Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 24

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--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 ショッピングモールエリア
■【食人鬼A】CNVL

勘に頼って戦う。
それは簡単に出来るようで、難しいことだ。
どうしたって人間というのは、勘よりも経験に則って身体を動かしてしまう場合がある。
手癖や足癖……所謂癖と呼ばれるものがそれにあたる。
意識せずに、何も考えずに身体を動かす。そうやって成功した経験から。
それを何度も繰り返したという経験から。

ゲーム内だってそうだ。
全ての動きは経験から来ている。
剣を振るうことだって、相手の攻撃を避けるのだって。その全てが経験したからこそできるようになったことだ。
……でもやるしかないじゃんねぇ……。

私は耳に意識を集中させ、勘に頼って足を動かし。
ほぼほぼ人間に見えない速度で放たれる銃弾を避け続ける。

経験なんてしたことがない。
そも、現実に生きていたとしても、このゲーム内にいたとしても、銃なんて代物をこの目で見たことはこれが初だ。
知識としては知っている。だが、それは『経験』にはなりえないために、意味がない。
ここまで長々とそれっぽい事を考えてきたものの、正直な話。

「きっびしいなぁ……!!」

その一言に尽きる。
もしかしたら何かのスキルによって補助されているために、こうやって銃弾を避けるといった芸当を行えているのかもしれないが……それにしても、厳しい戦いなのは変わりない。
なんせ、避ける方に意識を割きすぎて攻撃へと移れないのだから。
幸いなのは発砲後、数秒の間が開くことだろうか。
……まぁ、あちらさんもある程度余裕はなさそうだけどッ!

再度銃声が鳴り、私は咄嗟に横へと跳ぶ。
すれば、元居た位置へと銃痕が1つ新しくできて。一撃貰うだけでも危険なのだろうと、容易に想像することが出来た。
幸いにも現在の戦場であるショッピングモールエリアは遮蔽となるものが多い。
壊れかけのバリケードも上手く使えば銃弾を防ぐことに使えるだろう。

そう考え、私は走り出す。
数秒の持ち時間の間に、近くにある遮蔽物……ちょっとした家具だったものらが積み重ねられ出来たバリケードの後ろへと隠れる。
それと同時、バリケードへと銃弾が当たる音がして。冷や汗がドッと出てくるのを感じた。

「……あれ、多分海賊とかそんな感じの【犯罪者】だよねぇ……黒髭って言ってたし」

アルファ1が使ったスキルの名前は【黒髭の流儀】。
それに合わせ、自らの首に傷をつけていたのはスキルのコストかデメリットか。まぁそのどちらかだろう。

そこから連想できる名前は、エドワード・ティーチ。
現代でも漫画やゲームのキャラクターによく使われる、実在したとされる海賊だ。
黒髭と呼ばれた海賊がモチーフとなっている【犯罪者】ならば、スキルもそれに近しいものとなっているのだろう。

「ふぅー……ってことは、あの銃クイーン・アン・ピストルモチーフだったりする?彼、結構【犯罪者】に合わせて装備を揃えていくタイプなんだねぇ……」

そんな呟きを漏らしながら、どう攻略すべきかを考える。
実際の話をすれば、私とアルファ1の相性は最悪だろう。
それこそスキルを使う前ならまだしも、今の状況では私が不利だ。

というのも、私には遠距離攻撃手段が1つも存在しない。
どの攻撃も、スキルを使っても、私自身が近づいて攻撃することに特化しているのが私なのだ。
今そのまま近づこうとすれば、簡単に撃ち抜かれて終わるだけ。
この状況をひっくり返すには手が足りていなかった。
……といっても、物理的に数を増やした所で撃ち抜かれて終わりだろうし……。

「……あっ」

どうするべきか、と周りを見渡して思い出す。
ショッピングモール。廃墟と化してはいるものの、かつて人に物を売るための店が集合していた場所だ。
それこそ、現実ならばある程度の物はそろってしまうほどの商品数を誇っているはず。
当然、それを買いに来た人を守るための設備も存在する。

私はバリケードを背に、走り出した。



■【海賊T】マーキス

……バリケードからこちらを伺いつつも、動かない……成程。何かしらを考えてるんですかね。
首から流れていく血を拭いつつ、状況を把握する。
私の手にある銃に、家具が集まって出来たバリケードを貫通する力はない。

だからと言って近づけば、彼女の方が上手なために殺されるだろう。
ままならないものだ、と苦笑いを浮かべてしまう。

【黒髭の流儀】。
自らの急所でもある首を掻っ切ることによって発動させる自己強化スキルであるそれは、最終的に自死が約束されている狂ったスキルだ。
腕力や脚力を上げ、スキルによって銃とそれで撃てる弾を生成する代わりに、スキルのコストのせいで最終的に死んでいく。
このまま隠れられ続けたら、それこそ私の負けが確定するだろう。

だからこそ、攻めたい所ではあるのだが……と考えていれば。
カツン、カツンという足音が聞こえてくる。

「……おや、覚悟でも決めましたか?」
「あは、まぁある意味で覚悟は決めたかな」

何故か手ぶら・・・・・・で出てきたCNVLの姿がそこにはあった。
先程まで持っていた出刃包丁もマグロ包丁も手にはなく、手の平に何も持っていないように見せてきている始末。
少しだけ、溜息を吐いてしまう。

「はぁ。貴女はもう少し貪欲に勝ちに行くスタイルの人だと思っていたんですが」
「おいおい、まだこっちが負けたとは限らないだろう?もしかしたらここから君にトドメを刺すかもしれないじゃあないか」
「銃を持っている私に、その位置から?勝てるとでも?」
「現に、ここまで銃弾については避けてきたぜ?忘れたかい?」

煽るような態度をとる彼女の姿に言い返そうとして、止める。
この状況が既にCNVLの思い通りに流されているかもしれないが、気を取り直す。
彼女がまだスキルのコストに気が付いていないとは言え、これ以上時間を経たせるというのはこちらが不利になっていくだけだ。
そう思い、銃を改めて彼女へと構えた瞬間、それが目に入った。

「それに、だ。獲物を目の前にした狩人が諦めるはずないじゃあないか」

笑顔。彼女はこちらへと満面の笑みを浮かべていた。
それに何故か恐怖を覚え。引き金を引く。
瞬間、彼女は横へと跳ぶことで軌道上から避け、こちらへと走り出した。

弾丸を装填させつつ。私はカットラスを使って近づいてくる彼女へと対応しようと身体を向き直した、その時。
視界いっぱいの赤色が、突然現れた。
咄嗟に、それを切ってしまえば。
中からはピンク色の何かが溢れ出し、私の視界を今度はピンクに染め上げた。

「あはッ!残ってて良かったよねぇ消火器!現代モチーフならあると思ったんだ!!」

ピンクに染まった私の視界からは、どこから彼女が来るか分からず。
何かが動いたと思い、それを切り、撃ってみれば。
それは赤黒い人型の何かだった。

一瞬、思考が止まる。
それがいけなかったのだろう。

ドンッ、と背中に強い衝撃が走り。
見れば、そちらには大きな口を開けた女が居て。
いつの間にか赤黒い何かによって拘束された四肢を、彼女は喰らっていき。
私のHPは底を尽いた。


■【食人鬼A】CNVL

--System Message 『CNVL選手の勝利です。転移しますので今暫くその場でお待ちください』
「何でもありのルールだからこそ。その場に使えるものがあるなら使うよねぇ」

途中から光へと変わったアルファ1を見送りながら。
私はその場に腰を下ろす。

私がやったことは簡単で、単純にある程度まで近づいて消火器をインベントリから取り出して投げただけ。
ショッピングモールというエリアから、どこかしらに消火器のようなものがあるんじゃないかと思ってはいたものの。本当に存在し、尚且つインベントリに入れられるとは思っていなかったため、自分でも驚いた。

そしてその後に、切られた消火器から出た粉末状の消火剤によって塞がった視界に合わせ、スポーナーの肉塊を喰らって能力を発動し。
それからは、分かる通りだ。
単純にフィールドのモノを使って攻略しただけのこと。
予想外だったのは、アルファ1がそれに想像以上にハマってくれたことだろうか。
どちらにせよ、勝つことが出来たのは喜んでいいだろう。

……っていっても、次、十中八九スキニットくんだよねぇ……。
今からどうやって倒すかを考えつつ。
私は自分が転移されるのを待つことにした。
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