Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 12

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--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 5F
■【食人鬼A】CNVL

切って、潰して、穿って、溶かして。
剣を避け、蹴りを避け、掴みを避け。
そこに言葉はなく、唯々お互いを殺し合うだけの獣達しかいなかった。

笑いながら手に持つ得物を振るい。
時に肉を喰らいながら、目の前のボロボロの相手を喰らうために死力を尽くしていく。
シェイクスピアのHPバーは既に1本を切り、残りは4割程度。
順当に削っていければ何とか勝てるといった所だろう。

しかしながら、こちらはこちらで満身創痍。
私は回復用の腐った肉片が尽き、うちのパーティの回復役でもあるマギの薬を作り出すためのリソースももうそこまで残っていないとのこと。
更に一方的に攻撃を与えすぎたからか、時々ではあるが私からハロウへとヘイトが移ることが増えてきている。
メアリーはメアリーで、矢の残数が少なく。攻撃用や妨害用のアイテムを作り出しては消費するというジリ貧な戦い方をしていた。

自然と舌打ちが漏れてしまう。
あと一歩、何か手さえあれば勝てるというのに。

「ッ!ハロウ!そっちにまたヘイト行った!」
「りょう、かいッ!ッとォ!」

そんなことを考えていたからだろうか。
再度シェイクスピアはハロウの方へと向かって、手に持つ金の剣で攻撃を加えようと接近を開始した。
私の攻撃チャンスでもあるこの状況は、ハロウが死ぬかもしれない可能性が高いとも言えるのだ。

無防備に私に背中を晒した彼に駆け足で近づいて。
何度も切りつけたからかボロボロとなったその背中を出刃包丁で何度か切っていく。
しかしシェイクスピアはこちらへと振り返ることすらせずに、ハロウへ向かって歩いていく。
何かおかしい、そう思いハロウの方を見れば。

彼女は笑ってこちらを見ていた。
その顔は、どこかこちらを挑発するように。ソレを見た瞬間に彼女が何をやっているかを悟り、私も笑う。

「……あはっそういうこと。それならいいぜ、やってやる。それまで耐えろよリーダー!」

敵モブのヘイトを集めるスキルである【虚言癖】。
それを自身にヘイトが向いた瞬間に使用したのだろう。
何故?理由は簡単だ。

この状況を打開するため以外に他ならない。
区画順位戦の時のナイトゾンビとの戦いのように、このパーティの攻撃役である私をフリーにするために。
彼女は自分の身体を売ったのだ。恐らくはこれまでの貸しを返す意味合いもあるのだろう。

私は出刃包丁を逆手に持つと、再度無防備なその背中に向かって攻撃を加え始める。
今度は、刺すように。
ボロボロの鎧を壊すように、力任せにガンガンと叩くように刺していく。

それを見たメアリー、マギの後衛組も同じように背中へと攻撃を集中させていく。
私に当たらないように、私が壊しやすいように。
……やろうとしていることを分かってもらえてるのはありがたいなぁ!
それを見て、より一層笑みを深くする。


やがて、その時がやってきた。
シェイクスピアのHPは残り2割。ボロボロだった鎧は今にも壊れそうなほどに傷ついており。
しかしそれを気にすることなく、今もハロウへと攻撃を加えている。
ハロウはハロウで、巨大なハサミを盾のように使いながら金の剣を防ぎ、逸らし、時に挟み潰して何とか耐えているという状態だった。

食人行為が出来ていないために、私の自己強化スキルは全て切れている。
マギからのバフも今はほぼないようなもので、ほぼほぼ自分の力のみで出刃包丁を振り上げ。
先程からと同じように突き刺したときに、それは起こった。

ピキ、という何かが割れるような音と共に。
シェイクスピアの着る鎧に罅が入り、それが瞬く間に全身へと広がったかと思えば。
彼の来ていた鎧が光となって消えていった。

一瞬何が起こったのかが分からず呆けてしまう。
が、しかし。防御力が欠片もなさそうな白いシャツが見えた瞬間に、私の中の何かが弾けた。

「いただき、ますッ!」

本当の意味で無防備となったその背中へと出刃包丁を刺し入れ、捻るようにして引き抜いた。
赤色の血が溢れ、シェイクスピアの叫び声が木霊する。
刃に付いた血液を指で掬い取り口に含みながら、私は再度シェイクスピアへと攻撃を開始する。

今度は刺すのではなく削ぐように。
背中だけではなく、足も、腕も、肩も、こちら側から刃を入れられる部分全てを削ごうと。
削いで自分の食糧にしようと刃を動かしていく。

そして一口。
彼の悲鳴をBGMに、彼の肉を口に含み飲み込んだ。
瞬間、今まで発動していなかった自己強化スキルが全て再発動する。
それと共に、金色の剣が虚空から出現した。【祖の身を我に】によるものだろう。

金色の剣を左手に、血によって赤く染まった出刃包丁を右手に持ち。
相手の肉を喰らい、血に塗れながら笑う姿は。紛う事なき【食人鬼】の姿だった。


程なくして、シェイクスピア食料は全て彼女の腹の中へと納まっていった。
最後には光へと変わってしまったが、喰われながら逝く地獄を味わったのだ。
彼の意識的には、意味合いはそう変わらないだろう。

-【劇場作家 シェイクスピア 完全体】を討伐されました-
-MVPが選出されました:プレイヤー名 CNVL-
-撃破報酬、およびMVP報酬が配布されます-
--System Message 『称号【本当の娯楽を知った者】を獲得しました』
--ALL System Message 『【劇場作家の洋館】Hard modeが攻略されました。これにより本日18時、只今より3時間24分後に第一回大型アップデートを行います。アップデート中、1時間程度ログインできない状態となるため、作業中のプレイヤーは注意してください』

「か、勝ったぁ……」
「あは、お疲れハロウ」
「貴女もおつかれさ――いや、疲れたの?良い笑顔でさっきまで食べてたじゃない」
「失礼な、私だって疲れているさ。ただ予想以上に彼の肉が美味しくてね。腐った味しかしなかった今までとは大違いだよ」
「ふぅん、ちなみに現実だと何の肉に近かったの?」
「そりゃ人肉さ」

そんな会話をしていると、メアリー達がこちらへと近づいてきた。
彼女らの顔にも疲労の色が色濃く出ており、今回の戦闘がかなり厳しいものだったことが分かる。
……やっぱり、どうにかしないとなぁ。武器。
思ってしまうのはやはり、自身の武器の事だろう。

私が新しく武器を手に入れてさえいれば、もしかしたらもっと楽に戦えていたかもしれないと考えてしまう。
終わったことを悩んでも仕方ないとは分かっているのだが、頭が勝手に考えてしまうのだ。

「そういえば、今回もMVPだったんでしょ?CNVL」
「ん?あぁ、そういえばそうだね。開けてみようか?」

私はインベントリから【劇場作家H MVP報酬】と名のついたアイテムを取り出す。
すると、片手で収まる程度の大きさの箱が出現する。
以前もハロウが開けていたのを見たことがあったが、自分で使うのは初だった。

「じゃ、開けるぜ」

箱を操作し、開封する。
するとだ。

--System Message 『The McDuff』を入手しました。

ーーーーーーーーーー
The McDuff 武器:片手剣
装備可能レベル:7~
効果:人型モブに対して+3%のダメージボーナス
説明:その剣は、血に濡れて。
   復讐を誓った男は、今歩き出した。
   『――Foul is fair and fair is foul.』
ーーーーーーーーーー

出てきたのは、刃が赤黒い片手剣だった。
扱いやすい大きさ、重さでこのまま使っても十分なものだった。
しかしながら。

「うーん」
「いいじゃない、剣。何か不満でもあるの?」
「いや、不満はないんだけどねぇ……剣は剣だろう?食事用には向かないなぁって思ってさぁ」
「……あぁ、そういう」

そう、食事用に切り分ける際には片手剣では些か大きすぎるのだ。
それに加え、私はここまで出刃包丁で戦闘をしてきた経験がある。
【祖の身を我に】で出現する一時的なものであるならいいのだが、常に使うものと考えると……今まで使っていたものとコレでは多少どころかかなりの違いがあるのだ。
そんなことを考え頭を捻っていると、メアリーがおずおずと話しかけてくれた。

『もしよかったら私がそれ使って包丁とか作ろうか?(´・ω・)』
「ん?いいのかい?」
『うん、いつも前で頑張ってもらってるし。材料費は持ち込みってことで今回は大丈夫だから見積もり出すよー(゜д゜)!』
「了解、じゃあ任せるよ。いやぁ楽しみだ」

【加工師】という、恐らく現状いる生産系プレイヤーの中ではトップに近いであろう人物に武器を作ってもらえる。
どうなるかは分からないが、自分で作るよりも良いものになる可能性が高いために期待してしまう。

そんな話をしながら、休憩をして。
ある程度落ち着いた後に、私達はダンジョンから帰還した。
今回もハロウ達に気付かれないように称号を設定していたためか、すぐに周囲にいたプレイヤーに気付かれて質問攻めにあったのはまた別の話。


ーーーーーーーーーー
PLName:CNVL Level:8
【犯罪者】:【食人鬼A】
所属区画:第二区画 デンス

・所持スキル
【あなたを糧に生きていく】、【人体蒐集家】、【祖の身を我に】、【アントロポファジー】、【暴食本能】

・装備品
出刃包丁、The McDuff、平凡な囚人服【上】、平凡な囚人服【下】、【革造りの網】

・称号
【第二区画所属】、【娯楽を解放した者】、【本当の娯楽を知った者】
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