Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

文字の大きさ
上 下
52 / 192
第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 22

しおりを挟む

--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 駅前エリア
■【食人鬼A】CNVL

金属同士がぶつかり合う。
一度ではなく、複数回鳴り響いたそれは私の攻撃が全て防がれていることを意味していた。
自身を【狂画家】と称した対戦相手……バディは、その名に似つかわしくない動きでこちらと互角に渡り合っている。

出刃で突き刺そうとすれば逸らされ。
意識がそちらに向いていると思い、剣を死角から入れようとすれば身体を捩ることで避け。
足払いをかけようとすれば、距離をとられ不発に終わる。
未来でも見えているのかと思うくらいに正確に防がれ、致命の一撃を入れることが出来ない。

しかしながら、相手もそれは同じようで。
彼女の攻撃は全て、血の絵具を投擲する所から始まり。
手に持つペインティングナイフでこちらの肉を抉ろうとするのを、紙一重で避け。
いつの間にか取り出していた筆を使い、こちらの身体に何かを描こうとするのを距離をとることで避け。
やはり、彼女も彼女で思うように攻撃が出来ていない。

どちらかがミスをしない限りは終わることのない試合が繰り広げられていた。

「あは、しぶといねぇ。そろそろ諦めてくれるとありがたいんだけど」
「それはこちらの台詞ですよっ!流石にうちの区画トッププレイヤーさんは甘くないですね!」
「褒めても何も出ないぜ?」
「褒めてないので出さないでくださいね!」

時々そんな言葉を交わしながら、私と彼女は殺し合いを続けていく。
切り、防がれ、突き、逸らされ、投擲し、食われ、しかしながらどちらもHPを減らさずに。
そんな中、やはり気になるのは彼女のスキルだろう。

……使ってる素振りが見えない、というか。使ってるとしても絵具みたいなの作りだすくらい?
私の視界からは特段何かスキルを使っているように見えないのだ。
もしかしたら目に見えない範囲で何かの自己強化系スキルを使っている可能性はあるが、それでも【狂画家】という名前の【犯罪者】にしては大人しいという印象を受ける。

確かめる必要があるかもしれない。
もし使っているのならば、使っていなかったアイテム群を使って決着をつけるだけで。
もし使っていないのであれば……。
……こっちがすっごい不利になるなぁ。
そんなことを思った瞬間、頬が緩むのを感じた。
身体は正直と言うけれど、私の身体は特に正直だろう。好きな事に対面した時の反応が本当に正直だ。

そうして、走り出す。
先程までと同じように彼女の懐に入り込むようにではなく、思い出すのはハロウと共に戦った一回目のシェイクスピア戦の時のように。
あの時のハロウのように、勢いを殺さずに走り抜けるように。
しかし手に持つのは彼女の持っていた得物ではなく、出刃包丁を持ち。

バディはその姿を見て何を思ったのか、こちらを見て目を見開き笑った。
何が来ても対応できるように腰を低くし、ペインティングナイフと筆を構え、防御に重きを置いた体制でこちらをしっかりと見据えて。

地を駆り、獣のような速度で私は近づいて。
狙うは半身。出来るならば致命傷となり得る脇腹辺りに当たればいいなと、出刃を構え。
そして私達の影は交差する。

「……ふぅ、やっと一撃かぁ。長いねぇ」
「あっちゃちゃ!貰っちゃいましたね!ミスったなぁっ!」

結論から言えば、私の一撃はバディの身体……左腕へとヒットした。
といっても、深手になるようなものではなく。あくまでも浅く切っただけのもの。
しかしこれで色々と分かったこともある。
……手応えが全然違ったねぇ。人の身体にしては堅かった・・・・

目に見えていないだけで彼女は何かしらの防御系のスキルを使っている。
それが【ゲイン】からアジャストされたものか、【狂画家】特有のスキルなのかはわからないが。
しかしながら、スキルを使っていることが分かったならばこちらのものだ。

ここからの戦いはただの、結果が見えた蹂躙劇でしかない。


ゾンビスポーナーの肉塊を喰らい、彼女が身動きをとれないようにしながら。
私は取り出した【解体丸】によって堅い皮膚を削いでいく。

「ぐっ……!CNVLさん狂ってるとか言われません!?」
「あは、よく言われるよ」

五体満足でありながら、彼女は動けない。
赤黒い何かが手足に絡みついてその場に固定しているからだ。

すぐに腕を切らない理由としては、簡単で。
単純に彼女の防御力が高すぎて刃が入っていかないためだ。

「面白いなぁ。君これ、血をスキルの対象にしてるんだろう?しかもこの堅さってことは……系統はDかな。いやはや、防御系と戦うのはこれで2度目だけど奥が深いな」
「はぁ……!」
「私もすぐに楽にしてあげたいんだけどね?でもここまで刃が入らないんじゃあ仕方ないじゃないか。それに君もスキルを解いてくれないしね。あぁ、困った困った――」

そう言いながら、彼女から削いだ皮膚を喰らう。
【祖の身を我に】が発動し、視界の隅にバフが表れているのが分かるが、今はそこまで関係ないだろう。

「――あぁ、いや。スキルを解かないのは、それが血を操作する系のスキルだからかな。こうして大量に血を流すことによって、油断している私を後ろからこうザクっといくための」

何か後ろに立つような気配があったため、適当にマグロ包丁を後ろへと振るえば。
スライムを切ったような感覚と共に、液体状の赤い何かが弾けて消えていった。

「うん、ビンゴ。……さて、質問をしようか」
「……質問ですか?」
「あぁ、質問さ。それ以上でもそれ以下でもない。単純に聞きたいから聞くんだけど……君は、目に刃物を入れられて耐えられる人間かな?」
「は?ぁ?!」

彼女の呆けた顔、その中に存在する目玉へとマグロ包丁を突き入れようとする。
が、しかし。思った以上に堅く、刃が入ってはいかない。
刃先だけが刺さっているのか、どうにか入っていかないかとぐりぐり力を無理やり入れているからか、彼女の叫び声が誰もいない駅前へと響き渡った。
彼女の瞳からは涙が溢れ始めた。

「痛みはないだろう?でも怖いだろう?いやだろう?圧迫感はあるだろう?楽になる方法は一つだぜ?」
「……ッ!」
「だからそれは……って、おぉ。これは予想外」

再度血を操ってくるのかと思いきや。
彼女は自身の眼球から伝う涙を操り、攻撃をしてきた。
咄嗟に片手に持っていた出刃で防いだものの、ガキンという音と共に重い衝撃が伝わってきたため、喰らっていたら危なかったかもしれない。

「成程、血だけじゃなく涙も……この分だと体液が対象なのかな。興味深いね。今度区画で会ったら色々話をしようか」
「嫌ですねっ!」
「そうかい、それは残念だ。では、また」

力を再度かけると。
彼女がスキルを解除したのか、それとも元から限界だったのか。
刃がパキュッという小気味いい音と共に彼女の頭の中へと入っていき、急速にHPを減らしていった。
そしてそのまま身体を光へと変え、消えていく。

--System Message 『CNVL選手の勝利です。転移しますので今暫くその場でお待ちください』

システムメッセージが表示され、私が勝ったことが分かった瞬間。
その場に座り込んだ。

「あぁー……疲れた。柄じゃあないねぇ、こういうの」

第二試合、終了。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

セルリアン

吉谷新次
SF
 銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、 賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、 希少な資源を手に入れることに成功する。  しかし、突如として現れたカッツィ団という 魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、 賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。  人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。 各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、 無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。  リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、 生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。 その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、 次第に会話が弾み、意気投合する。  だが、またしても、 カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。  リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、 賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、 カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。  カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、 ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、 彼女を説得することから始まる。  また、その輸送船は、 魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、 妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。  加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、 警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。  リップルは強引な手段を使ってでも、 ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~

霧氷こあ
SF
 フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。  それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?  見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。 「ここは現実であって、現実ではないの」  自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...