのだろうと、そう自分の中で結論付けた。

「立ち回りだけじゃなく、使い方も考えないと」

自分を犠牲にした戦い方をせず、アイテムやスキルの使い方をしっかりと詰めていく。
これが今後の私の課題なのだろう。
今だスタッフとやらの案内が来ないからか、一寸先も見えない暗闇の中。
私は頬が緩むのを感じた。

確かに苦しい戦いだった。
始め参加する時は、ほぼ自分の意思ではなく流されただけだったが……得るものがたくさんあった。
……流されてよかったなぁ。
収穫があった。新しい戦い方を考える良い機会になった。
負けたのは悔しいものの、それを踏まえれば楽しいイベントだったなぁと薄く笑う。

その後、遅れてきたスタッフによって転移され私は選手用のフィールドへと飛ばされた。
一応3位決定戦とやらがあるそうで。
それが終わった後、敗者復活から上がってきたプレイヤーとの戦いもあるらしい。
まだまだこの決闘イベントは終わっていないのだ。
やりたい事をやって、イベント終了まで駆け抜けよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...