Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 26

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--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 交差点エリア
■【食人鬼A】CNVL

攻撃を行えば、カウンターを返され。
回避を行えば、深追いをせずその場でじっと待つ。
スキニットの使っている系統が何かは分からないが、彼の戦闘スタイル的に考えれば、恐らくは防御寄りのDか何かではあるだろう。

通常、掲示板では攻撃にには向かないと言われていた防御系統ではあるが。
私は実際に防御系統ではあるものの、強力な攻撃を繰り出してきた相手を知っている。区画順位戦中に戦った禍羅魔がそうだ。
そして、今もそれと似たような相手と戦っている。

しかしその時と違う点ももちろんある。
それは相手であるスキニットの【犯罪者】の情報がある程度割れているということ。
彼の【立会人】という上位職のスキルは、色々と不便なものが多い。
そのどれもが、最悪でも自分以外に1人以上のプレイヤーが必要となる制限がかかっている。

例えば彼が今使っている文字が身体へと纏わりつく自己強化のスキル【身体ハード誓約プレッジ】。
相手となるプレイヤーが対して、自分が成し遂げたいと思っていることについて語りかけることによって、その『成し遂げたいこと』が達成できるまでの間、それに関係する身体能力を強化できるというもの。

といっても、その語りかける内容について相手が聞いている必要はなく。
ただ、それを使っているプレイヤーが何かを喋っていると相手に認識させれば良いとのこと。
面倒な事この上ない、面倒なスキルだ。

今も口が動いているのを見てしまったために、彼の身体……主に腕へと文字が伝う。

「また何か強化したのかい?飽きないねぇ!」
「そりゃ強化するだろうさ!俺の【立会人】は、長時間の戦闘の方が向いてるんだから!」

ゾンビスポーナーの肉塊を喰らい、拘束用の人型を出現させながら。
私は【解体丸】を右手に持ち、彼との距離を縮めるために再度地を蹴る。
先程の接近とは違い、今回はゾンビスポーナーの能力で出現した者たちと共に接近しているために、彼の対応も先程とは違うだろう。

まずは勢いのままに突きを。
それが身体の動きのみで避けられれば、そのまま身体を回すことによって体術へと移行する。
足狙いの回し蹴りを。後ろに退くことで避けられたものの。
私の出した赤黒い人型達が彼を追撃していく。

触れた瞬間にその身を使って相手を拘束するそれらに対し、スキニットがとった行動は簡単で。
盾をインベントリへ仕舞い、新たにもう一本剣を取り出して。
身体に触れないよう気を付けながら、彼らを切って切って光へと変えていく。

……まぁ、そうなるよね。ここが弱い所か。
薄々気が付いていたスポーナーの能力の弱点。身体に触れない限りはその最大の利点である拘束ができないというもの。
そんな弱点を露呈しながらも、この能力はやることはやってくれた。

今、彼が手に持っているのは剣のみで。
盾は仕舞っているために、防ぐものは何もない。
そんな隙を晒しているのだ。

私はソルジャーゾンビの腕を左手に取り出し。今もなお、スキニットに切られている人型達の身体を隠れて再度近づいて。
それらを後ろから叩き切るように、私は【解体丸】を斜め上から振るう。

当然剣によって防がれるものの。
即座にソルジャーゾンビの腕を喰らい、剣を出現させ。外から薙ぐようにして斬りつける。
スキニット側からそれが見えていたのかどうなのか分からないが、そのまま防がれる事もなく。
彼の脇腹へと私の持つ剣は到達した。

囚人服しか着ていないように見えた彼の身体から伝わってくる感触は、見た目以上に硬く。
ダメージを与えられたとしても、それは少ない量だろう。

しかしながら、やっと一撃入れることが出来た。
そう思ったのも束の間、スキニットは無理矢理に足で私の腹を蹴り飛ばし、距離を強制的に開かせる。

「ゲホッ……お、おいおい……レディのお腹に対してそんな蹴りを入れるなんてどういう了見だい?」
「人の腕を食らいながら襲ってくる奴は俺の知ってるレディではないからな、それにこっちは脇腹に食らっちまってる。おあいこだ」
「あはっ、そりゃそうか」

そんな冗談を言いながら、私は次にどうするべきかを考えるために頭をフル回転させる。
……身体の硬さからして、最初の強化はそっちかな。保険として掛けといた、みたいなものだろうけど。

切れないほど、弾かれるほど硬くはない。
しかしながら、人間の身体というには硬すぎるその硬度。
それが分かった時点で、私の選択肢の中から出刃を使うというものは消えていた。
アレを使うよりも【解体丸】やナイトゾンビの剣の方が硬いものに対しては適しているだろう。

かといって、それらが彼の身体に到達するまでの道筋がこれっぽっちとして思いつかない。
それこそ今さっきのような奇襲でない限り、正面からいっても技量の差で防がれてしまう可能性がある。

……あぁ、ジョンソンの肉残しておけば良かった!
スポーナーとは違い、その場にあるものを加工しスケルトンを作り出す能力である彼の肉さえ有ればまた違うのだろう、と考え自分で全て食べてしまった事を思い出し嫌になる。
食欲旺盛というのも、時に欠点になるものだ。

一度息を吐き。しっかりと相手を改めて見る。
再び剣と盾のセットに持ち替えた彼は、油断なくこちらの動きに対応するため、その場から動かず、じっとこちらを見据えてきている。
向こうから攻めてこないのは、先程聞いた通り時間が経てば経つほどに彼の強化は増えていき、強くなっていくからだろう。

防御系統にすることで時間を稼ぎ、【犯罪者】によって強化して相手を叩く。
分かりやすく、強い。

もう一度息を吐く。
そして考える事を放棄した。

どうせ考えたところでどうしようもないのだ。
なら、私にできる事をやるしかない。
単純に、簡単に。考え過ぎずに馬鹿みたいに向かっていって食らうだけ。
それが私だろう。

にやりを大きく笑い、私は手に持った【解体丸】に力を込めて。
改めて駆けだした。
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