Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

文字の大きさ
上 下
38 / 192
第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 10

しおりを挟む

--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 5F
■【食人鬼A】CNVL

変化は突然だった。
何か、ガラスが割れたような音がしたかと思えば。
見ている景色ごと変わっていく。

私達の落ちていっていた場所は、何かの図書館のように。
暗かったはずの周囲には、空を飛ぶ洋灯によって闇を掃われ。
そして何より、1人。何者かが、私達の方を見て拍手をしていた。

彼へと向かって、私達は落ちていく。
先程までのようにループはしないようで、このままでは床に激突してしまうだろう。
どうにか受け身、衝撃を出来るだけ無くす方向で着地できるかを必死に考えることにする。
……ハロウもこのまま一緒に落ちようか。この子、まだ目瞑ってるし。

本来ならば、ハロウに助けを乞いながら、どうにか策を考えたい所なのだが。
落下するのに恐怖を覚えている人間に対し、着地の為の策を考えさせるのはあまりに酷だろう。
私は溜息を吐きながら、スポーナーの肉塊を取り出した。

『いやはや。割とすぐに抜けてきたのは驚きだ。気付くとは思ったけど、やっぱり構成が型にハマってるのが一番の理由かな』

何やら聞こえるように喋ってくれているが。
生憎とこちらにはそれに対応する暇がない。

スポーナーの肉塊を喰らい、スキルを発動させ。
その結果、私の身体から赤黒い何か達が落ちていく。
私の身体から出てきたものなのに私より重いのか、少しだけ先に落ちていくそれの直上を確保し。
そしてそのまま図書館の床へと落ちた。

先に落ちたそれらは水音を含んだ落下音を響かせつつも、私とハロウの身を落下の衝撃からクッションとなって守ってくれた。
しかしながら、それも完全というわけではなく。
2割ほどのHPが持っていかれてしまった。

「あ、アレ?浮遊感が……」
「ほら、ハロウ。そろそろ目ぇ開けて。着いたから」
「着いたって……あぁ、なるほど。ごめんなさい、取り乱したわ」
「あは、多分マギくんかメアリーちゃんが録画してると思うから今更取り繕っても遅いぜ?」
「なっ……!」

わなわなと震えだしたハロウを放置し、私は出刃包丁を手に握りながら、目の前に立つ西洋貴族のような恰好をした男へと話しかけることにした。
恐らくだが、アレがここの主なのだと、半ば核心近い考えをもって。

「で?貴方を殺せばいいの?」
『はッはッは、思っていたが中々良い子じゃあないか!そうだろうよ我が作品子供達!』
「……ムービー、ではないか」

ちらりと近くに落ちてきたマギ達の様子を確認する。
どうやらこちらはクッションのようなものの生成が間に合わなかったのか、私達よりもダメージを受けているようで。
現在回復中、まだまだ行動を開始するには時間がかかりそうだった。

ハロウはもう少し、現実を受け入れるための時間が必要なのだろう。
まだ目を開くことなく何処かを見つめるようにして座っていた。
何故か哀愁漂うそれを放置し、突然笑い始めた男へと目を向ける。

『んんっ!失礼、お嬢さん。久々にこの姿と成れたものでね。あぁ、感謝しよう。君たちのおかげで、私はここへと落ちてこれた』
「……落ちて、ってことはつまり」
『そう!私が、私こそがシェイクスピア!【劇場作家 シェイクスピア】!君たちの糧となる者!君たちの前に立ちはだかる者!!』

-【劇場作家 シェイクスピア 完全体】-

名前が出現し、彼の頭上には3本のHPバーが出現した。
私以外が動けないこの現状での、戦闘開始だった。



金の一閃を、紙一重で避ける。
自分でバフを掛けて、それでやっと避けられるレベルの速度で放たれるそれは、4Fに出てきたシェイクスピアと同じように金の剣を虚空から取り出した彼による攻撃。
しかし前回とは違う点がちゃんとあって。

未だハロウは何かをやっているようで動けない。
マギとメアリーはもう少しで準備が終わるのか、ガチャガチャと何かをやっている音が聞こえている。
そして一番の違う点。それは今私が相手にしている彼自身だ。

一見したらNPCかと思ってしまうほどに、ゾンビとは思えない人間のような姿となった彼は、その容姿に相応しい知能まで備わっていた。
こちらが攻撃しようとすれば、それを察知した瞬間に防御態勢にはいり。
彼の攻撃の中にはフェイントらしきものも含まれている。
今は何故か私だけしか狙われていないが、恐らくはマギ達が参戦した場合、そちらを優先的に潰そうとしてくる可能性だって考えられる。

そんな彼に一撃入れようと、私は出刃を握りしめて。
本当に近くにいるシェイクスピアへと薙ぐように振るった。
しかしながらひらりと避けられ、逆に一撃喰らいそうになる。
何とか横に飛び避けた私に対して、彼は追撃をしようとして、剣を止め。
何かを切り払うように虚空へと向かって振るった。

ガキン、という音と共に何か棒のようなものが落ちるのが見え。
それがメアリーの使うクロスボウによる支援だという事が分かった。

『ごめんね、お待たせ!(゜д゜)!』
「バフかけます!ハロウさんに関してもこっちに任せてもらって大丈夫です!」

マギによってバフがかけられ。身体が軽くなる。
反撃開始だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セルリアン

吉谷新次
SF
 銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、 賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、 希少な資源を手に入れることに成功する。  しかし、突如として現れたカッツィ団という 魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、 賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。  人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。 各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、 無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。  リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、 生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。 その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、 次第に会話が弾み、意気投合する。  だが、またしても、 カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。  リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、 賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、 カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。  カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、 ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、 彼女を説得することから始まる。  また、その輸送船は、 魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、 妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。  加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、 警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。  リップルは強引な手段を使ってでも、 ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~

霧氷こあ
SF
 フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。  それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?  見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。 「ここは現実であって、現実ではないの」  自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...